冷戦時代の終わり頃、民主化の波がひたひたと迫る共産主義国家、ロマニオ。浮浪児だった主人公イオナは、秘密警察セキュレシティに拾われ、育てられます。養成所では落ちこぼれの彼女には、ひとつ、特別なものがありました。それは身体能力を飛躍的に高める禁断の薬、ドラクラムの高い適合性。しかし戦闘能力以外はからきしのイオナは常に、役ただず、殺処分対象、と蔑まれています。そんな彼女は、任務で向かった軍士官学校で、先輩ルイザの優しさと親切さに触れることになります。そうして、イオナのルイザに対する想いは、憧れからいつしか恋心へと姿を変えていくのでした。
自分を寒さと飢えから救ってくれた国家に純粋に忠誠を誓っているイオナですが、究極の選択を迫られた時、彼女はどう行動するのでしょうか。また、このイオナの恋心はどこへ向かうのでしょうか。
ちょっとおとぼけなイオナがドラクラムを飲んで変貌する戦闘シーンの疾走感と、ルイザを一途に病的なまでに想うシーンのコントラストが素晴らしいです。また、読者の目からは危うい程の国家や独裁者に対する心酔が描かれるのですが、それが物語にとても効果的に作用していると感じました。