あきらワールド全開

場面は未来のeSports大会の準決勝。

【物語革新】というゲームは、ふたりが物語を掛け合い紡ぎあい、紡がれた物語がVR技術で具現化されていくゲームだ。プレイ難易度が高いことからプレイ人数は多くない。が、物語の観客は見応えバツグンゆえ、観客は何億っていう人がネットワークを介して注目するほど人気を博している。

と、この特異なeSports設定ってだけで面白いのに、この物語のなにがいいって、まず主人公が強い。「プレイ人数は多くないほどプレイ難易度が高い」スポーツで準決勝まで進む力を持っているわけです。そして、主人公には目的があり、それが胸熱展開に発展していく流れも熱い!

で、さらに目を見張るのが、物語を「主人公が挑んだ準決勝だけ」切り取って、短く、濃く、描いていることにあります。きっとこの物語に至るまでに流した汗や苦悶があったのかもしれません。もしかすると物語に出ていないキャラクターももっといるのかもしれない。"まるで長編小説の一番胸熱な部分だけ切り取った"よう、とでも表現すべきでしょうか。まあ読者が考える余地の残し方と、奥行きの見せ方がうまい。

にのまえあきらという作家が紡ぐ物語は、設定のオリジナリティと、場面の切り取り方と、余白の絶妙さにいつも舌を巻きますが、本作はとくに秀逸です。言葉遊び・センス含め「らしさ」も全体的にちりばめられ、あきらワールドが展開されています。

きっと長編小説のクライマックスのような――手に汗握るあの感覚が体験できると思いますので、ぜひその目で確かめてみてください。

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