5  クズプロデューサーと5人の女子大生 ②


若干28歳にしてヒットコンテンツを次々手掛ける、

ネット配信チャンネルの天才若手プロデューサー、

――――――それが椎名友也しいなともやだった。


その型にはまらない風貌や独特の雰囲気で、なんというか、「時代の寵児」的な立ち位置で、半年ほど前からメディア露出が増え、その名が知られるようになっていた。


ただ、得てしてこのタイプにはありがちだが、良くも悪くもプライベートな話題に事欠かない男でもあった。


つい3か月ほど前には、自身がプロデューサーを務め大ヒットした“恋愛バラエティ”……いわゆる見ず知らずの男女が複数人が、旅に出たり、シェアハウスで共同生活したりするなかで生まれる愛だの恋だのをドキュメントタッチで追う番組……に出演した大学3年生の女子とホテルに入るところを週刊誌にスクープされ、本人Twitterアカウントはしっかり大炎上していた。


さらにそのことに関して椎名友也は、大して反省する素振りもみせなかったため、さらに炎上。今じゃ手掛けた番組の数々よりも、燃え盛りがちな「ゲスプロデューサー」としておなじみになっていた。


………でもなんでこの男がこんなところにいるのか。

これも、もしかすると、なにかの”番組”や”動画”の企画だったりするのか……?

僕の頭の中で、謎は深まるばかりだった。



「まあ、改めて自己紹介させてもらおうと……そこのメガネ君のおっしゃる通り、わたし、この“企画”の主催者もとい、天才若手プロデューサーの椎名友也です。よろしくどうぞ」


自分で天才とかいっちゃうのな……。

と心のなかでつぶやく。


少し間をおいて、さっきのメガネ男が、戸惑いながらも椎名友也を追求した。


「……あなたがここにいる、っていうことは、推測するに、これは番組の企画か何かではないですか?壮大なドッキリ番組とか。……であれば、この状況にもある程度説明はつく。まあ我々を騙したことは許されることではありませんが。」


「はっ。ものわかりがいいねえメガネ君。まあそういうことだ」


椎名は、そう言ってニヤリと笑った。


「まあざっくりいうと……ここに集まったあなた方10人には、今回俺が新しくプロデュースする、この無人島を舞台にした“番組”にぜひ出演をお願いしたい」


ん…?

2人の会話を聞いていた僕は、椎名の言葉に違和感を抱く。

“お願いしたい…?”


それは、メガネ男も同じようだった。


「出演を“お願いしたい”……?まるで我々に選択肢があるような口ぶりですね。無理やり島まで連れてきといて」


「いや、まあもちろん全員に出演してほしい気持ちは山々だけどな。あくまで日本中に配信する“番組”だぜ?出演者にはあらかじめ承諾を得るのが筋ってもんだろ。……ほんとに嫌なら、君たちを乗せてきたフェリーがまだそこにとまってる。これに乗って帰ってもらっても構わんよ」


ちょっと待て。

僕は耳を疑った。

なんかコイツ、急にまともなこと言いだしやがったぞ?


周りの男たちも全員、きょとんとした顔つきになっている。


「帰ってもいい」なんて、逆にあやしさを感じずにはいられない。


そう言われたら、全員帰るに決まっている。

そんなことは、椎名だってわかってるはずだ。

ただ……椎名からはなぜか「自信」のようなものが見て取れる。

やっぱりあやしい……。


「あ?だったら俺は帰るぜ」


ヤンキーがすっと立ち上がった。


「こんな茶番つきあってられっかよ。オラ、さっさとフェリーだせ」


「お、おれも帰る」

「俺も」

「僕も」


つられるように、男たちは次々と立ち上がり、浅瀬に停まっているフェリーに向かい始める。


まあ、そうなるわな……。


うますぎる話に疑念も感じながらも、ここに留まる理由もない。

俺もすっと立ち上がろうとした……が。


「まあ、待て待て!そんなにあせるんじゃないよ君たち」


椎名が口を開いた。


「……あ?」


ヤンキーはじめ、男たちが振り返る。


「帰るかどうかは自由といったが……それを決めるのは……“あれ”を見てから決めてほしいね」


椎名は、そう言って、止まっているフェリーのさらにその奥を指さした。


そこには、こちらに向かって砂浜を歩いてくる数人の人影があった。


あれは……。

だんだんと対象を認識しはじめ、僕を含めた男たちの背すじが、

心なしかピン、と伸びる。


女子だった。

僕と同じ大学生くらいの5人の女子たちが、じゃれあいながら近づいてきている。


そして遠目からでもわかるほど、全員、もれなく可愛い。めちゃくちゃ可愛い。


帰ろうとしていた男たちの足はピタリと止まり、

その視線は完全に女子たちに注がれている。


……ん?ん?なにこれ??

何あの子たち?何が始まるの??

戸惑いながらも、とりあえず僕は、

やってくる女子たちの笑顔を食い入るように眺めることにした。

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