10話 模擬戦 中編
10話 模擬戦 中編
「お前の入学試験における結果は聞いているぞ。過度な手加減をするつもりはないから、お前も本気でかかって来い」
「分かりました。そのように」
ハインツ教官はロングソードで闘うみたいだ。
俺は使い慣れているショートソードを選び、盾は使わないことにした。
まぁ必要ないだろう。
「ロイ君! 頑張ってね!」
メルケスが心配そうに声をあげている。
開始の合図を行い、審判を行うのはイゴールだ。
「それでは、はじめ!」
先手は譲ると言わんばかりに、ハインツ教官は悠然と剣を構えてその場を動かない。
では、お望み通りにこちらから動こうか。
俺は力強く床を蹴ってハインツ教官の懐へ飛び込んだ。
そして飛び込んだまま、その慣性を利用して刺突を試みる。
「なっっ!?」
咄嗟に俺の剣を弾こうとしたハインツ教官だったが、むしろ弾き返されたのは彼の剣だ。
すかさず剣を首元へあてがったところで、試合終了の号令がなされた。
「そ⋯⋯そこまで! 勝者、ロイ!」
周囲のクラスメイト達を見ると、みな一様に驚愕の表情を浮かべている。
⋯⋯訂正するとカヤ以外の全員だな。
それもそうだ、入学したての生徒が元Aランク冒険者の教官を倒すなんて中々ないのではないだろうか。
「お、おい。お前は一体何者なんだ⋯⋯」
未だ驚き冷めやらぬといった表情のハインツ教官が俺に聞く。
「何者って言われましても⋯⋯。田舎者ですかね?」
この上なく雑な返事だが、自分が何者なのかなんて聞かれてもなんて答えたらいいのか分からないしな。
「まさか教官を倒しちゃうなんて⋯⋯。ロイ君って凄いんだね。こんな僕と比べるのもおこがましいや⋯⋯」
メルケスだ。
元気が出たり無くなったり、まったく忙しない奴だな⋯⋯。
そんなこんなで、前衛タイプの模擬戦は全て終わった。
今一度、後衛タイプに参加する人を確認すると
・ロイ
・ラフィーナ(エルフ女子)
・メルケス(スミス商会社長子息)
・アルヴェン(子爵家子息)
・ルナ(公爵家令嬢)
・テミス(王太子家令嬢)
・イゴール(侯爵家子息)
「う、うむ。気を取り直して後衛タイプの模擬戦に入ろう。初めはアルヴェンとイゴールだ」
「なんだか凄いものを見せられちゃったね。でも、魔法ではどうかな?」
とはイゴールだ。
自信ありげだけど、剣より魔法の方が得意なのかな?
「お前ってなんというか、凄い奴だったんだな。おかげで緊張がどっかいっちまったよ」
こうしてなんだか浮き足だった状況の中、模擬戦が再開された。
「見学の者は距離をとるように。もし使用可能だとしても、上級以上の魔法は禁止だ。それでは、はじめ!」
「"
先手をとったのはイゴールだ。
火矢は火属性の中級魔法であり、その名の如くスピードと殺傷能力が高い魔法だ。
模擬戦とはいえ、かなり危険ではあるな。
しかし、アルヴェンの方も特待クラスに選ばれるくらいだからな。
これくらいなら問題は無いと思う。
「"
イゴールの放った火矢はアルヴェンの中級防御魔法によって打ち消された。
本来、
だが、さすがに相性差があるな。
続けてアルヴェンが反撃に出た。
「"
アルヴェンの頭上に水属性下級魔法が4つ同時に展開され、イゴールに放たれた。
「"
イゴールは先ほどアルヴェンが用いた水壁の風属性版魔法で、アルヴェンの魔法を防いだ。
しかし、攻撃を防がれた当のアルヴェンは不敵な笑みを浮かべている。
「"
アルヴェンは雷属性の魔法を、自分の足元の少し先の床へと即座に放った。
「ぐっ⋯⋯」
アルヴェンが狙ったのは、
そして床の水はイゴールの元にまで届いている。
イゴールは防ぐ隙もなく感電させられたという訳だ。
「そこまで! 勝者アルヴェン!」
突然の試合終了の号令に戸惑い、納得できない様子のイゴール。
「そんな! 少し攻撃をくらっただけではありまへせんか!」
そう、イゴールは攻撃を受けたものの、大きなダメージを負ったという訳ではなかった。
身体の周囲に防御魔法をかけておいたのだろう。
「魔法使い同士の模擬戦は止めるタイミングが難しい。まぁ、今のはアルヴェンの作戦勝ちってところだ」
それもそうだな。
一歩間違えると大怪我をしてしまうかもしれないし、安全を考慮したハインツ教官の判断に間違いはない。
「どうだロイ! 俺も中々やるだろ?」
帰ってきたアルヴェンは、したり顔で俺に自慢してきた。
「おう。機転のきいた素晴らしい攻撃だったと思うぞ」
そんな俺達を横目に萎えている男が1人。
「はぁ⋯⋯。みんな凄いなぁ」
こいつ、模擬戦が進めば進むほど落ち込んでいってるな。
「落ち込んでる暇あるのか? 次はお前の番だぞ」
メルケス対テミスの模擬戦は一瞬で片がついた。
だが、この一戦に関してはメルケスが弱すぎたのではなく、テミスが強すぎたと評価するべきだと思う。
テミスが放った魔法は"
まぁ、浮遊魔法で受け止めておいたし、聖属性魔法は本来はアンデッドに対して使われるもので物理ダメージを伴わないので大した怪我は無いはずだ。
それに、聖属性はその修得の難しさから使い手の少ない魔法の属性なんだが、テミスは完璧に使いこなしていた。
魔法が放出されるまでのスピードやその威力は、一流の域に達していると言っても過言じゃない。
「おーい、起きろ〜」
「⋯⋯ん。あぁ、ロイ君か。死ぬかと思ったよ」
メルケスが目を覚ますと、テミスが近づいて来た。
「怪我はありませんか? 貴方は戦闘が得意ではないと聞いてはいましたが、あまり手を抜く訳にもいかなかったので⋯⋯」
長い金髪を耳の後ろにかけながら、心配そうにメルケスに顔を近づける。
「は、はい! 大丈夫です! 全く問題ありません!」
メルケスが顔を真っ赤にするのも無理はない。
テミスが非常に整った顔立ちをしているからだ。
しかし、彼女は王太子家の者。
少なからず、俺と血の繋がりがあるってことだ。
下手にこちらから関わることもないだろう。
そう思い、その場を離れようとすると俺の気持ちとは裏腹にテミスが話しかけてきた。
「あの、貴方にはお聞きしたいことがあります。宜しければ、後で少しお話をしましょう」
⋯⋯まさか俺の正体に気付いたなんて訳じゃないだろうからな、まぁ問題ないか。
「あぁ。分かった」
「おいお前ら。無駄話はそこまでにして、模擬戦を続けるぞ」
ハインツ教官からのお叱りを受けたことで、テミスは俺達から離れていった。
「僕も可愛いお嬢様から放課後に呼び出されたいなぁ⋯⋯」
もうこいつのことはしばらくの間、放っておこう⋯⋯。
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