第八話
店内は賑やかで、食事を楽しむ雰囲気に包まれていた。
が、
個室は微妙……。
助っ人、登場!
「ご注文をお伺いします」
と、柔らかい声で言った。
「じゃあ、
(アワビは確かに美味しいけど、それ相応の値段がするんだよね。でも、コリコリした食感に、濃厚なオイスターソースのコクが絡んで――まさに豪華な一皿。……ぁれ? 僕が支払うんだった。
「
(
「では、金華ハムの蒸し物を」
(金華ハムか……さすが
「
(
「守鶴さん、よだれ
(
「
「
(ぶんぶく茶釜の餃子は、すごい! 肉三鮮は豚肉、鶏肉、牛肉のトリプルコンボ。素三鮮は干し貝柱、干しエビ、そして隠し味に干しのどぐろが入っていることで。肉三鮮を超える存在になるんだ、な)
全員の注文を聞き終えると、守鶴は再度メニューを確認し。
「皆さん、飲み物は?」
「オレンジスカッシュで」
(爽やかオレンジと炭酸の泡が弾けて、喉を潤す。武士らしい)
「烏龍茶をください」
(やっぱり中華料理には、欠かせないよね。勘兵衛)
「
(里見先生。このあと、診察しないでください、よ)
「ミルクセーキ、フレンチスタイル」
(善ねぇー。甘いものに目がないからな。フレンチスタイルは濃厚で、デザートを飲んでるみたいなもんだから、カロリーが……。あとで、た、い、じゅ、が…………)
「クラフトコーラ!」
(クラフトはスパイスとハーブの風味が独特で、普通のコーラとは一味違う奥深さがあるからな。まぁ、流行りモノ好きな、妙ねぇーらしい)
「僕はミックスジュース、関西で」
(ミックスジュースと言えば、関西。マンゴー、バナナ、リンゴにミルクが絡んで、しっかりとした甘さが口のなかに残る――関東と違って!)
注文が一通り終わった。
静寂が戻ってきた個室には、張り詰めた空気が漂っていた。外の賑やかさとは裏腹に、この部屋だけが別の時間を過ごしているようだった。
「ぇーっと。お集まりの皆さんに、お話があります」
しろどもどろに、道満は会話を始める。
それに対し、誰もが気を抜いた様子で、それぞれの席に身を沈めている。
これから道満が話す内容は、面倒くさい人物からの命令であることを知っていたからだ。
武士は椅子にもたれかかり、机に並べられたメニューをぼんやりと眺めながら。
「理事長からの仕事依頼なんだろ? 道満」
「わかる」
道満の事情を理解している武士は、同級生である道満からの頼みごとを断ることは簡単だった。しかし、道満の師匠であり学園の理事長からの頼みごとを断ることには、決していいことがないことも知っていた。
勘兵衛は、腕を組みながら目を閉じ。
「――して」
「委員長じゃなかった、勘兵衛! 協力してくれるの?」
「協力する、する!」
面倒くさい依頼だと理解しているが、道満に名前で呼ばれることで嬉しさが勝ったしまった、つい。でも、道満に貸しを作っておくのは、恋心の進捗状況を進ませる、チャンスでも、あった。
「理事長は、いつも論理的にことを動かされますから。反対理由はありません、協力させてもらいます」
と、大人の余裕。
善は表情を変えず。
「まあ、仕方ない。弟の師匠の頼みだからな」
「善ねぇー」
「後始末に関しては全部、道満だから問題ない」
「そんなーぁー」
妙は興味津々の顔で、
「それで、今回はどんな無茶を言ってきたの?」
「ちょっと待ってて、指示を確認するから」
道満はお師匠さまから受け取った指示内容を確認しようと、スマホを取り出す。
「失礼しまーあーぁーすーぅー!」
と、いう声と共に、守鶴が笑顔で入室してきた。
その後ろには、料理を乗せたトレイをしっかりと持っている少年。
「どうまん、せんぱい!」
守鶴は静かに、落ち着いた動作で色とりどりの料理をテーブルに一つ一つ丁寧に料理を並べていた。
対照的に、衛門三郎は道満にまっすぐ向かい、無邪気な笑顔を浮かべて近寄る。
彼の小さな体は、背筋を伸ばして自信に満ちた姿勢を保ちながらも、ふわふわの茶色い髪が柔らかく揺れ、愛らしさを引き立てている。大きなキラ、キラとした瞳は、道満の心を掴もうとするかのように輝き、向かうにつれてその無邪気さがより一層際立つ。
近づくにつれ、愛らしさがますます際立っていく。
少し前かがみになり、髪の毛がふわりと顔にかかる様子は、まるで小動物のような無邪気さを演出している。柔らかな肌は少し日焼けした健康的な色合いで、丸みを帯びた輪郭が笑顔を引き立てている。
わざとゆっくりと飲み物を道満の前に置いた。
その仕草には、明らかに“見て”というあざとさが感じられたのであった。
「ぼくも、せんぱいのお手伝いします、ね」
と、少し上目遣いで甘えた声を出しながら近づいた。
無邪気な表情を装いつつ、その動きや仕草には、注意を引こうとすることが、隠しきれていないどころか丸見え。
テーブルの上では、守鶴が無言で料理を並べ続けていた。
その姿はどこか職人のような手際で、一切無駄のない動きだ。一方で、衛門三郎は守鶴を手伝うふりをしながらも、道満の反応をちら、ちらと確認している。その視線には、関心を一手に引きたいという独占欲が滲み出ていた。
料理の香りが部屋中に広がると、道満は取り出したポケットにスマホを戻し、運ばれてきた料理に目を向けた。が、その間も衛門三郎は道満の様子を見逃すことなく観察していた。
行動はどこかコミカルでありながら、その裏には執着が見え隠れ……いや、隠す気がなかった。
守鶴はそんな二人の様子に気づいているようでありながらも、一言も発せず、自分の役割に専念していた。
道満は思わずため息をつき、心の中で、
(あなたの御子息の行動、なんとかしてほしいですけど)
と、願うのであった。
この少年も、道満たちに匹敵する――人外魔境の力を秘めた者の一人。
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