6  クズプロデューサーと5人の女子大生 ③


「え――、というわけで皆さん、こちらにご注目ください」


椎名の横に、砂浜を歩いてきた5人の女子が並んだ。


僕を含む10人の男共は、少し離れて、

どこの誰かも分からないけれど、とりあえず街で見かけたら200%振り向くレベルで可愛い5人をただただ眺めている。


なんかこの、アイドルお披露目会みたいな構図が、なんか滑稽だな、

とも思いつつ、とりあえず眺める。



「えー、宇野 みずほ、20歳」


何の脈絡もなく、

椎名が一番左にいた背の低い女子を手で示し、喋りだした。


「葉山学院大2年生。

身長153㎝、20歳には思えない丸顔童顔の黒髪ボブ

……のくせに若干Sっ気も垣間見せる性格。

全国の妹系好きの男共を虜にするであろう妹界の最終兵器」


本当に何の脈絡もないが、どうやら、女子たちの紹介を始めたらしい。

宇野みずほ……というらしいその女子は、ペコリと頭を下げ、


「あ、よろしくお願いします」


と小声でつぶやいた。


あ…えーと、うん、これは一体、何の時間だ?

……と思いつつ僕は、なんとなく椎名が意図としていることに、

薄々感づいてもいた。


「あ……ごめん、言い忘れてたけど」


椎名はわざとらしくハッと、した顔で、こちら側を見て、言った。


「この子たちが、これから君たちと1ヶ月無人島生活を共にする女の子です」


僕をはじめ他9人の男たちの体がピクつく。


やっぱり……!

なんとなく、そんなことのような気がしていた。


椎名が、なぜあえて僕たちに「嫌だったら帰ってもいい」なんていったのか。

さらになぜ、妙な余裕があったのか。


その目的はいまだに全く分からないが、

要するに、この5人の「可愛い女子大生」を餌にして、

俺たちを無人島にひきとめようとしているのだ。

ゲスプロデューサーのやりそうなことだ。


だが…なめてもらっちゃ困る。

僕は心のなかで冷笑した。

いくら可愛い、マジで可愛い同年代の女子がいるからって

わけも分からず1ヶ月無人島生活なんざ自分から選んでたまるか。


「はい、じゃ、次の子行きます」


椎名がそういって、「妹界の最終兵器」の横の女子を示す。

さっきの子とはまた違う、「可愛い」というよりは「美しい」人だった。


……まあ、うん。とりあえず、5人の紹介は最後まで聞くか……。

と僕は思った。


白河碧しらかわ おあい。21歳。明教大学3年。

163㎝の身長と非の打ちどころのない綺麗すぎる顔立ちで、

ファッション雑誌のモデルもやってる。

栗色のゆる巻きロング。尊さすら覚える美しさの暴力。

ちなみに、2人の弟がいるからか知らんが、面倒見のいい、さっぱりした性格なのもまたよし」


白河碧、と紹介されたその人は、ニコリと微笑み、会釈する。


周りがざわつき始める。

しっかり見れば見るほどきれいな、紛れもなくハイレベルな女子。

芸能人でもまったくおかしくねえぞこれ……と見惚れていると、

椎名は流れるように次の女子の紹介を始めた。


「こちら3人目。園田奈々そのだ なな、19歳。清庵女子大学1年。

参加メンバーの中では最年少。艶やか黒髪ストレート。

優しい顔つきおっとり系のガチ天然。実家は大金持ちのガチお嬢様。

そんで……Eカップの色白美乳」


Eカッ…もとい、園田奈々、という名の子は、丁寧にこちらに向かってお辞儀をした。

「よろしくお願いいたします」


ざわつきがさらに大きくなる。

まてまて……落ち着け。

僕は深く深呼吸をした。

Eカップのお嬢様がこちらを見ているからといって、

自分を見失ってはいけない。


しかし、そうか……このめちゃくちゃ可愛い女の子たちと無人島とはいえ、1ヶ月一緒に生活できるのか…そんなに悪くない……。むしろ仲良くなれたり……

いやいやいや!!!

落ち着け。僕は自らに言い聞かせた。

自分を見失ってはいけない。


「はいじゃあ4人目の子な」

僕たちの葛藤を意に介さず、いや多分絶対気づいてるけど、

さも気にしてないようなスタンスで、椎名は淡々と続けた。


佐原春乃さはら はるの、20歳。葉山学院大2年。

えくぼと八重歯がチャームポイント。茶髪の2つ結び。

笑顔の威力は殺人レベル。

誰とでも仲良くなれる天性のコミュニケーション能力。

男友達も女友達も多いパターンのやつだな。

こういうやつが一番モテんだよな結局な。」


「えっと、よろしくお願いしまーす」

佐原春乃が、にこやかに笑って、こちらに…有象無象(もちろん僕も含めて)の男共に向かって小さく手をふる。


周りのざわつきは、歓声に変わっていた。

いや無理もない、と僕も思った。

めっっちゃくちゃ可愛い……!なんなんだ、なんだこの最強の布陣は……!!

だいたいこういうのって一人くらい大して可愛くない子が混ざったりするもんじゃねえのか。全員もれなく可愛いじゃねえか……!!!


「はい、じゃあ最後の子な」

椎名が一番右にいた女子を示す。


沢口美南さわぐち みなみ、20歳。松陽音楽大学2年。

セミロングの毛先にゆるくかけたパーマ、つぶらな瞳、ぷっくらした唇。

身長160㎝。フェロモンと上品さを兼ね備える女子力とあざとさの塊。

まあ一番女子っぽくて一番積極的なタイプだな。……あと多分一番エロいな」


歓声のボルテージが、頂点に達する。


「ちょっと、エロいとかいうのやめてくださいよー」

「女子力とあざとさの塊」らしい女子が、にこにこしながら、まんざらでもなさそうに椎名をこずく。その動作が、もうエロい。


「ありがとうございます!!!!」


さっきまでブチぎれていた一昔前のヤンキーは、

ハイになりすぎたのか、5人の女子に対してなぜかお礼をしていた。


“無人島なんざすぐに帰らせろ!!!”

とものの数分前まで一致団結していた僕たちの脳内は今、

煩悩でいっぱいになっていた。

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