青年と大人の戦いを子供の視点で読み解く物語

 魔族と人が戦う世界において、魔族に抗するために異能を持つ者を育成する学園アステリア、その特異な学園の中でも戦闘部隊として選抜される対魔族能力科に所属するヒューズ、フレッド、マリー、レインたちを中心にこの物語は紡がれていく。

 この作品の魅力はまずは主人公たちの戦闘描写が挙げられる。序盤では入学したばかりのヒューズの視点によって、フレッドの魅力でもある粗削りな戦い方、マリーの直接戦闘は不得手だが大地を荒野に変える程の光の異能、レインの攻防に優れた氷の異能、そしてヒューズ自身の雷の異能を我々読者は目の当たりにすることができる。それぞれの能力と性格がはっきりと分かれており、個性に応じた戦闘の展開は十分な説得性を以って楽しませてくれるだろう。

 次の魅力は彼らの戦いを彩る教師のジンと敵役のアルフェルグだ。ジンは学園の教師として、少年たちを導き育成するのだが、謹厳実直な教師ではなく、ユーモラスで余裕のある性格をしている。その彼が戦いとなると魔族を圧し、頼もしい背中を少年たちに見せてくれるのだからたまらない。こういう大人がかっこいい小説は大賛成である。少年たちが成長し、未来を実力で勝ち取っていくのに、大人が情けないのでは読み手の大人がしぼんでしまう。この小説ではその心配はない。若い読者は主人公たちに共感し、大人はジンに自分が在りたい大人としての理想を託して読み進めることができる。
 敵役のアルフェルグについても同様で、人族と比べて、魔族の衰退や立場に不満を持ち、劣勢な自分達を何とか挽回しようとする彼に、青年期の社会に対する不満と意気込み、挑戦などが重なり、つい応援をしてしまうのだ。未来のために後進を育てるジンと、ひっくり返せない秩序を築いた大人達に反抗するアルフェルグの視点で見るとこの物語はより深みを増すと思う。私達は主人公の少年たちの視点で大人と青年の戦いを体験することになるだろう。
 また、狼王シリウスやシャウラなど、他の敵のキャラクターの魅力的を語りたいのだが、それは是非本文で読んで欲しい。敵は敵の道理があるのだ。

 そして番外編を楽しんで欲しい。これを読んで私のこの小説で一番好きなキャラクターはジンとロシェになった。長編小説を読了した後、こういうキャラクターの深堀をされると小説を読み直さないわけにはいかないではないか。新たな解釈に嬉しい悲鳴を上げながら本編をもう一度読み直した私が保障する。

 アステリアの白雷は第二部の構想があるとあとがきに書かれているので続きを楽しみに待ちたい。これからこの小説を読む人は私と同じ気持ちになるはずだ。

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