「シダルがいるから大丈夫」そう思わせてくれる、彼こそ勇者。

 その強さゆえに、秘境の村で誰にも受け入れられずひとり生きてきた純朴で心優しい青年、「狼」。その彼が、神託により勇者シダルとして旅立つところから物語は始まります。
 ところが、魔王を倒し世界を「淀み」と呼ばれる穢れから救うはずの勇者の仲間は、およそ戦闘向きではない者ばかり。しかし最初は頼りないと思われた彼らも、旅の中でシダルを助け、肩を並べる存在となっていきます。シダル自身の成長だけでなく、仲間の成長と変化もこの物語の魅力の1つです。そして物語がシリアスな局面に入っても、友愛(と、へんてこ加減)を忘れない登場人物たちのお陰で、希望を見失うことなく読むことができます。
 仲間たちの素晴らしい友愛と並んで、物語を彩るのが2つの恋です。不器用だけど、清らかで真っ直ぐに人を愛する彼らの恋を(やきもきしながら)応援しない人はいないでしょう。
 また、魔法の理論やさまざまな種族とその世界について緻密な設定がされている一方、「全てを説明しない」ということがとても意識的に効果的に行われているので、存分に物語世界に没入することができます。複雑な世界にも関わらず、常に物語のスピード感が保たれていて、素晴らしいと思いました。

 さて、純朴で心優しき勇者シダルは、残酷な運命に立ち向かい、その名のとおり信念を貫きとおすことができるでしょうか。ぜひ、ご自身でお確かめください。そしてシダルたちと一緒に泣いて笑ってください。

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