第五話
「あ~、
「ぷぅ~」
「死んでないぞ。目が死んでるだけで、生きてる」
「ぷすぅ~」
交互に
「……ぷぅ~、……ぷすぅ~」
瀕死の重症だった――道満の心。
むすっとしながら精神力を使い果たし、道満が前倒しに上半身を預けている木製の机の反対側の椅子に、厚手の丈夫そうな革製リュックサックが、三人分、乗せ置かれていた。革製のリュックサックの膨張具合から膨大な量の荷物が詰め込まれているのが見て取れた。
これを背負う……陰鬱。
だが!
道満の惨状まだ続く。
なぜに? 自分を挟んで座る必要があるのか? この姉たち……。
「ふぅにゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ!」
ぱん、ぱん、と冒険者ギルドが購入し所有し置いてある木製の机を叩きながら、妙は愉快、愉快と笑っていた。
善はねめつけ。
「じゃあ、
「は、 はい。してないです!」
道満はヘッドバンギングで、否定した。
そのアンサーに善は、虚ろな目しながら。
「
「…………、へぇ!?」
「ふぅ、ふぅ、ふぅにゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ!」
もはや、木製の机が壊れるのではないかというぐらいの強さで、バン、バン、と叩きながら、妙は愉快、愉快と高笑いしていた。
……、……。
いつも無表情が標準装備な、善が、悔やんでも悔やみきれない表情をし。爛々と瞳を輝かせ天真爛漫が標準装備な、妙が、フルオプション装備で涙目になりながら馬鹿笑いし。
その間に挟まれ、自分が置かれている状況にまったく意味が理解できないと。疑問符エアバッグが作動している、道満だった。
道満は頭を振り。改めて、いま、の状況を再確認することにした。
冒険者ギルドの木の梁を見上げ寂しげな眼差しをしている、善ねぇ、から話を訊くという選択肢は、なし、にすることにした。
残る選択肢は一つだけ。
横目に見ると。相変わらずに高笑いし続けている、妙ねぇ、に訊くことにした。
「……あ、の」
不安からシドロモドロの小声だったが、妙は即座に応じ、ご機嫌な表情を浮かべながら道満の耳もとで囁く。
「どぅまん。攻めの対義語は?」
「…………? まもる、かな」
「正解! 善ねぇに、わたしが道満にした質問をシテミル」
恐る恐るだが道満は、妙に言われるまま、善に尋ねることにした。珍しく動揺している善に対して、興味が湧いた。あと、怖いもの見たさが背中を押したのもあった。
「善ねぇ」
「なんだ」
随分と長い時間、
お約束どおりに道満の身体はビクついた、もはや条件反射に近い。物陰に隠れて驚かせるつもりが逆に驚かされるパターン。
間抜けな音程の外れた声音で質問する。
「せ、せめの、た、たいぎご、わぁ?」
「うける、だ」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅにゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ!」
真面目な話、善の回答が間違っていることは理解できたのだが。妙が再度、大爆笑するほどの珍回答を述べたわけではなかった。
あまりにも話の筋が見えないことに道満はより疑問符が大きくなり、首を大きく傾けた。
「どぅまん、どぅまん」
妙が名前を呼びながら、ちょい、ちょい、と手招きした。
顔を近づけると。
「質問の意味、わかったかぁー」
「ぜん、ぜん、わかんない」
呑気に尋ねる妙に。
本当に質問の意味を理解していない道満は、あっさりと答えた。
「善ねぇーは! 腐ってしまったのさぁー」
シェイクスピアも裸足で逃げ出す、ハムレット。
眼前で両手を大袈裟に広げ、誰が見ても芝居がかった口調で、意味不明なことを聞かされる辱め。冒険者ギルドに来ている冒険者たちからの痛い視線が、ぐさ、ぐさっと胸に刺さる。
「妙ねぇ。どうどう」
「むむむ、生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ!」
「いまは、妙ねぇが、
道満と善が顔を見合わせていた。
「私は腐ってしまった」
真剣な表情で語る善ねぇの顔をまじまじと道満は眺めていた。
が。
眉間がへの字になっていた。
「と、とにかく! 私は腐ってしまったんだ!」
善が、大きな声を上げる。道満は、また、身体はビクついた。もはや条件反射の域を超えて、脊髄反射レヴェルまでに達していた。
「ほ、ほんとうに、ナニの話してるの?!」
姉、二人の無茶苦茶に振り回されいるのことに慣れている道満でも、ついていくことができなかった。
おかしな態度の善。
色白の肌から耳や首筋が、桜色に染まっているうえに、盛り上がった胸部の鼓動が速く、興奮しているように見てとれた。
冷静さを取り戻すため、道満は一つ頭を振ってから深呼吸をした。
……、……。
道満は激しい頭痛に苦しんでいた。深呼吸して新鮮な空気を血液の中に取り入れ、冷静さを取り戻し。
詳しく話を聞いた瞬間から酸欠に。
跳んだ! カミングアウト!
それは道満は良し! とした。人の趣味嗜好はそれぞれであり、他人に迷惑をかけない限り、第三者が口を出すことではない。
でも――。
「
「そこに問題はないの」
「ほら、道満、武士、勘兵衛ちゃん、仲いいじゃない」
「まぁ、幼馴染で同学年で同じクラスだから、自然と話すことが多くなる」
「その話してる雰囲気がいいんだって」
「それで、ちょくちょく、
「そう、煮詰まると、偵察に行ってるって言ってたから。鈿」
「…………。て、ていさつって……」
元凶である、宮比鈿に、文句を言いたいところだが、現時点では無理。だが、近いうちに彼女とは、必ず出会うことになる。
風の便りで彼女が、この異世界に来ていることは確認できていた。
――
そして。
道満にとって、いま、最大の強敵であった!
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