第6話 サバの味噌煮定食。
今日の私は疲れ過ぎていて、何も考えずベッドに入った途端に眠りにおちた。
それでも気がつくと、ちゃんと蝋燭を片手に地下へと続く階段を降りていた。
私は今日一体誰に会えるのだろう。
アーチ型の扉を開けると、そこには同年代くらいの
男の人が立っていた。
「…久しぶり」
声をかけられたものの、薄暗い中でその人が誰なのか分かるまで少し時間がかかった。
「あ!君は」
「分かってくれた?」
それは高校時代の同級生だった。
「とりあえず行こうか?話はそれから」
「う、うん。そうだね」
彼とは高校3年間ずっと同じクラスだったけれど、トータルしても1時間も話していないと思う。
修学旅行とかも同じ班だったのに。
彼は元々無口だったし、何より私達は話せない事情みたいなものを抱えていた。
だからこそ、こんな風に自然に話せている今がとても不思議だった。
そんな事を思っている内に私達は突き当たりのドアの前まで来ていて、お互い譲り合いながらも彼が最終的にはドアを開けてくれた。
ドアを開けたその先は2人で過ごした学校だった。
「やっぱり、そうだよね」
あまりにそのまんまで私は笑った。
「でも、どうして1年生の時の教室なんだろう。君とだったら2年でも3年でも良かったのにね」
彼も笑って頷いた。
あぁ、やっぱり彼は変わらない。
言葉は少ないけれどいるだけで、それだけで良かった。
「私達、3年間同じクラスだったでしょ。その事で沢山迷惑をかけちゃってたから、私は君に嫌われてるって思ってたの。でも、卒業式の時に書いてくれたサイン帳に『3年間迷惑かけてすみませんでした』って書いてあってすごくビックリした」
「だって、君は僕の友達に相当からかわれてたから」
あの頃、私達はずっとからかわれていた。
でも、それは私の方に責任があった。
というか、私の仲の良かった女の子の間で彼の良さや素敵さが話題になっていて、何故かその矢面に立たされたのが私だった。
私は「お前、○○のこと好きなんだろ?」と男子によくからかわれた。
(○○とは彼の事で彼は目立ちはしないけれど男子の中でとても好かれていた)
そんな時に私はバカだから、
「好きとかそういうんじゃないの!憧れているの!」
と言ってしまったものだから、周りからはヒューヒューと言われ続けてしまって。
そして、彼は毎度迷惑そうにしていた。(少なくも私にはそう見えた)
「あの時はごめんね?」
彼の方が謝ってきた。
「謝るのは私の方だよ」
「いや、だって僕の方はからかわれるとか無かったから」
確かに。そういうことで騒いでいたのは彼の友達だったけれど、そもそも彼はからかわれるタイプではなかった。
「でもね、サイン帳見て本当にホッとしたの。あぁ嫌われてなかったんだなぁって」
「嫌いも何も成人式の後も一緒にご飯食べに行ったよね?」
「あぁ!君がサバの味噌煮定食頼んでた時!!」
「そんなこと、よく覚えてるね」
君は呆れたように笑った。
「だって、ファミレスでサバの味噌煮定食を頼む君を見て私は嬉しかったから」
そう、私はやっぱり君が好きだなぁと思った瞬間だった。好きと言っても恋愛とかではなくて、人としてなんて魅力的なんだろうと思ったのだった。
「あの成人式の後も、他のやつらから電話きて僕のこと何か言われたでしょ?」
「あぁ、うん。卒業しても周りは変わらないんだなぁって懐かしくなっちゃった」
「そうだね」
私達は2年生の時の教室や、3年生の時の教室にもまわった。
「君はさ、あの時って」
好きな子はいたの?
誰が好きだったの?
どんな子?
と私がわくわくしながら訊こうとすると、
「秘密」
そう言って君に遮られた。
「え?」
「そこはお互い秘密にしておかない?」
「そうだね」としか言えなかった。
本当は彼のそういった事をまるで知らない私には興味津々な話題だったけれど、それ以上は訊けなかった。
君はなんていうか、優しいんだけど強くて独自の雰囲気がある人…昔からそんな感じだった。
「憧れ」と「好き」の違いが私には分からないまま、彼に恋することは何故か無かった。
もしかしたら、彼は誰かに告白されていたかもしれないし、誰かに告白していたかもしれない。
そんな中、私達は…というか私だけが男子にヒューヒューと常に言われた3年間を過ごしたのだった。
どんな季節だって、私はいつもそんな感じに誰かにからかわれていた。
でも、もうずっと会えていなかった彼、
私の中ではいつまでも憧れの君のままだった。
明日も君がゆるく優しく楽しい一日を
過ごせますように。
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