幸か不幸か 5
「それ! いい考えです、お婆様!」
両手を上げて喜ぶ美少女は福眼だけど、
「ちょっと待って下さい! どこの馬の骨とも分からない人間を簡単に住まわすなんて、しかも僕は普人族ですよ? エルフ族のしかも高位な方とお見受けします。そんな方のごやっかいになるなんて!」
「あら、本当に丁寧なお言葉ですね。あなた本当に5歳児ですか?」
「・・・・・・・」
「ごめんなさい。別に責めている訳ではないの。ただ、その歳にしてはしっかりし過ぎている事も、魔獣が生息している森に捨てられていた事とかを考えると、さすがにほっとく事はできないの」
「でも、それこそどんな裏事情があるとか、厄介事になるとか思われないのですか?」
普通に考えれば、死にかけで、5歳児のくせに変に丁寧な言葉を話すなんて怪しいにも程があると、自分でも思うのに。
「え? 当たり前じゃない不思議さいっぱいよ?」
「なら、どうして?」
「子供を守るのは大人の使命、こうやって知り会ったのだからもう無関係ではないの。あなた一人ぐらいなんとか出来るくらいの力はあると自負していますから、大丈夫ですよ」
? 何だろう? 物凄く懐かしい感覚だ。
そういえば昔、ラリーアが同じような事言われたな。
(何ですか! 普人族がなんだっていうのです! 支援魔法しか使えないから、何だっていうんです! グルフェス様の才能は私が一番理解しています! 誰にも文句は言わせません! 私ならそれぐらいの事、何とでもいたしますわ! それぐらいの力はあると自負していますもの!)
うん、そんな感じだった。
そう言えば、同じエルフ族だな? 案外、血縁者かもしれないな?
でも、正直助かるのは本当だ。
「・・・本当に、宜しいのですか?」
ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
どう考えても今の僕では、一人放り出されたら確実に死しか思い付かないもの。
「こどもが遠慮する事などありません。素直に私達と一緒に暮らしましょう」
「ね!? そうしようよ! ね?」
美しい女性エルフと美少女のエルフがぐいぐいと誘ってくる。
とくに美少女のエルフの追い込みはちょっと、凄いな。
ベッドの上に座っている僕を押し倒そうとでもするかの様に迫ってくる。
「わかるでしょ? 一番の理由はこの子が何故か君を物凄く気に入ったみたいなのよ」
え? こんな僕の事が?
「どうして? こんなに小っこいし、痩せてガリガリだし、髪もボサボサ、たぶん顔だって痩せこけてるから不気味じゃないの?」
僕はまだ自分をちゃんと見たことが無いから分からないけど、たぶんこうして両手や足、体を見ても、骨皮だけだし、横目でチラチラ見える髪の毛なんか、どす黒く汚れた灰色だし、だから顔もかなり痩せこけて不気味なんだと思う。だから
「だから何よ! 僕はたぶん物凄く可愛いはず! 私の女性力の感がピンポイントで警鐘を鳴らしているわ! それに潜在魔法力も良いものを感じるもの! 魔力の質もたぶん私と相性が良いと思うのよ!」
きっぱりと胸を張って断言する美少女エルフさん。
ちょっと呆気にとられてしまって僕は目を丸くしてしまっている。
はは、凄い女の子だな。でも嫌な感じはしない。うんたぶん本心だと思う。
まあ、僕が可愛いかどうかは別にして、彼女達は信用出来ると思う。なら・・
「わかりました。御厄介になります。ただもしあなた達にとって僕がいることで不都合が生じた場合はちゃんと言ってください。その時はここを出て行きますので」
僕がそう答えると、彼女達は何故か複雑な顔をして、苦笑いを浮かべた。
「君、ほんと子供らしくないね? それはちょっと直さないといけないな」
「そうね。ここは私達でちゃんと教育する必要がありそうね?」
う、苦笑いが、今度は何かを企むような変な微笑みに変わった気がする・・
「まあ、とにかく了承してくれて嬉しいよ。そうだ! まだ君の名前聞いて無かったね?」
美少女エルフさんがそうだ! という感じで手を叩きながら聞いてきた。
そう言えば自己紹介してなかったな。
「えっと、そうですね。では改めて僕は・・・・・・・なんて言う名前なんでしょう?」
「「はあ?」」
二人の目が痛い。馬鹿さかげんにも程というものがあるよね?
でも、今更ながらに思い起こすと、こちらに生まれてからの記憶なんて、親に罵られ、叩かれ、ろくに話すらしてない記憶しかないぞ? それに名前で呼ばれた記憶が無い。
だからと言って、前世の名前を言うわけにもいかないよね?
「その、たぶん親だった人に名前をつけてもらえてないと思います」
僕は少し恥ずかしくて俯いて喋ってしまったのだが、それがかえって良くなかった。
お二人が急に涙を流して、僕を強く抱き締めて来られた。
「ちょ、ちょっと! どうしたんですか!?」
「ご、ごめんね!! 嫌なこと思い出させちゃったね!」
「本当にごめんなさい! 私の配慮不足だわ!」
うん、やっぱりこの二人良く似てるわ。
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