思い出話は紫陽花のように。紫陽花が咲くたび、きっとこの作品を思い出す

その直売所のお野菜はたしかにお買い得だけど、お客さんの目的はむしろ、そこのおじさん・おばさんに会うことかもしれない。
互いに名前も知らないのに、会えばいつも、楽しいひとときを過ごせる。遊歩道の奥にあるのは、そんな素敵な直売所。

せっせと野菜を育てるのは、陽気で甘ったれなおとうさん。
ちゃきちゃきテキパキ働くのは、元気でオシャレなおかあさん。
仲良し夫婦と作者さまの直売所での交流が、微笑ましく綴られていきます。
でも、楽しい日々は唐突に終わってしまいます。本当に、あっけなく。
突然に訪れた死を受け止められず、混乱する作者さまの胸の内がありありと描かれています。泣きわめくわけでもなく、大仰に悲嘆にくれたりもせず、ただ淡々と。静かな悲しみが、リアルに読者の胸に迫ってきます。

最後に、偶然と言うには不思議すぎる『偶然』の出来事が、この悲しい物語に小さな救いをもたらしてくれます。うんうん。キャベツ、美味しいよね。

「どうか、作者さまの声がおじさんに届いてますように」そう願いたくなるエッセイです。