13)「冒険者ギルド便り」人気受付嬢ニーナさんインタビュー!

 本誌を購読されているのは冒険者ばかりだと思うので、今更【冒険者協会】に触れる必要はないかと思いますが、念の為ご説明いたしますと、冒険者協会は国家を跨いで全ての冒険者情報を統括している巨大組織です。

 その規模はどんな国家軍勢よりも大きいため、冒険者協会の権利に手出しする無謀な国は存在しません。


 そんな冒険者協会の下部組織が【冒険者ギルド】です。


 冒険者は必ずどこかのギルドに所属する、もしくは自分で設立することになりますが、やはり大手ギルドは人気も高く入団する関門も高くなります。


 月刊迷宮ウォーカーでは、様々な冒険者ギルドの顔役、つまり受付嬢の皆さんをピックアップし、魔術写真も多めに掲載してご紹介致します!


 初回を飾る受付嬢は、アルエス王国の王都マンディラに本拠地を構える銀等級の冒険者ギルド【黄昏色の三本槍】に所属しているニーナ嬢です。


 陽光に輝く銀髪は肩あたりで綺麗に揃えられ、半顔を隠すようにたれた前髪の間から見える金色の瞳が妖艶で、まるで心の奥底まで見通されているようです。

 すらりとした立ち姿も美しく、立ち仕事で鍛えられているお御足は、決して筋肉質ではなく、女性特有の優美さを備えられています。

 彼女が王都を歩けばどんな男でも振り返り、彼女の制服姿を見て憧れを抱く女性も多いとか……。


 ニーナ嬢はこのギルドの受付で一番の人気を博しています。


 その人気の秘密は、見た目の麗美さは勿論ですが「冬女帝」と呼ばれるほどクールな対応をすることにあるようですが、果たしてその実態は!?


 ニーナ嬢にグイグイ食い込んでインタビューしてくれたのは、三等級冒険者のダークインフェルノさんですが……皆さん、頂ければ幸いです。





 ───というわけで月刊迷宮ウォーカーの特派員、ダークインフェルノだ。宜しく頼む。


「いや……あなたはうちのギルド所属の冒険者じゃないですか。私のことなんて嫌ってほど知ってますよね? それにまだダークインフェルノなんて名乗ってるんですか? あなたはジョンっていう平凡なお名前なんですよ? ギャップが大きすぎます」


 ───いやいやいや、なんにも知らないで話し進めてくんない? それとダークインフェルノは二つ名だから! 突っ込まないで!


「二つ名は自称するものではありませんよ。……と言うか、ギルドを通さずにその仕事を受けてません? ギルド規約に違反してますけど?」


 ───ばっ、ちょっ! ちがっ! これ、冒険者の仕事と関係ないし! 冒険者稼業とは違う副業はOKってギルド規約に書いてあっただろ!


「まぁ……大目に見てあげましょう。その代わり、私の紹介記事は良く書いてくださいね」


 ───いやこれ自動筆記の魔術で勝手に記事作られちゃうから、言ったこと全部載るよ……。


「なるほど?」


 ───なにその悪い微笑みは


「冒険者ギルド【黄昏色の三本槍】にようこそ。お仕事の依頼でしょうか? それとも当ギルドへの加盟申請でしょうか?」


 ───いまさらしたたかすぎない?


「あなたもダークインフェルノ(笑い)のキャラが崩れてますよ?」


 ───おっと、いかん。とにかく取材だ。貴女についていろいろ尋ねさせて頂きたい。


「答えられる範疇なら、なんなりと」


 ───まずは冒険者紳士諸君が最も知りたがっていることから。バストとヒップのサイズを。それと水着か下着でグラビア撮影も……


「あ゛?」


 ───痛っ! 手が出るの早っ! いやだって、質問項目に書いてあるんだもん! オレが聞きたいんじゃないんだって!


「聞きたくないんですかそうですか。てか、いい歳した男が【もん!】じゃないです。そもそもそういう質問は渡来人用語で【せくはら】と言う禁忌ですよ!」


 ───じ、じゃあ身長と体重くらいは教えてもらいたい


「身長は百六十八メトル。エルフ族の女性にしては低い方ですね。体重は乙女の秘密です」


 ───次は薬指のサイズ……って、なんでこんなことを聞きたがるんだ?


「冒険者の中には私に優しくされたと勘違いして求婚してくるマヌケがいますから、きっと勝手に婚約指輪を作って持ってきたいのでしょう。残念ながら仕事で接してるだけなので期待しないでください、と強く強調して書いておいてください」


 ───り、了解だ。


「そもそも、ちょっと仕事上の付き合いがあるくらいで、惚れた晴れたの流れになるわけがないんだと自覚して欲しいですね。好意を持つ以前の問題です」


 ───その侮蔑の視線に興奮する輩が多いらしいが、我は違うぞ? ゴミを見るような目はやめていただきたい


「この【黄昏色の三本槍】はギルマス(編集部:注 ギルマス=ギルドマスターの略称)が、あのアギト・マキシマムさんですから、こういう冷静な対応が常です」


 ───冷静って言うか見下してるって言うか……てか、ギルマスとなんの関係が?


「あの方は冷徹の戒律なので、当然現実主義の成果主義です。そうすると、自然とここに所属するギルド員もそっち方面の戒律の者に偏ってきます。私もそうですし」


 ───だから、それと人をゴミクズのように見下す目線となんの関係が?


「媚びていないという話です。ノータリンな冒険者の男たちは、受付嬢はみんな媚び媚びでニコニコ笑っているものだと勘違いしているようですが。爪先に鉄板入れた安全靴で下から鋭角にキ◯タマ蹴り上げたくなりますね」


 ───話を盗み聞きしているギルドの男たちがタマヒュンしているから、その「冬女帝」の眼差しはやめていただきたい。


「これ、月刊迷宮ウォーカーにちゃんと書いて頂きたいのですが、私達受付嬢が笑顔を見せているのは、コミュ障が多い冒険者達と円滑な対話をするためのテクニックです。演じてるだけです。本心では童貞が服着て歩いているような貴方とは関わりたくもないです」


 ───童貞が服着て歩いたらだめなのか!? てか我限定で言ってる!?


「早く現実の女がどういう生き物なのか知ったほうが生きやすいですよ?」


 ───我、貴女になんかした? 扱い酷くない?


「決して突き放した態度はしていませんよ? 真面目に取材にお答えしているだけですから」


 ───いやいや突き放しているとかいう次元を超えてるけど!? 我、貴女の恨みでも買ったのか!?


「先週」


 ───え?


「貴方、言いましたよね? 週末に我がとてつもなく旨い料理屋に案内してやろうって」


 ───あ……。


「あの時、貴方は偉そうに自慢げに、美味しかった料理のことを、この私に吹き込みましたよね?」


 ───そう言えばそんな事を言ったかもしれませんでございます。


「それなのにいくら待てどもお誘いがなく、おかげで週末は予定が入れられなくて暇で暇で大損でした。恨み言の一つや二つ、言いたくもなります」


 ───いや、ほら、あの時はギルドの依頼で遠方に……って、その依頼を我に渡したのは貴女ではないか!


「余裕で戻ってこれる期日の依頼でしたよね? 戻ってきたのが週明けだった理由は、依頼先の色街でキャバ嬢たちと随分とお楽しみだったせいかと」


 ───ちょっ! なんでその時の写真がここに!!


「冒険者ギルドの情報網を舐めないでください。冒険者協会が世界最強なのは、秘匿された特殊な魔術で世界中に情報ネットワークを持っているからなんですよ。その下部組織の冒険者ギルドのギルマスもそのネットワークに触れますし、私のような上級受付嬢も情報を検索、閲覧する権限があるのです」


 ───いや、えー、とあのですね。あの時は別の冒険者たちに強引に誘われて致し方なく……


「この緩みきった童貞フェイスがばっちり写ったこちらを御覧ください」


 ───……。


「それと、その時の依頼料全部注ぎ込んでも指一本触らせてもらえずにトボトボ帰っているこの写真の後ろ姿は最高ですね」


 ───スイマセンデシタ。ツギハカナラズオサソイシマスノデ、カンベンシテクダサイ。ワレガオオメニシハライマスノデ……


「あ゛? 多め? なにふざけたことを言ってるんですか。全部奢るべきでしょ、そこは」


 ───全部!?


「当然です。約束をすっぽかしたのですから」


 ───と、ところで話は変わるが、貴女は他のギルドの受付嬢と差別化を心掛けていると聞いたが、どういったものなのか?


「誤魔化し方が下手すぎて苦笑いも出てきませんがお答え致します。なんてことはない話ですよ?」


 ───どうぞどうぞ


「他所のギルドの受付嬢は、御存知の通り胸の谷間を見せつけたりミニスカートでパンツをチラチラみせたりして媚び売って仕事させてるでしょう?」


 ───いやそれは凄い偏見……


「私は、いえ、うちの受付嬢たちはしっかり真面目に仕事に取り組んでいるので、そんな格好はしません。色恋を仕事に持ち込まないし、ガチ恋営業とかもしません。私のためにこの依頼を受けて♡みたいな真似するくらいなら舌を噛み切ってやります。相手の」


 ───相手の……


「そもそもですね。他所の受付嬢たちがチラチラ見せてるパンツと思われているものはパンツじゃないんですよ?


 ───えっ!?


「パンツに見せかけてますけど、あれは見せても痛くも痒くもないパンツ風パンツなんです」


 ───ちょっと理解が追いつかないが、なんだそれ?


「自前のパンツを見られるなんて嫌だから、パンツの上にアンダースコート的なパンツを重ね履きしているんです。ほら、これが見せパンでその下のこれが私の自慢のパンツです」


 ───見せんでいい!! ほら、ギルドの冒険者たちがわきわきしてる!! けど見る側からしたらその見せパン?がパンツということで認識しているので、それで事足りているというかなんというか。


「自慢の下着を見せる相手は愛しい人だけですよ? 他所のギルドの冒険者たちは偽物に釣られて危険な仕事をさせられているんです。それに比べてうちはそんなまやかしは使いません。てか、見せませんし」


 ───確かに制服もきっちりしていて隙がないが、今我は下着を見せつけられたような……痛い!! 痛い!! 叩くのやめて!


「私を痴女みたいに言うからです。まぁ、うちの受付嬢に気に入られたいのなら最低でも三等級くらいの稼ぎと実績が必要でしょうね。それと性格。容姿はどうでもいいです。性格が重要です」


 ───普通、自分の外見に自信を持っている受付嬢たちは、釣り合いが取れるように男の見た目を気にしそうなものだが?


「そんなの自分が一番美しいんだから、相手はそこそこ見れるならどうだっていいんです」


 ───そこそこ、とは?


「見た目がオークでもゴブリンでもダークインフェルノでも、ちゃんと一定以上の収入を得ていることは絶対条件ですね。それと、冒険者として成り立たなくなる年齢になっても仕事を絶やさずにいられる技術とコネを持つことも大事です。一生を添い遂げるパートナーなのですから」


 ───しれっと我の名前も入れてるところがキツいけど、現実的なのだな。


「私も冷徹の戒律ですから当然です」


 ───美男子は喰い飽きた、とかでは?


「失礼ですね! そもそも、自分の見た目にばかり気を使っているチャラい冒険者なんてロクなやつがいませんから。任務を終えて血と泥にまみれたままの厨二病でも、笑顔で帰って来る冒険者のほうがよっぽどかっこいいんです!」


 ───そういうものなのか。ってか厨二病関係なくない?


「はぁ……」


 ───おっと。いかん。質問がまだまだあるんだ。受付嬢の立場から、ギルマスのアギト・マキシマム氏をどう思っているのか訪ねたい。噂ではニーナ嬢はギルマスと恋仲なのでは、と。


「はぁ!? そんなわけないでしょ! ギルマスは私と同じエルフ族ですから、見た目はそこいらの種族より抜きん出て良いですが、私のタイプではありません。あくまでも職務上のお付き合いです!!」


 ───そんなに怒らなくても……。で、では、ずばりニーナ嬢が好きな男性のタイプは?


「鈍感バカは大キライですが大好きです」


 ───意味がわからないんだが。


「これが記事になったらわかると思いますよ。生きていられたらいいですね、ダークインフェルノさん」


 ───え、なにそれ怖い。てか、どうしてギルドの男たちが殺気に満ちた眼差しで我を見ているんだ?


「この鈍感バカ……」





 いかがでしたでしょうか。

 取材時の自動筆記を余すことなく掲載いたしました。


 編集長が「私は一体何を読ませられていんだ」と頭を抱えた衝撃の初回インタビューでした。


 ちなみに迷宮ウォーカー編集部では、ダークインフェルノ氏を討伐するチームが編成されましたことをご報告致します。

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