世界観の描述の仕方がすごい!

 六年前の百年戦争の終戦の時期に記憶を失ったレミルは、元騎士のリアス、従者兼弟子のアリアと出会い、ジュラル遺跡に赴く。そこで封印されていた少女はレミルがある人物と似ていることを指摘する‥‥。

 この『英雄譚は誰が為に〜勇者の詩と白銀の姫〜』の面白いところは、まずは読みやすい人物描写です。人物の説明を程よいタイミングで入れてくれるので、説明過多にならず、また物語の進行に置き去りにされることもありません。例えば遺跡探検までの話をリードをしてくれるリアスについてですが、二話からの「流浪の女騎士」でのリアスとアリアのやり取りから彼女の性格を読み手が理解した上で、次の「出会いの街」ではリアスを軸に物語が展開していくので非常にわかりやすいです。また番外編でのリアスとアリアが知り合った話など、要所要所でキャラクターの深掘りがあって、ストレスなく多くの情報を読み取っていけます。

 そして、一番の魅力はこの世界の歴史の設定と描き方です。長い歴史を伏線として書きすぎると、やはり説明過多となってしまうのですが、この作品は本の記述やギルドの目録等で歴史や世界の在り方などを説明してくれるので、住人視点で世界観を知ることができます。『アルゴ英雄記』などはぜひ通しで読んでみたいですね。アルゴ暦、ステラ暦、三百年前に現れた魔獣、星明かりの神、星導教会、百年戦争‥‥、多くの歴史やその情報を読まされるのではなく、まるでギルドのテーブルに肘をおいてふむふむと頷いて聞いているかのように理解できます。こういう手法は主人公たちの行動の背景を、読み手がより強く意識して没入していくので、とても勉強になりました。

 これから読む人は、読みやすさにまかせてどんどん次の話へ行ってください。いつの間にか贔屓の登場人物を持っていて、そしてこの世界の歴史、宗教、魔王と勇者の関係について詳しくなっているはずです。

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