第3話 星降る丘。

今日はベッドに入る前から、どこに行こうかを決めていた。


瞼を閉じるとそこからはいつもの様に別世界が広がっている。


地下へと続く階段を今回は滑り落ちない様に慎重に降りる。蝋燭の灯りはぼんやりとしていて、明るさは足りないけれど私にはとても優しく感じた。


アーチ型の扉を開けると、君は既に立っていた。


「ごめんなさい。待たせちゃいましたか?」


「ううん、大丈夫。今来たところですよ」


君の穏やかな声を聞くと、ここに2人で座りこんで

話すだけでも充分に思えた。


「で、今日はどうします?」


「そうですよね。私はここでもういいかな、なんて思っちゃってました」


「確かにそれでも全然いいよね、こうしてるだけで楽しいですし」


君はいつだって優しい。


「あ!でも今日は君と行きたいところを決めてきたんでした」


「本当に!?それはとても楽しみです」


私は君の手を取って突き当たりのドアのまで急いだ。


そして、扉を開けると…


そこは小高い丘の草原だった。



「わぁー、キレイ。あ!今星が流れた!!」


「そうなんです。ここは星降る丘。私が君と来たかった場所です」


私は持ってきた厚手のラグを敷き始める。

すると、君はすかさず四隅を一緒になって広げてくれた。そして、2人でにっこりと微笑み合った。


「今日はここにゴロンとして、星を見ながら君と話せたらなぁと思ったんです」


「さすが!君は私の好みを知っていますね」


「そこは任せてください!」


さっそく私達はラグの上に仰向けになって寝転んだ。


「ところで君は今日どうしてたの?」


「今日はですね、物語を読んで手紙を書いていました。それから過去の事を思い出していました」


「過去の事?それは楽しいこと?」


「いいえ。少し痛い過去のことです」


私がそう言うと、君はそれ以上訊いていいのか迷っている様だった。


「実は私1度だけ男にだらしがないって理由で数日間友達から仲間外れにされたことがあったんです」


私は自分で言いながら笑ってしまった。


「男にだらしがない?」


「はい」


君は寝転びながら星ではなく私を見ていた。


「でも、数日間で終わった?」


「そうなんです」


「なんて言うか…意外と早く終わったというか、そういうのって長引きそうな気がするけれど」


私は流れ星に手を伸ばしたりしながら続きを話した。


「数日間と言ってもかなり参りました。女の子にそんな風にされたことは無かったからショックでしたし、ましてや男にだらしがないだなんて驚いたし。でも他にも友人がいた事が私には助けになりました」


「…にしても、その仲間外れにしてきた子達とも数日間で和解をしているって、どんな風に?」


「それはもう腹を割って個人個人に話に行ったんです。嫌だけど話すしかないな〜って。そしたら意外とアッサリ誤解?みたいなものがとけて元に戻りました」


「君の中で何か残ったりもせずに?」


その言葉に私は星に手を伸ばすのをやめた。


「さすが。君はするどいですね。…残りました。表面では忘れたフリをして過ごしましたけど、忘れることは出来なかったです。その後も親友だと言ってくれていた1人の女の子に対して心のどこかでは気を許せずにいたかもしれません。ひどいですよね…」


私は目だけで流れ星を追っていた。


「……でも、男にだらしがないって言われてみたいかも」


「え?」


「何だか魔性の女みたいでかっこよくない?」


私は君の言葉に思わず笑ってしまった。


「だから、それは誤解だったんですよー」


「でも、言われてみたい!!」


まるで子供の様な君。


「ふふふ。でも、確かに魔性の女は言われてみたいかも」


いつの間にか重苦しい話が君のおかげで笑い話になっていた。


「例え…」


「ん?」


「例え、君が男にだらしがない、羨ましいくらいの魔性の女になっても私は君のことが大好きだからね」


「私も!君が恋人を10人作って恨まれたとしても、私は君のことが大好きです!!」


「待って。それは少しひどくない?」



私達はそんなことを言い合って沢山笑った。


そして、そんな私達の周りには沢山の星が降り注いでいた。


今日はそれをひとつだけ持ち帰ることにしよう。



明日も君にとって

ゆるく優しく楽しい一日に

なりますように。

















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