極上の甘露を秘めた、菓子のごとき珠玉の掌編

作者の手掛ける掌編は、どれもこれもと目移りしてしまうほど多彩だ。
豊饒な語彙と知識、頭抜けた筆力に裏打ちされた作品群は、さながらショウ・ケースに並べられた宝石のごとき小さな菓子。時に典雅で、時に妖艶、優美でありながらも隠微な毒の香る物語たち。とりわけ、この作品は、優雅で口溶けのいい珠玉の逸品であると思う。登場する菓子や音楽から窺い知れる造詣は嫌味なく。
甘やかな語り口と幼げな口吻には、すこしの官能がいいアクセント。
ほどよく皮肉の利いた後味も、読後の余韻に似つかわしい。
この作品を何度も堪能できる僥倖に小躍りしたくなってしまう。作者の生み出す掌編たちが、まだ見知らぬ読者の目に触れるのを待っていることにも。魅惑のショウ・ケースの前で、それでもどれかひとつを選ぶなら、私はいつだってこの「ミニャルディーズ」を選びたい。「かのこ」が、麗しの「あの方」を恋い慕うように。

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