王道に見えて独創的。物語の世界に浸る楽しさを思い出させてくれた。
- ★★★ Excellent!!!
かなりの長編なので時間をかけて読みましたが、読了して感じたのは「何でこれが書店に並んでないの?」でした。
指輪物語のような名作ファンタジーが並んでいる棚に差さっていても遜色ない、緻密に世界が練り上げられた最高のハイファンタジーです。
敵味方共にバリエーション豊富なユニークな登場人物と、魔法の不思議と、新たな世界が眼前に広がっていく心躍る冒険譚でもあります。
物語の基幹は、勇者をはじめとする、賢者・魔法使い・神官・吟遊詩人というRPGのようなパーティが組まれ、世界のために魔王の打倒を目指すというもの。親しみやすいこの設定で、テンプレートを想像して軽い気持ちで読み始めたらもう大変。個性的過ぎる登場人物の繰り広げるすべてのエピソードは、どこかで見たような展開など一度もしてくれなくて、予想をどんどん裏切っていく……。
この作品のお薦めポイントとして最大なのが、心が傷つかない事。
人を感動させるという目的で、容易に登場人物を傷つけ、時には死なせてしまい読者の心をも疲弊させる作品が繁茂する中、戦いを伴う冒険譚ですからこちらの作品も登場人物が辛い体験をしたり苦しむ事があるけれど、仲間達の存在が、行動が、傷ついた登場人物を癒し、同時に読者も癒されるという。大きな苦難にぶち当たってハラハラしながらも「彼らなら大丈夫」という安心感。だからとことん物語に浸り、心ゆくまで感情移入する事ができました。
とにかく気付けば、物語の中の彼ら全てが好きで、愛おしくなり。
一話が長いため隙間時間にパラっと読む事は出来ませんが、読み始めると腰をすえてじっくり読む時間を作りたくなります。
ベッド脇の本棚に常備して、眠る前に何度も繰り返して読みたくなるような、そんな名作でした。
この物語に出会えてよかったと、心から思える作品です。