第8話 海の中のガラスの塔。
今日はベッドに入るとすぐに瞼を閉じることが出来た。
蝋燭を持って地下への階段を降りてアーチ型の扉を開けると、私の会いたい人が立っている。
一緒に更に突き当たりの扉を開けると……
そこは海の中に作ったガラスの塔だった。
ここは私の作った場所。
海の底の方までガラスを張り巡らせてあるので、
海の中の様子がよく見える。
ナマコが灯りの代わりになるので、海のあちこちにナマコを置いてある。
そのお陰で真っ暗な海の中はほんのり明るくて、色とりどりのサンゴ礁や魚も見ることができた。
「ここは素敵な場所だけど、一体どこなの?」
「ごめん、すっかり見とれてしまってぼんやりしちゃってた。ここはね、私がある場所で自分で作ったところなの」
「ある場所……へぇ。そのある場所はある場所としか言えないのね?」
「言えない訳でもないのだけど……ある場所ってことで許してもらえる?」
「うーん、まぁいいよ。今回はね」
「ありがとう」
私たちはその中をぐるりと見渡して、
キレイな魚を見つけたとかゾンビを発見した!とかいつもより騒いでいた。
「ところで君は今日はどんな風に過ごしていたの?」
ガラスの越しのゾンビに私はドキッとしながらも、君の質問に答えた。
「今日は仕事をして、それから息子と外を歩いて、1人で買い物に行って……あ!「ペンギンハイウェイ」っていうアニメの映画を息子と一緒に観たの!」
「楽しかった?」
「うん。息子が読んでいた本が読み終わったら一緒に観る約束をしていたの。でもね、仕事が2週間分届いているから正直追われていてバタバタしてる」
「そうなんだ。ゴールデンウィークは?」
「きっとその仕事をしてるかな。君は?」
「私はシロツメクサを摘んで、花冠を作って、四葉のクローバーも探すつもり」
「……羨ましい……」
「君も来るの!」
「私も?」
「そうだよ。私たちは君が願えばいつでも会える。そうでしょ?」
私達は気づけば手を繋いでいて、少女の頃に戻っていた。
「他には?行きたいところはある?」
「そうだなぁ。帝国ホテルのショートケーキが食べたい」
「現実的でつまらない大人になったよね…」
「じゃあ、大きくなったマカロニ林の中でボヨンボヨンと寄り掛かりながら、癒されるとかは?」
「そうね、そういう方が君らしいかな」
「メロンソーダの巨大ゼリーの上でバカンスを楽しむとか?」
私がそんな事をいくつも言い出したら、君は満足したのかガラス越しのサンゴ礁の方に目をやり出した。
そして、君の話も聞いた。
お昼に何を食べたとか、今気になっている人の話だとか、制服のリボンは赤より白が良かっただとか。
好きな香りの話とか。
シュワシュワとしたラムネの様な甘酸っぱい世界を憧れの君と過ごしたのも楽しかったけれど、君と一緒にあの頃の少女に戻れるなんて……。
あ、でも、ううん、違う。
私達はここじゃなくても
いくつになっても会った途端にあの頃に戻れたんだった。
いつまでも可愛いものの話や、好きな人の話をしていられる。
そう考えると、甘い甘い時間は女の子との時間の方が正しいのかもしれない。
甘ったるいケーキを食べながら、お花畑のような話を尽きることなくするのだから。
明日も君にとって
ゆるく優しく楽しい一日に
なりますように。
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