かなりの長編なので時間をかけて読みましたが、読了して感じたのは「何でこれが書店に並んでないの?」でした。
指輪物語のような名作ファンタジーが並んでいる棚に差さっていても遜色ない、緻密に世界が練り上げられた最高のハイファンタジーです。
敵味方共にバリエーション豊富なユニークな登場人物と、魔法の不思議と、新たな世界が眼前に広がっていく心躍る冒険譚でもあります。
物語の基幹は、勇者をはじめとする、賢者・魔法使い・神官・吟遊詩人というRPGのようなパーティが組まれ、世界のために魔王の打倒を目指すというもの。親しみやすいこの設定で、テンプレートを想像して軽い気持ちで読み始めたらもう大変。個性的過ぎる登場人物の繰り広げるすべてのエピソードは、どこかで見たような展開など一度もしてくれなくて、予想をどんどん裏切っていく……。
この作品のお薦めポイントとして最大なのが、心が傷つかない事。
人を感動させるという目的で、容易に登場人物を傷つけ、時には死なせてしまい読者の心をも疲弊させる作品が繁茂する中、戦いを伴う冒険譚ですからこちらの作品も登場人物が辛い体験をしたり苦しむ事があるけれど、仲間達の存在が、行動が、傷ついた登場人物を癒し、同時に読者も癒されるという。大きな苦難にぶち当たってハラハラしながらも「彼らなら大丈夫」という安心感。だからとことん物語に浸り、心ゆくまで感情移入する事ができました。
とにかく気付けば、物語の中の彼ら全てが好きで、愛おしくなり。
一話が長いため隙間時間にパラっと読む事は出来ませんが、読み始めると腰をすえてじっくり読む時間を作りたくなります。
ベッド脇の本棚に常備して、眠る前に何度も繰り返して読みたくなるような、そんな名作でした。
この物語に出会えてよかったと、心から思える作品です。
その強さゆえに、秘境の村で誰にも受け入れられずひとり生きてきた純朴で心優しい青年、「狼」。その彼が、神託により勇者シダルとして旅立つところから物語は始まります。
ところが、魔王を倒し世界を「淀み」と呼ばれる穢れから救うはずの勇者の仲間は、およそ戦闘向きではない者ばかり。しかし最初は頼りないと思われた彼らも、旅の中でシダルを助け、肩を並べる存在となっていきます。シダル自身の成長だけでなく、仲間の成長と変化もこの物語の魅力の1つです。そして物語がシリアスな局面に入っても、友愛(と、へんてこ加減)を忘れない登場人物たちのお陰で、希望を見失うことなく読むことができます。
仲間たちの素晴らしい友愛と並んで、物語を彩るのが2つの恋です。不器用だけど、清らかで真っ直ぐに人を愛する彼らの恋を(やきもきしながら)応援しない人はいないでしょう。
また、魔法の理論やさまざまな種族とその世界について緻密な設定がされている一方、「全てを説明しない」ということがとても意識的に効果的に行われているので、存分に物語世界に没入することができます。複雑な世界にも関わらず、常に物語のスピード感が保たれていて、素晴らしいと思いました。
さて、純朴で心優しき勇者シダルは、残酷な運命に立ち向かい、その名のとおり信念を貫きとおすことができるでしょうか。ぜひ、ご自身でお確かめください。そしてシダルたちと一緒に泣いて笑ってください。
辺境に暮らす圧倒的な力を持つ青年が、神のお告げによって勇者に選ばれ、魔王を倒す旅に出る。
ファンタジーの王道ストーリーのはずなのに、この物語の勇者とその「剣の仲間」たちは一味も二味も違います。
癒しの力は圧倒的だけれど、敵である竜にまで情けをかけて勇者の剣を止めて隙をつくらせてしまう「神官」。知識と魔術は素晴らしいものの、魔王そのもののような容貌と雰囲気の「賢者」。目を奪われるほど美しく圧倒的な魔力を持つのに、戦闘中にシチューを煮始めてしまうような行動が読めない「魔法使い」。唯一、常識人に見える美しい「吟遊詩人」は、血が苦手でやっぱり戦いには向かない。
そう、勇者以外の仲間は、ほとんど戦う力を持たないのです。
けれど、読み進むにつれて、どうして彼が勇者に選ばれ、そして彼らが勇者の仲間——剣伴として選ばれたのか、むしろ彼らでなければならなかったのか、が徐々に明らかになっていき、同時に本当に強く優しい彼らを好きにならずにはいられません。
さらに物語に花を添えるのが、勇者と魔法使いそれぞれのとても個性的な恋。二人の純粋さがとてもとても厄介なそれぞれの相手の心を動かしていく様子が、本当に切なく美しいのです。
世界の淀みと人間の罪という重いテーマが根底にありながらも、思わず爆笑してしまうような楽しいエピソードと試練や苦難のお話のバランスがよく、退屈する暇もなくあっという間に読み切ってしまいました。
ドラゴン、ドワーフ、人魚など幻想的な生き物が生き生きとしている魔法に満ちた世界で、多くの困難と向き合いながらも、シダルたちならばきっと大丈夫、と何となくそう信じて心の底から楽しむことができる正統派ハイ・ファンタジー。ぜひ彼らと共に旅をして、勇者シダルと仲間たちの物語を見届けてください。
最後にこれだけは言いたいのですが——ハイロが最高に可愛いです!
狩人だった主人公が勇者に選ばれ、とても個性的な仲間と魔王討伐の旅に出る物語です。
黒い靄が見える主人公。そのせいで村では周りに気味悪がられていた。そんな彼が狩りの途中大怪我をしていたところ、魔法使いに助けられる。そして魔法使いに連れていかれ、神官、吟遊詩人、賢者と出会う。その出会いは彼にとってかけがえのないものであり、例え彼らがとても個性的であったとしても勇者であることを決意するに足るものであった。
狩人だった勇者が非戦闘員の仲間たちと繰り広げる異世界ファンタジーコメディ。こういうのを仲間っていうのだろうなぁと、人間関係に荒んだ心にしみる作品となっています。