上野真守は上陸した
4 クズプロデューサーと5人の女子大生 ①
「ふざっけんじゃねえぞ!!!」
本日2度目の気絶からの目覚めは、
男の怒号によってもたらされた。
むくりと起き上がると、
眼前に白い砂浜と、美しい青い海が広がっていた。
照りつける太陽の光が眩しい。
ザザァ―――……ン。
穏やかな波が打ち寄せる。
自分が、どこかの綺麗な海岸にいることを認識する。
なぜかは、全くわからないが。
ただ、1日に2回も手刀で気を失わされるという貴重な経験をしたからか、さほどあわてふためいていないことに少し驚く。
完全に感覚が麻痺している。
先ほどまで乗っていたはずの船の中で聞こえた会話が、脳裏に蘇ってきた。
「「無人島での1ヶ月サバイバル生活をしてもらおう……」」
そうだ、そんな衝撃発言を聞いたんだっけ……。
ってことは、なんだ……展開が急すぎてよくわかんねえけど……
砂浜にいるってことは、ここはもう無人島ってことか……?
そういや、この砂浜も、陸側の林も、整備されてる感じがない……。
「だからよぉ!!なんで俺たちは気づいたらこんなとこにいるんだよ!」
ついさっき怒鳴っていた声がまた浜辺に響いた。
砂浜の上、50mほど離れたところで、数人の男が、1人の男に詰め寄っている。
なにか、事情を知っているやつがいるんだろうか。
詰め寄る群れの先頭に立っている男が怒鳴り声の主らしい。
年は僕の少し下くらいか。リーゼントの髪型、首や指にはシルバーアクセサリー、黒の柄つきTシャツ……いわゆるヤンキー、しかも若干古めのタイプの雰囲気が、遠目からでも分かるくらい滲み出ていた。
「ヨーロッパ旅行じゃなかったのかよ!!なんでよくわかんねえ島に運ばされてんだよ説明しろよ!!!」
ヤンキーの言い分は、そっくりそのまま、
船内で謎の男の会話を聞いたときの僕の感情だった。
立ち上がり、騒ぎに近づいてみる。
次第に、ヤンキーにつっかかられてる方の男の声も聞こえてきた。
「おーけー。おーけー。皆さんの言いたいことはよくわかる」
あ……、とハッとする。
船内のドア越しで聞いた謎の男の声と同じだった。
まじまじと、男の姿を眺める。
おそらく30歳手前。顎鬚を蓄え、清潔感はあまりないが、顔立ちは整っている。赤いアロハシャツにゆったりした白パンツ、サンダルという、ラフな格好をしていた。
ふと、なんか、どっか別の場所で見たことあるようなやつだな……
とも感じたが、特に気にはとめなかった。
アロハシャツ男は、ヤンキーをなだめるように言った。
「言いたいことはよくわかるがね、1人1人の不満を逐一聞いて、それぞれに事情説明してたら日が暮れちまうでしょ。連れてきた10人全員目ぇ覚ましたら、全部俺の口から話しますから」
*****
「――――というわけで、改めましてみなさんごきげんよう」
砂浜にあぐらを書いて座るアロハシャツの男。
そして、それに向かいあうようにして座る僕を含めた10人の男たち。
みんな、同じ大学生くらいの風貌だった。
僕と同じように「ヨーロッパ旅行」に行くつもりでいた人たちなのだろう。
それで多分、同じように気を失わされて、気づいたら砂浜にいたのだ。
みんな自分の置かれている状況が理解できないなかで、
おそらく首謀者らしき目の前のアロハシャツの男に不信感をむき出しにしている。
その冷たい視線を特に気にもせず、アロハシャツの男は淡々とした口調で続けた。
「……えー、みなさんもれなく“ヨーロッパ1ヶ月クルーズツアー”を楽しみにしてくれていたと思うんですが、まあ、もう御察しのとおり、全部ウソです。すみません。ヨーロッパには行けません。で……その代わり、と言ってはなんですが、皆さんには、これから1ヶ月、この無人島でサバイバル生活をしてほしいと思います」
ペコリと頭を下げる。悪びれる様子は全くない。
いや……待て待て待てと、周りがざわつく。
“騙された”ことに対する怒りというより、話があまりにも突然で、かつぶっ飛びすぎてて、整理ができない、怒りの感情が追い付かないという反応だった。
……1人をのぞいて。
「っああもう!!だからわけわかんねえんだよ!!」
さっきも怒鳴っていた昔のヤンキー風の男が、またもやしびれを切らしていた。
「無人島?サバイバル?黙ってきいてりゃアホみてぇなことばっかいいやがって!!正気かコラ?あぁ??ていうかウソってなんだよ!!勝手に変な島つれてきやがって!!こっちはヨーロッパ行きたくてきてんだよ!!
ベネチアの綺麗な街並みみてぇんだよ!!
オランダのチューリップ畑楽しみにしてたんだよ!!
ふざけんじゃねえよ!!あとベルギーのチョコ食わせろよ!!」
雰囲気に似合わず、意外とかわいいスポット目当てにしてたんだなこのヤンキー……
と思いながらも、このヤンキーが思い切り吐き出した言葉には、深く同調していた。
それは、この場にいる他の男たちも同じようだった。
「そうだそうだ!」
「いいぞヤンキー!髪型古くせぇけど!」
「ふざけんなアロハ野郎!!」
ヤンキーの咆哮を皮切りに、
どこからともなく次々と、ヤンキーを支持する声が挙がり、謎の一体感が生まれる。
アロハシャツ男は、浴びせられる罵詈雑言を黙って聞いていた。
いや、多分、ただ聞いてるフリをしていた。
何一つ彼の耳には響いていない様子だった。
「あのぉー」
入り乱れる声のなか、後ろの方で体育座りをしていた一人が、スッと手を挙げた。
アロハシャツの男に注がれていた視線が、一斉に後ろへ移る。
眼鏡をかけ、髪型は七三分けの、いかにも真面目そうなひょろっとした男だった。
「えっと、不可解なことが多すぎて何から聞いていいか分からないんですが………あなた、椎名友也さんですよね?」
眼鏡の男は、アロハシャツ男を指さし、言った。
「あ、やっぱわかる?わかっちゃう?俺も有名人になったもんだねぇ、全く」
そういって…どうやら椎名友也、という名前らしいその男は、ケラケラと笑う。
あ、そうか…!
その瞬間、僕の頭の中で、目の前のアロハシャツ男と、記憶に片隅にあったテレビで何度か見たことがある男の顔がピタリと合致した。
椎名…椎名友也だ思い出した!
道理で見たことある顔してると思ったわ!
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