幸か不幸か 2
赤い・・無数の牙が迫ってくる! や、やめろ!
僕は慌てて走り出す。恐怖いかられ自分でも信じられないくらいの速さで駆けている。
グゥオオァアァアアアアア!!!
でもその牙はどんどん迫ってくる。重苦しい腹の底に響きそうな、おどろおどろしい鳴き声を放ちながら、迫ってくる。
逃げれない! 喰われる!
その牙が僕の足を捉えた。僕はそのままの勢いで転げ動けなくなる。
地に倒れ見上げるその先には赤い舌と、大きな牙が生える魔獣の口が僕の目の前にあった。
「た、助けて!!!」
ハア、ハア、ハア、ハア、ハア・・・・・あ、あれ?
「魔獣は?」
心臓が激しく動悸する。胸に手を当て落ち着かせる。
「あれ? 心臓? 鼓動がある・・・・僕、生きているのか?」
自分の心臓を手で感じたせいだろうか。急に落ち着いて考える事ができた。
僕は両の掌を見つめた。
「ちゃんと有る。どこも怪我してない」
それから僕は自分の体をあちこちと触りまくる。別に変態じゃないぞ。どこか痛むところとか、欠損しているところが無いか確認しているだけだ。
「大丈夫、ちゃんと首も繋がってる・・・・ちゃんと生きてる!」
なぜだか涙が出てきた。嬉しかったのか、悲しかったのか、怖かったのか、色々な感情がいっぺんに湧き出て訳が分からなくて泣いた。
・・・・・・僕は、暫くの間そのまま泣き続けていた。
「ふう、やっと落ち着いた・・」
たくさん泣いたせいだろうか? とても頭がすっきりとしていた。そのおかげで周りを見る余裕が出来たと思う。
「先ずは、ここが何処か、だけど・・・どこかの部屋? か?」
そう、ここは部屋だ。床は板木が敷いてあり、壁も腰までは同じような木板を貼った様になっていてそれより上、天井までは白い土、いや漆喰の壁が塗られている。天井は骨組みの大きな梁や小屋束などが見え勾配になっている屋根の裏板が見える。こじんまりとしているけど、掃除も行き届いているし、板木はちゃんと磨かれていて飴色に輝いていた。
「人がちゃんと住んでいる部屋だ。僕の家とは雲泥の差だな」
あ、僕の家と言うのは、僕を森の奥に捨てると言った親の家だ。あそこも木造の家だが、板木は手入れしていないせいで、灰色にくすんでいたとおもう。
それに僕が寝ているベッドだが、マットも程好い硬さで白いシーツを被せてあって清潔感が半端ない。しかも布団はとても軽いし温かい。
・・・・たぶんこれ羽毛の布団だろう。こんな寝具だけでも結構な高級品だぞ?
僕はベッドの上に上半身だけ起きて、改めて周りを見回した。
このベッドもそうだが、置いてある二人掛けようの小さなテーブルにしてもそれに対となる椅子も、あれはチェストだろうか? 飾り気は無いが本木の無垢材で加工され、長い年月をかけて手入れしてきた事を伺わせる骨董家具。
「うん、良い趣味している」
部屋の大きさや雰囲気からは、成り上がりの大金持ちの屋敷とは違う、こじんまりとしていても住む人のセンスの良さが伺える。
どこぞの貴族か?
そんな事を考えていると、扉の向こうに人の気配を感じて、ついそちらに視線を送ってしまった。
僕の視界に薄緑色の綺麗な髪を後ろで束ね、髪と同じ色の大きな瞳の女の子が入ってきた。
「!?」
あれ? なんだか凄く驚いている様な? え? ちょっと泣いてる? いったいどうしたんだ?!
「よ、良かったああああああああ!!!」
こちらが慌てている間に、大声を張り上げたと思ったら、いきなりベッドの上に飛び込んできて僕を強く抱き締めてきた。
と、いうより、く、首! 入ってるって! い、息が!!
グウ!!
「良かったよおお! このまま目覚めないんじゃないかってお姉ちゃん心配しちゃったよ! もう大丈夫だからね! 何も心配しなくて良いから・・・・ぼ、僕?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「きゃああああ!! ぼ、僕! しっかりして!! お、お婆ちゃん!!」
何度目かの死の世界を見たような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます