神託によって選ばれた勇者とちょっと変わった仲間たちの旅の行方は——?

 辺境に暮らす圧倒的な力を持つ青年が、神のお告げによって勇者に選ばれ、魔王を倒す旅に出る。

 ファンタジーの王道ストーリーのはずなのに、この物語の勇者とその「剣の仲間」たちは一味も二味も違います。

 癒しの力は圧倒的だけれど、敵である竜にまで情けをかけて勇者の剣を止めて隙をつくらせてしまう「神官」。知識と魔術は素晴らしいものの、魔王そのもののような容貌と雰囲気の「賢者」。目を奪われるほど美しく圧倒的な魔力を持つのに、戦闘中にシチューを煮始めてしまうような行動が読めない「魔法使い」。唯一、常識人に見える美しい「吟遊詩人」は、血が苦手でやっぱり戦いには向かない。

 そう、勇者以外の仲間は、ほとんど戦う力を持たないのです。
 けれど、読み進むにつれて、どうして彼が勇者に選ばれ、そして彼らが勇者の仲間——剣伴として選ばれたのか、むしろ彼らでなければならなかったのか、が徐々に明らかになっていき、同時に本当に強く優しい彼らを好きにならずにはいられません。

 さらに物語に花を添えるのが、勇者と魔法使いそれぞれのとても個性的な恋。二人の純粋さがとてもとても厄介なそれぞれの相手の心を動かしていく様子が、本当に切なく美しいのです。

 世界の淀みと人間の罪という重いテーマが根底にありながらも、思わず爆笑してしまうような楽しいエピソードと試練や苦難のお話のバランスがよく、退屈する暇もなくあっという間に読み切ってしまいました。

 ドラゴン、ドワーフ、人魚など幻想的な生き物が生き生きとしている魔法に満ちた世界で、多くの困難と向き合いながらも、シダルたちならばきっと大丈夫、と何となくそう信じて心の底から楽しむことができる正統派ハイ・ファンタジー。ぜひ彼らと共に旅をして、勇者シダルと仲間たちの物語を見届けてください。

 最後にこれだけは言いたいのですが——ハイロが最高に可愛いです!

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