12)「抹茶スライムを食べよう!」

 突然ですが、皆さんは王都でも人気のスイーツ「抹茶スライム」をご存知でしょうか。


 スライムゼリー、スライムうどん、スライムステーキなど、近年爆発的なブームとなり国民食とも呼ばれる「スライムフード」の発祥は、異世界からやってきた渡来人だと言われていますね。

 今でこそスライムは食材として認知されていますが、よくよく考えるとあの気持ちの悪い軟体生物を食べようと考えた渡来人には度肝を抜かされます。彼らは元の世界で一体どんなものを食べていたのでしょうね……。


 今回ご紹介するのは、そんなスライムフードの先駆者として有名な「タイガー屋」さんの新作「抹茶スライム」です。


 タイガー屋さんと言えば、アルエス王国の王都マンディラに本店を構える老舗なので、知らない人を探すほうが大変かも知りません。

 なんせ渡来人から直接手ほどきを受け、その技法を守リ続けて二百年も経っている老舗中の老舗です。王国の辺境はもちろん、他国でもその名は轟いています。


 そんなタイガー屋さんが開発した抹茶スライムとは、一体どんなものなのか。タイガー屋本店に務めて五十年。大ベテランのマダム・ウィステリアさんにインタビューさせていただきました。


 ───本日はお時間いただきありがとうございます。まずは自己紹介をお願いします。


「わたくしはタイガー屋四代目当主、ウィステリアですわ」


 ───大変お美しくお若くていらっしゃいますね


「ほーーーーーーーーっほっほっほっ。これでもわたくし四十を超えておりましてよ?」


 ───え、そうなんですか。まだ二十そこそこかと思っておりました。大変な失礼を。


「ほーーーーーーーーっほっほっほっ。よろしくてよ、よろしくてよ~」


 ───さて、ババアのご機嫌も取れたことですし、早速抹茶スライムについて伺いたいと思います。


「……あなた、面と向かって初対面の女性にババアだなんて……。想像の斜め上を行く無礼な記者さんですのね!」


 ───臨時雇われですし、本業は冒険者なので、無礼がありましたらお詫び致します。二等級冒険者のライナーロックと申します。


「……よろしくライナーロックさん」


 ───で、抹茶スライムの抹茶とはどのようなものでしょうか?


「覆下栽培したクコの茶葉を蒸した後、揉まずに乾燥させ、茶臼で挽いて微粉状にしたものですわ」


 ───つまり、草だと?


「葉ですわよ。草と葉の区別もつかないのですか?」


 ───同じようなもんでしょ?


「まったく冒険者というのは……。いいですか? 抹茶は湯を注ぐだけで風流な飲み物になるので貴族のご婦人方ら大人気なのですよ!」


 ───はぁ


「その抹茶の粉末に弊社独自の比率でブレンドした甘味料を混ぜ、食感鮮やかなスライムフードにかけてお召し上がりいただくのが、抹茶スライムですわ」


 ───深緑色が鮮やかですね……まったく食感をそそられないと言いますか


「お茶請けやお酒のお供に最適だと好評なのですよ!」


 ───なんだか底なし沼の緑ゴケみたいで……


「あなた、うちの商品をけなしに来たんですか!? よく見てごらんなさい。濃厚な抹茶をかけただけのスライムだと思ってはいけません。スライムの中には、ほら! 渡来人様から伝授頂いた【チョコレート】が塗られているので、頬が落ちる甘みなのです!」


 ───底なし沼の汚泥のようで……


「いやいや、食べてみなさいよ! 瑞々しくもっちりとろりとした食感、スライム全体に馴染む抹茶蜜の甘さ、チョコレートの芳ばしい香りとほろ苦さ、すべてが相まって最高のスイーツになっているのですから!」


 ───では、勇気を出して一口……


「いかがですか。美味しいでしょう?」


 ───見た目は置いといてすごく美味しいですね。スライムと葉っぱと苦い泥って感じです。


「あなた、食レポに向いていないんじゃありません?」


 ───けど、舌の超えた人たちにとっては至上のスイーツなのでしょう。私のような貧乏冒険者の馬鹿舌では到底表現できないもののようです。


「二等級冒険者が貧乏なわけが」


 ───いえいえ、毎回冒険に行くたびに消耗品の補充や武器や防具の手入れで金が飛んでいきますし、その割に入ってくるお金は雀の涙。冒険者の命はこの抹茶スライムより安いのですよマダム」


「そ、そうなのですか。大変なのですね」


 ───ですからマダム。どうか哀れな私に投資してみませんかか? なに。この抹茶スライムで得たお金の一部を回していただければ良いのです。その見返りとしてタイガー屋に箔が付くことをお約束致しますよ。なんせこのライナーロックが太鼓判を押したスイーツと広告を出せるので……あ、こら、なにをする! 私は詐欺師じゃないぞ! ちょっ! クレームは迷宮ウォーカー編集部に入れてくれ!


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