異界大戦 2

「将軍!! これ以上は私共では立ち向かう事は不可能です!」


一人の兵士が完全武装の鎧を身に纏い、降りかかる火の粉を払うように、邪神龍軍の兵士を次から次へと薙ぎ払う勇猛な武将へと叫んだ。


「なんと無様!! 姫様達とお供する事もできぬのか!?」


迫りくる敵を瞬殺しながらも、口惜しそうに怒りの言葉を上げる将軍。

その横では、将軍へ報告にきた兵士も、敵の兵士と交戦しながら、将軍の言葉を聞き、それに無言で答える。


「・・・・くそ! われら連合軍は現状を維持! 異界門いかいもん周辺の戦闘域から漏れる兵力を全て叩く!!」

「はっ!!!」


将軍は大地の中心、異界門がある方向を眺める。


「皆様方、どうかご無事で・・・」


将軍は、戦闘の激しさを増す中心へと視線を向け、一人呟き祈る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・ガッ!! ドゥッゴンンン!! ガッ!! ガァ! ガン!!!! 


「グ、グルフェル様!! 大丈夫ですか!?」


敵の上級兵士が襲い掛かる中、凛とした声が戦闘の爆音に負けずに戦場を駆け巡る。

その声の主は、一人の少年の前に背を向け仁王立ちになり、敵兵士からの攻撃を全て防御していた。


「ラリーア! 無理しないで! エルフの君は物理的な攻撃の耐性は低いんだからね!」

「何言っているのですか! グルフェル様こそ有効な攻撃手段が殆ど無いのですよ!? こんなに前に出てどうするんですか!」


黒のズボンに白いシャツとラフな格好に魔導印が幾つも込められた魔導師用のマントを羽織る少年と、緑色に金色の髪が混じる美しいエルフの女性がその少年を庇うように敵兵からの攻撃を防ぎながら怒鳴っていた。


「ご、ごめん、でもみんなの支援をするのに、なるべく近い方が効果が強いんだ。だから・・・・・」

「まったく、いつも無茶ばかり・・・こういう時こそ私達を盾にしてもらわないと」

「え? でも、でも女の子ばかりに大変な思いをさせて矢面に立たせるのは・・ね?」

「はぁ~」


大きくため息をつくラリーア。


「どちらが大変なんですか。私達はグルフェル様から強力な支援強化を貰っているのですよ? そう簡単に怪我なんかしません! それよりあなたの方が心配なんです! そうやってすぐ私達の事ばかり考えて、自分の事の安全には無頓着なんですから!・・・普通の魔導士ならとっくに死んでいますよ!!」


前方から波の様に押し寄せてくる敵兵を薙ぎ倒し睨みながら、大粒の涙を流す。


「あ! ラリーア、な、泣かないで」


支援魔法の操作する手を休める事はなかったが、オロオロするグルフェルの様子は、ここが戦場だということを忘れさせてしまいそうだった。


「おい! 何? 二人でいちゃついているんだよ!」


そんな異質な状態の二人の所に、声を掛けてきた女性がいた。


「クティナ!? ど、どうしようラリーアが泣いちゃったよ!」


情けない顔のグルフェル。


「ほっとけば良いんだよ、旦那! ああやって自分に関心を向けて自分アピールしているんだよ」

「そうなの?」

「な! な、な、何を言っているんですかぁ!! クティナさん! 変な事言わないでください!」


からかいながら笑顔で話すのは、額から角を生やした鬼人族の女性、クティナだった。

クティナは自分の身の丈よりも長い金属の棍棒を目に見えない速さで振り回し、次々と敵兵を爆散させていた。


「それより旦那! 敵さんの守護四天龍も何とか倒せたぜ。これで結界が出来上がるのを待つだけなんだがな、後どれくらいなんだ?!」

「えっと・・そう、うん、後3分くらいかな?」

「ちぇ、まだ3分も、あるんのか?!」

「ごめん! クティナ。これでも頑張っているから」


グルフェルは、額から角の生えた赤髪の女性に申し訳なさそうにしながら応える。


「謝る必要なんかないのじゃ、主様、クティナもかまって欲しいだけじゃからの?」


もう一人の女性が、迫ってくる敵を一発で殴り飛ばして、グルフェルの前に陣取る。


「サリダ! 余計な事言わんといて!」


頬を赤くしながら、鬼人族のクティナが怒る相手は、口から小さな牙を突き出して笑う妖艶な吸血鬼族の女性。


「まったく、あなた達、遊んでないでグルフェル様をちゃんとお守りするのですよ!」


普通に喋りながら、敵と交戦する彼女達に向かい緩やかな口調でたしなめる水人族の女性。

彼女は水色の髪を持ち、穏やかな表情のまま水を操り敵兵士へとぶち込んでいた。


「へ! ノフィエル姉! そんなの言われなくても分かっているって!!」


水人族のノフィエルの直ぐ横で、両手両足を付け地面すれすれに身をかがめ、敵兵士を威嚇する獣人族の女性がさも当然のように言い切る。


「あら、エルダちゃんも無事だったのね」

「当たり前だろ! それより後方からもう一人来たよ」


獣人族のカダエルダが、中心とは反対の後方から飛んでくる黒い服を着た女性を指さしていた。


「遅くなった。後方の主戦力はほぼ壊滅させたわ。あとは後方部隊に任せれば持ちこたえられるよ」

「パルフェルカ! ありがとう! これで前に集中できるよ!」


空から舞い降りた黒い服の少女、パルフェルカは頬を赤くし小さく頷いた。


「グルフェル様! これで六人、聖戦姫せいせんき、全て揃いましたよ!」


エルフのラリーアが叫ぶと、グルフェルも小さく頷き、自分を中心に取り囲む彼女達を見回

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