7  クズプロデューサーと5人の女子大生 ④

「というわけで、早速行きましょう!

 “第一イベント”!『ぶちかませ!ときめきお見合いランキング』ゥゥゥゥ!!!」


アロハシャツゲス男…もとい椎名友也の甲高い声が、晴天の砂浜に響いた。


「んんんいや待て待て待て!」


唐突に謎のイベントの開催宣言をされても一ミリもついていけねえ、と思わずストップをかける。周りの他の男たちも、同じように困惑の表情をしていた。


「あ?なんだよ」


「いや、その、こっちの理解が追い付く前にわけわからんイベントを勝手に始めんなっ……ないでくださいよ!ていうかそもそも俺たちあんたのいう「1ヶ月無人島生サバイバル」に参加するって決めたなんて一言もいってね…ねえですからね!?」


怒りを言葉に込めようとするも、なんだかんだ初対面の年上にしょっぱなからタメ口は使えん……という微妙な気遣いに、語気が鈍る。


「ほう……ってことはなんだ?お前は参加しねえのか?無人島サバイバル生活。こんなに可愛い……お前が普通に大学生活をおくってたら一言も喋れずに4年がたっちまうような最高の女子大生5人と一緒に暮らせるチャンスだってのに……え?参加しねえの??」


「ぐっ…それは……」


チラリ、と椎名の横に並んだ5人の女子大生に目線をやる。

妹界の最終兵器……と紹介されていた宇野みずほは、

その大きなくりっとした瞳で、

こちらのやりとりに興味なさそうに海の方を見ている。

ゆる巻きロング、白河碧は、きょとんとしながら、こちらを気にかけていた。

穏やかな笑顔でたたずむのは色白Eカップお嬢様の園田奈々。

自分たちを引き合いにだされてやや戸惑っている殺人笑顔の佐原春乃。

あざとさの塊、沢口美南は体をくねくねさせながら毛先を気にしていた。


か…かわいい……!!やはり……どう見ても一人残らず可愛い……!

こんな子たちと1ヶ月一緒にいられるなんて、確かに一生に一度あるかないかのチャンスかもしれない……だったら無人島生活も楽しくやれる気がするぅ……

でもほんとにそれでいいのか……?ていうかあのゲスプロデューサーの思い通りになる感じがなんかムカつく……

とかなんとか考えていると、


「俺はっ、参加する!!!!!」


横にいたやや古めのヤンキーが、手を上げ叫び、一歩前に進んだ。

鼻の両穴から鼻血をぼたぼたとたらしていた。


いやコイツ完全にやらしいことしか考えてねえじゃねえか!!!


ただ、その勢いは、この状況においては“潔さ”でもあった。

それは、この場にいる男たち全員が理解していて、このヤンキーが起こした風に乗るように、

「お…おれも!」

「俺もだ!もともとヨーロッパ旅行で予定は空いてたわけだし……」

「僕も……まあいい人生経験にはなるかな……」


と、なまぬるい言い訳をそれぞれ口にしながら、次々と手を挙げた。


……無論、僕も。

煩悩と意地の脳内バトルは、「周りもみんな煩悩丸出しだから」という実に日本人っぽい理由で、あっけなく終結し、挙手。

10人の男全員が、

正直内容はよくわからないまま、「1ヶ月無人島サバイバル」への参加を表明した。


それを見届けた椎名は、


「素晴らしい!」


と満面の笑みで手を叩いた。


「みんなちゃんと参加してくれるって思ってたよ!素晴らしい素晴らしい!これで心おきなくイベントをはじめられる」


「や、だからそのイベントってなんなんですか」

さっきの流れのまま、僕は聞いた。


「最初に言った通り、これは、俺がプロデューサーを務める“配信番組”だぜ?

ただ普通に1ヶ月男と女が無人島生活したって面白くねえだろう。君たち10人には、

いくつかのイベントに挑戦してもらう。そして、その記念すべき一発目が…そう、

『ぶちかませ!ときめきお見合いランキング!!』ってわけさ」


「いや……そう、って言われても……ていうかなんすかそのダサいネーミングは……」


「はぁーなんだなんだ……ノリの悪ぃやつらだな。そんなんじゃ後々後悔するぜ?いいか?これはただのイベントじゃねえ。“あるものを賭けたゲーム”だ。結果次第でお前らのここでの生活は最高にも最悪にもなり得る。積極的に参加した方がいいと思うけどね」


“あるもの”……ってなんだ?

僕らの頭に一斉に疑問が生じはじめたとき、


「あのぉ」


1人の男が、声を出した。

椎名との最初のやり取りのときにも自分から食い込んできた、ひょろ長いメガネのやつだった。


「イベントとか、まあそういうのがあるのは分かったんですけど、そもそも我々1ヶ月ここでどうやって生活していけばよいのですか?見たところ、森だらけで建物もないし、寝るところとか食糧とか、そういうのはそちらが提供してくださるんでしょうか?」


カオスなまま続いていた会話に差し込まれた、めちゃくちゃ冷静な意見。

確かに……と激しくうなる僕含む他9人の男たち。


「いい質問だ。メガネくん」


椎名は言った。


「安心してくれ、俺だって鬼じゃない。サバイバルとはいえ、生きていく上で最低限のものはこちらからくれてやるさ。ただ……」


「ただ?」


「普通にあげたって面白くないだろ?だからこその“イベント”だよ諸君。さっき俺は“あるものを賭けたゲーム”って言ったよな?その“あるもの”こそが……君達が求める“宿と飯”だ……どうだい、サバイバルっぽいだろう?」


椎名がニヤリ、と笑った。


なんかこいつは、やっぱり、好きになれない、と僕は思った。

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上野くんの夏休み タルタルソース @recoup

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