六人の戦姫は最弱魔導士を選ぶ?

ユウヒ シンジ

異界大戦 1

ファルナザード。多種多様な人類がそう呼ぶこの世界。

その北方の大地に突如、異界と通じる穴が出現した。

小さな村がすっぽりと飲み込まれてしまう程の大きな穴から現れた邪神龍じゃしんりゅうが率いる軍隊によって人類はその勢力を大きく奪われる事になった。

人々は絶望し、自ら命を絶つ者さえ出始めた頃、7大種族に天啓が下された。


「みんなあ~、元気~? な、わけないか。私は天界に住まう神の一柱、アマラスって言います。以後よろしくねぇ」


やたらと軽い乗りの女神様だったが、人類の一方的な滅亡へ歩むその姿を愁いて、力を授けてくれるという。

人類は喜んだ。これで助かると。だが一人の王が疑問を口にした。


どうして、今まで人類に力を与える事がなかった神様が、今回は与えて下さるのかと?


女神、アマラスは躊躇なく答えてくれた。


「いやあ~、お恥ずかしい話なんだけど、この邪神龍、その名の通り神に属するんだけど、私達に反旗を翻して、天界を乗っ取ろうとしてきたのよ。で、それを私達、天界神が総力をあげて立ちはだかったら、ワンパンで退けちゃった。てへ。そうしたら邪神龍ちゃんったら拗ねちゃってねぇ、今度は地上世界を乗っ取ろうして、こっちに来ちゃったって訳よ。ごめんね。私達が徹底的に懲らしめておけば良かったのに、あんまり簡単にやっつけちゃったから、ほっといちゃったのよねぇ。失敗だったわ。だから、地上世界の迷惑かけたお詫びに、龍軍と戦える力を与えてあげようかなってね」


ファルナザードの人類は、なんだこの女神? と思いつつも、せっかく貰える力ならと素直にもらっておくことにした。

そうして人族を除く6大種族に聖戦士の名を神から賜る者が現れ、その者達を中心に人類は、邪神龍の軍隊の侵攻をくい止める事に成功した。その者達が全て女性だったこともあり、みなが、聖なる戦姫、聖戦姫、と呼ぶようになった。

だが、くい止める事には、成功したものの、邪神龍の軍隊を撃退するまでには至らなかった。


人類は再び女神に問うた。

何故、アマラス神様から授かった力でも邪神龍軍を押し返せないのかと?


「え? そんなの決まっているじゃない。私は7つの種族に天の力を授けたのよ? それが6つの種族だけの聖戦士なら無理に決まっているでしょ? 後の残りの種族の聖戦士が必要なの」


残りの種族。それは普人族だった。

人類は薄々は気づいていたのだが、いっこうに普人族から聖戦士としての強さを見せる戦士が現れないので、6大種族は諦めていたのだ。

それでもアマラス神の言葉を受け、普人族の戦士を何度も調査し、訓練し、聖戦士を探しだそうとしたのだが、結局見つけることができなかった。

その間にも邪神龍軍の侵攻は続き、次第に人類が押されその領域を犯され始め出した。


人類は滅亡という文字を身近に感じ始めた頃、一人の少年が軍の魔導師として最前線に送られてきた。

だがその少年は支援魔法しか使えない最弱の魔導士だった。

魔導師とは攻撃、治癒、創造、精神、支援魔法など多種多様な魔法を使える者を指すのだが、多くの魔導士が死に、人手不足となりつつある前線に送り込める優秀な魔導士はさほど残っていなかった。

その為、この少年の様に支援魔法しか使えない者まで最前線に投入せざるをえなくなっていた。


支援魔法は他人を支援強化する事と結界を作り出す事が可能な魔法だが、最大の欠点があった。

他人に支援魔法は掛けられるが、自分には掛けれないのだ。

なので自分を守るのには、結界かそれ以外の魔法が必要なのだが、結界には術式と綿密な魔力操作が必要で咄嗟には作り出せないため、防衛手段にはむかなかった。

つまり支援魔法しか使えない少年は単独での防衛手段がなく、常に戦士に守られなくてはならなかった。

当然、戦闘ではお荷物になるのは目に見えていた。

なので、主に少年は前線の備蓄庫の防御結界の操作くらいの仕事しか回されていなかった。


ところがある日、エルフ族の聖戦姫、ラリーアの部隊が、邪神龍軍との戦闘で劣勢に立たされ、たまたま近くにいた魔導師部隊として参加していた少年の所に一時避難して来たのだ。

激しい戦闘で傷ついた聖戦姫、ラリーア。

そこに、薬を運んで来たのが少年だった。


「く、薬をお持ちしました」

「あ、あなたは? まだ幼いわね? 魔導師なの?」

「はい! 普人族の魔導師で、グルフェルと言います」

「そう、普人族の・・・私がここを出たら、すぐに後方へ引きなさい。でないと早死にしますよ」


少年グルフェルは、始めて見る聖戦姫のラリーアの美しさに心を奪われた。

だがその反面、ラリーアが、自分が普人族と言った時の落胆の顔を見たとき、情けない気持ちが沸き起こっていた。

何故、僕は普人族で、支援魔法しか使えない魔導士なんだろうと。

怪我をした彼女にまで、逃げろと言われるひ弱な自分が恨めしかった。


力が欲しい! 彼女を助けられる力が欲しいと、グルフェルは強く想った。


「え? 何、この光は!?」


ラリーアを包む光が突然に現れた。

それは、グルフェルがラリーアを想う気持ち、助けたいと強く願う気持ちが切っ掛けとなって生まれた光。

聖なる光だった。

ラリーアを包むその光は、失われていた体力と魔力を補充し、何より、体力、身体能力、判断力、精神力、耐性力を著しく跳ね上げさせていた。


「そ、そんな、今までどんな優秀な魔導師でも、私達、聖戦姫をここまで支援できる魔導師はいなかったのに? それに何? この安心感は・・・とても気持ち良い・・・」


そう、これこそが普人族に与えられた聖なる力、6人の聖戦姫を支援する唯一の聖魔導師として選ばれた者こそ、グルフェルだったのだ。


その日より、グルフェルは6人の聖戦姫と共に邪神龍軍と戦い、次第に敵を駆逐し確実に人類の勢力を取り戻していった。

そして、始まりの地、北の大地に出来た異界の門まで、人類は邪神龍軍を追い込んでいた。

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