その直売所のお野菜はたしかにお買い得だけど、お客さんの目的はむしろ、そこのおじさん・おばさんに会うことかもしれない。
互いに名前も知らないのに、会えばいつも、楽しいひとときを過ごせる。遊歩道の奥にあるのは、そんな素敵な直売所。
せっせと野菜を育てるのは、陽気で甘ったれなおとうさん。
ちゃきちゃきテキパキ働くのは、元気でオシャレなおかあさん。
仲良し夫婦と作者さまの直売所での交流が、微笑ましく綴られていきます。
でも、楽しい日々は唐突に終わってしまいます。本当に、あっけなく。
突然に訪れた死を受け止められず、混乱する作者さまの胸の内がありありと描かれています。泣きわめくわけでもなく、大仰に悲嘆にくれたりもせず、ただ淡々と。静かな悲しみが、リアルに読者の胸に迫ってきます。
最後に、偶然と言うには不思議すぎる『偶然』の出来事が、この悲しい物語に小さな救いをもたらしてくれます。うんうん。キャベツ、美味しいよね。
「どうか、作者さまの声がおじさんに届いてますように」そう願いたくなるエッセイです。
野菜を育てたことのある方なら、量販店で販売している美しく味も形もそろった彼等(野菜たち)を育てるのは、大変なことだとご存知でしょう。
こちらに登場するのは、直売所で育てた野菜を売るご夫婦です。年齢よりぐっと若くお洒落な奥様と、奥様がいないとだめな(?)甘えん坊の御主人。ご主人が作る春キャベツは、他のものよりちょっと硬くて甘くもないけれど……ご夫婦のひとがらに惹かれて通う方は、大勢いらしたようですね。
そこに、突然の別れが……。
新型コロナウイルスは残酷で、家族や友人の間を引き裂き、会えないままに亡くなられる方が大勢いらっしゃいます。コロナ禍でなくとも、目の前のその人とは、明日はもう会えないかもしれない。
そんなことを考えさせられるエッセイでした。