8話 爆売り
8話 爆売り
入寮の手続きを済ませた後、俺は足どり軽く冒険者ギルドへ向かった。
「こんにちは。冒険者登録ですか?」
「はい。これが生徒証明書です」
俺が手渡した証明書を見て驚いた表情を見せた受付のお姉さん。
「本来、冒険者登録をするには試験を受ける必要があるのですが、特待クラスの生徒さんはギルドの規定で試験が免除されます。また、登録料についても免除されます。さっそくですが、ここに必要な情報を記入してください」
試験を免除してくれるというのは楽で助かるな。
さすがは特待クラスといったところか。
とりあえず、パパッと書いてしまおう。
「書き終わりました!」
「⋯⋯承りました。では今からギルドカードを裏で作成している間、冒険者についての説明をさせていただきますね」
記入内容に間違いがないか確認してから、受付のお姉さんは説明を始めた。
お姉さんによる説明をまとめると
・冒険者ランクはEからスタートして最高はS
・クエストにはそれぞれランクが割り振られ、自分のランクから見て上下1ずつのランクまでを受注できる
・魔物にはその危険度に応じてランクが割り振られており、冒険者ランクが目安になる
・冒険者ランクはクエストの成功やその他の功績を鑑みてあげてもらえる
・魔物の素材を売りたいときに買い取ってくれる商会について
・魔物の討伐を証明する部位について
・緊急時にはギルドから召集がかかる場合があり、応じないと冒険者資格を剥奪されることもある
といったところだ。
「では、ギルドカードをお渡ししますね」
お姉さんはそう言って受付の奥へ取りに行った。
帰ってきたお姉さんの両手には布が乗せられており、更に布の上にカードが乗っている。
「はい。これがギルドカードになります。最初にこれを手に持った人の魔力が記録されるので、他者による悪用防止にもなります」
そんな仕組みになっているのか。
凄い技術だな。
カードを受け取った俺は受付のお姉さんにお礼を言って、ギルドを後にした。
冒険者登録を無事に済ませたので、これまで貯めまくっていた魔物の素材を売りに行こう。
実は、さっき受付のお姉さんから教えてもらった魔物買取の商会にスミス商会があったので、店の場所を教えてもらったのだ。
店員の人に俺がメルケスのクラスメイトだと言っておけば、とりあえず素材を買い叩かれることなどはないだろう。
***
「すみません。魔物の素材を売りたいんですが」
受付で出迎えたのは、俺と同年代くらいの女の子だ。
「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドのギルドカードを提示してください!」
「はい。あの、実はメルケス君からこの商会のことを聞いてきたんですけど、メルケス君はいますか?」
ちゃっかりアピールしておくことは忘れない。
「坊っちゃまのお知り合いでしたか! 坊っちゃまは基本的に大口の取引などの業務を行われているので、ここにはいないのです!」
「そうでしたか。実は魔物の素材が大量にあるんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ! それでは素材の査定場所までご案内します!」
俺が案内されたのは、商会を出てすぐ隣にある広々とした建物だった。
素材が傷まないように、氷魔法が付与された魔道具をいくつも置いて室温調整がされてある。
この広さなら問題なさそうだな。
俺はマジックバックから大量の素材を必要になるものを除いて次々に取り出した。
その数は1000を軽く超えており、中にはドラゴンなどSランクの魔物の素材も多数ある。
「あ、あの⋯⋯。これ全部あなた様が? 一体どうやって⋯⋯」
俺を案内してくれた受付の女の子と、この建物の職員らしき人が絶句している。
無理もないだろう、普通は15歳の少年が売りにくる魔物の素材なんてゴブリンやコボルトみたいな低ランクの魔物を数体って感じだろうからな。
「はい。全部買い取ってもらえますかね?」
たとえ全部は無理だとしても、少しは多めに買い取ってくれるだろう。
なんたって、こっちは社長の息子のクラスメイトだからな。
メルケスの顔に泥を塗るようなことは避けたいはずだ。
「⋯⋯査定にかなり時間がかかりますが、全て買い取らせていただきます」
まるで夢でも見ているかのような虚ろな表情で答える受付の女の子。
しかし、これだけの量を一度に買い取ってくれるとは、さすがは大商会だな。
「では、今から用事があるのでそれが終わってから取りに来てもいいですか?」
「は、はい⋯⋯。そうしていただけると助かります。他の店舗から人員とお金を至急集めて、できる限り早く終わらせます⋯⋯」
なんだか悪いことをしてしまったな⋯⋯。
まぁ今回は数年分のストックだったし、今後はちょくちょく売りにくるから問題はないだろう。
***
スミス商会が素材を全て買い取ってくれると聞いて満足した俺は、意気揚々と先ほど離れたばかりの冒険者ギルドへまた向かっている。
ターナと待ち合わせをしているからだ。
ギルドの中へ入ると、待合所でターナが座っているのが見えた。
「よっ! 登録は済んだか?」
「あ、ロイ君! 学校お疲れ様! こっちは済んだけど、素材の方はどうだった?」
「実は同じクラスに大商会の社長子息がいてな。全て買い取ってくれるってさ」
「そうなんだ! 良かった良かった!」
「訓練が終わってから代金を受け取りに行く予定だけど、来るか?」
「もちろん!」
それからクラスメイトはどうだったとかどの授業を受けたいとか、そういった他愛もない話をしながら例の空き地へと向かった。
***
「よし、今日はここら辺にしとくか」
俺がそう言うと、ターナは訓練用の木刀を置いてへたり込んだ。
「疲れた〜〜。こんな訓練をもっと小さい頃から毎日やってたなんて、ロイ君はやっぱり天才だよ!」
今日は昨日よりも少し気合を入れた訓練メニューにしてみたから、さすがのターナも疲れ果てたみたいだな。
確かにかなり長い時間、頑張っていたからな。
昼過ぎに訓練を始めたのにもう夕方に差しかかっているくらいだ。
「少し休憩したらスミス商会へ向かうぞ〜」
「イェッサー!」
いつの間にか返事のレパートリーが増えてるな⋯⋯。
***
「すみません。さっき魔物の素材を売りにきた者ですけど、もう精算は終わりましたか?」
店の中に入ると、さっきと同じ受付の女の子がいた。
「は、はい! つい先ほど終わりました! ですが、さすがに代金の全てをすぐにご用意することができなかったので、分割での支払いでもよろしいでしょうか?」
申し訳なさそうに話す少女。
「全く問題ないです! それより、迷惑かけちゃってすみませんね⋯⋯。次からはこまめに売りにくるのでご容赦を」
「いえいえ! 正直、素材自体はどれも貴重なものや高品質なものばかりでこちらも助かりました! それでは明細と今回の分のお支払い白金貨100枚をお渡しします」
結果として、代金は総額で白金貨1000枚ちょっとになった。
地代の高い王都であっても豪邸が建てられるくらいの金額だ。
多少は羽振りの良い生活をしても一生暮らしていけるくらいの金持ちになってしまったな。
ターナは白金貨を見て目を輝かせている。
これから色々と金が入用になるからな。
これだけの大金が手に入れば色々とやりたかったことを実現できるぞ。
俺は代金の入った大きな袋を抱えて、ターナと共にギルドを後にした。
もちろん、その袋は人目のつかないところですぐにマジックバッグに入れている。
「よし! 寮に帰るか!」
「そうだね! 明日も朝から学校だし、今日は疲れたから早めに寝たいかも!」
実はターナも寮へ入ることになったのだ。
しばらくは俺が費用を負担するが、ゆくゆくは冒険者としての活動で稼いだお金で賄うつもりらしい。
その程度なら俺が全額負担すると申し出たのだが『ロイ君は金銭感覚がおかしい』と怒られてしまい、こうなった。
訓練終わりにターナを家まで送ってから帰るのは大変だから、正直言って俺も助かるな。
ちなみに、寮費は月に銀貨2枚で寮母さんが毎日1日3食ごはんをつくってくれるというかなりの格安になっている。
寮は学校の敷地内にあるから移動も楽だし。
この学校って本当にびっくりするくらい敷地が広いんだよな。
「なぁ、レコルさんの店で買ったターナの剣だけど、一度預かってもいいか? 明日の朝には返すから」
俺はそう言って、それぞれの寮へ帰る前にターナから剣をもらっておいた。
そして、夜中までとある作業に勤しむのであった。
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