VR e-sports×エンタメの快作

 世界観は近未来。近未来といえばSFの俎上。実際この作品はSF作品によくあるなんだか鋭く冴えた空気に満ちています。ですがにのまえさんは、そこにこれ以上ないエンタメ要素をぶちこんできました。やってくれましたねぇ。これは、面白い。

 この作品の最も優れたところは、やはり7700文字弱の中で新しいゲームのシステムから何からをすべて説明しきっているところでしょう。そしてその上、くみ上げたゲームは「実際あるならやってみたい」と思わせるほどの魅力と熱量があります。これはにのまえさんの描写力の賜物といえるでしょう。

 それだけでは終わりません。この作品は新しいゲームシステムをくみ上げただけでなく、主要人物の内面もこれ以上ないほどしっかり描ききっています。「主人公」(特別)になることへの憧憬と挫折、恋心、そして彼らが抱く「特別な思い」。これらを過たず描き切っている……というよりここまでの設定が、その「特別な思い」を描くためだけに作られたとも考えられるほど、主要人物の情動を確固たるものとして描いているのです。あの設定を使い捨てる覚悟と慧眼には恐れ入ります。

 7700字弱という狭いともいえる土俵で、ここまでの作品を描き切ったにのまえさんに敬意を表して。

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