二章 生産職とエンチャント

 翌日、俺がログインしたのは、午後からだった。かって? それはもちろん、食材の買い出しにそうせんたく、食事の準備で午前の時間を費やしたからだ。

 俺もゲームでまとまった時間が欲しいから、昼ご飯は夏野菜カレーだ。夕飯も同じメニューだけど、文句は言わせない。

「お兄ちゃん。私のレベルが上がって【剣】のセンスを【片手剣】に派生させたんだよ!」

「へぇ、良かったな」

「それからね、新しい友達もできたの。今度の子は、可愛かわいくてれいただしい子なんだよ」

「……そうか」

 お前はいいな。家事が下手というめんざいでゲームができて。それとだいじようか中学三年。俺たちの学校はエスカレーター式だからといって勉強放置は感心しないぞ、と一応言うが、全く聞いていないのだ、この妹は。

 しゆには全力投球。それ以外はアホの子のが、リアルでは心配なのに、なぜゲームだとあれほどたのもしいのか。

 だがまぁ、俺はサポート、俺はサポート。そう自分に言い聞かせる。


 そして俺は、またユンとしてログインする。

 降り立った場所は、西のセーフティーエリア。昨日は【調合】でポーションや毒物を作ったが、素材が足りない。そして昨日手に入れたセンス【細工】だが、あれは最低限の設備としてけんセットとけいたいセットが必要なのだ。

 研磨セット300G、携帯炉は800G。今の所持金ではどうしても足りない。とにかく、まとまったお金をかせがなきゃならない。

 ようとかも何に使うか分からないし、キノコや薬草は、手に入れたはしから【レシピ】でかんそうさせて【調合】と【魔力】を成長させる。

 今の所持品は──木の矢×90、ポーション×25、初心者ポーション×50、石ころ×75、腐葉土やキノコを始めとした各種アイテムだ。

「うーん。これだけあれば300Gくらいで売れるかな? つうよりちょっぴり効果高いし」

 俺は、小さな自信と共に、林をけて第一の町へと戻る。ちゆうの平原で弓矢の練習がてら何びきかのそうしよくじゆうを相手にする。昨日は付加なしで戦ったが、攻撃力エンチャントをけて戦えば、木の矢でも十分に戦える。

 いや、一番の勝因は、アーツ《遠距離射撃》だ。最大15メートルのはなれた位置から矢を放ち、敵が接近する間に四本放つ。木の矢では、たおすのに五本以上使うが、元はタダ。失敗してもコストパフォーマンス的には痛くない。むしろどんどん消費、どんどん生産してセンスレベルを上げるべきだろう。

 ほくほく顔で町へと入ると、俺に注目が集まっている気がした。いや、まあ初期装備だってこともあるし、それ以前に弓の人って不遇だから、それで注目されるんだろう。

 ちょっとしつけな視線を感じるために、少し速度を速める。

「《付加エンチヤント》──スピード」

 俺はそうつぶやいて、足早に西門前を通り抜ける。時折、すれ違う人が振り返るのを見るが、そんなわずらわしい視線を無視して、てんの広がる広場へと辿たどく。

 直前のなど忘れ、どこで売れるか、と辺りの露店を見てみる。

 事前に調べたことだが、露店はだれでもできるわけじゃない。露店用のアイテムがあり、それをこうにゆうした人だけが持てるのだ。さらにその上にてんというものが存在し、生産職は、その店舗を改装して、自分なりのカスタマイズをするらしい。

 まあ、露店開設アイテムが1万G、店舗を借りるので一カ月5万G、購入だと50万G。俺の所持金いくらだと思う? 130Gだぜ。

 露店には色んな人がいる。ポーションを売ったり、武器を売ったり。現段階で露店や店舗を持っている人は、βベータ版の所持金ぎの人らしいけど。

「やあ、そこの子。見てかない? ほら武器やアクセサリーだよ」

 赤っぽいかみに少しうすめの小麦色のはだの女性が俺に声を掛けてきた。たぶん客引きだ。

 なんか話でもできそうなふん。あわよくば、ポーション買ってもらおう、と思った。

「俺のことか?」

「おおっ!? めずらしいね、俺っだね」

 そういえば、俺って今は、女性型のアバターだった。ヤバイな、人から離れていたからその認識を忘れてた。

「いや、リアルは男です」

「またまた、このゲームは性別いつわれないよ」

「あー、たぶん。機械の誤認なんですよ。だから、その。リアルでも」

「へぇー。機械がちがえるほどに女の子っぽいんだ。いいよいいよ。ロールなんでしょ」

 うわぁ、話通じてないし。もうあきらめよう。

「まぁ、いらっしゃい。マギさんの露店へようこそ。武器やアクセサリー何でもござれ。私は、店主のマギだよ」

「へぇ、もう露店を持ってるってことは、βテスター?」

「そうだよ。君は、えっと……」

「ユンだ」

「じゃあ、ユンくんもそう?」

「いや、友達と姉妹がβからで正式版でさそわれた」

 あはははっ、じゃあ、弓使いって納得、とかわいた笑み。十中八九、不遇についてだろう。

「でも弓はここにはないかな? アクセサリーは基本ぼうぎよ力アップだしね」

「いや、俺も生産職なんだ」

「へー、せんとう持ちの生産か。いいね、私も戦うを目指したけど、戦うと生産系のセンスの成長がおくれるから、正式版では辞めて、鍛冶一筋だよ。もちろん、戦闘はたしなみ程度」

「そうなのか。俺のセンス構成って弓使っているから金欠で」

「あー、分かった。作ったアイテム買ってほしいんでしょ。お姉さん、買っちゃうよ」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

 おどろきつつも笑顔でそう言うと、マギさんは、ずかしそうに顔を赤らめてあいまいな笑みをかべる。小さく、ヤバいね、同性でもこれは、と何やら呟いているが、同性って誰のことだ?

 それはさておき、これはわたりに船だ。マギさんとトレード画面を開き、今ある売れそうなアイテムをせていく。マギさんも赤い顔から復帰したようで、アイテムの品定めを始める。ポーション×25。それが俺の出せるアイテムだ。回復には、初心者ポーションがあるので、今はそれで十分だった。

「へー。自作ポーションか。回復量がちょっと多いから、色付けて一個30Gかな? NPCなら25Gだよ」

「えっと、30の二十五個だから750G!?」

「まあ、まとまった数だからね。もう最前線の人は、初心者ポーション卒業でNPCからポーション買い取れるけど、NPCの一日の供給量ってゲーム内で決まっているの。だから転売屋なんかまとめて買って、露店でぼったくりで売ってるんだよね。まあ、プレイヤーの中には回復ほうメインの人もいるから、そういう人たちをパーティーに組み込んでいるようだよ。じゃあ、ユンくん、また何かあったらお願いね」

 そう言って俺のインベントリの中の所持金が増え、880Gに。

 ……いや、携帯炉セットまでは買えないか。

「あの。マギさん。アクセサリーを作るって言ってましたけど、アクセサリーの性能っての種類によって変わりますか?」

「いや、変わらないけど。加工できる金属の種類が変わるだけだよ。携帯炉だと鉄までだね~。私は鋼までしか見たことないし。ってことは、ユンくんのセンスは【調合】か【合成】。それと【細工】なんだね」

 あー、マギさん。結構ハイレベルのプレイヤーだわ。これだけの会話でセンスの種類くなんて。

「その、三種類あります」

なんなセンス取るね。まあ、ゲームは楽しくだよ。それとお姉さんから一つアドバイス。【細工】の【研磨】ってスキルがあるでしょ? 道具と【細工】センス持っていると、ただの石ころがなんとかの原石とか鉱石になることがあるんだよ。これは、つうしよう──かんてい眼。だから自分で鑑定できれば、アクセサリー分の素材は、回収できるよ」

「あ、ありがとうございます。さっそく試してみます」

「うんうん、それじゃあフレンド登録してくれる? ユンくんおもしろそうだから」

 そうして俺は、町でマギさんというせんぱい生産者と知り合い、研磨セットを購入した。ふところはまださみしいが、580G。次にポーションをそろえたら、携帯炉を買える。

 ほくほく顔で行きと同じようにりをしてセーフティーエリアにもどってきた。

 戻ってきた俺は、必死に石を研磨した。今まで拾った石を鑑定した結果、半分はただの石だったが、残りの半分は、価値のあるものだったことが判明。拾った石の中に鉄鉱石が二十個あったが、炉が無いとインゴット化できない。

 だから今は、【細工】のレベル上げのために、研磨セットで宝石の原石をみがいている。

 ガリガリガリ……と静かな森に音がひびく。うっすらとけずれば、表面かられいな宝石が見える。そのまま削るとこぶしだいあった石が3センチ程度の原石になった。その名も──【ペリドットの原石(中)】。

 この近辺は、ペリドットしか採取できないようだ。どれを削ってもペリドットだ。

 ほかの地域も探せば、別の原石があるかもしれない。いや、町で石を売っている人を探して買い取った方がいいかな? いや、そもそも石を売る人っているのか? いないよな。

 それより、金欠だから無理だ。金策めぐらすにも金が必要なんてがらい。

「つまり、俺は地道に削るしかないってことか」

 まあ、【細工】センスのスキル【研磨】を使えばいつしゆんで加工できるが、【ペリドットの宝石(極小)】になってしまう。普通は、小さくなれば価値も下がる。そしてスキル任せにすると、研磨失敗で割れる可能性も高くなる。センスレベルが低ければ、なおのこと。

 だから、俺は十数個の原石を一つ一つていねいけんしている。それでも割れるものはある。そういう場合、アイテムがしようめつし、生産失敗あつかいだ。

 そうして研磨すること三時間。全部の石を研磨し終え、中が三個、小が七個。残り全ては、ご臨終しました。

 これ以上の研磨は、よりグレードの高い研磨セットを買わなければいけない。

 だが【研磨】のおかげで、【細工】センスは5、【生産の心得】も5になっていた。

 センスはどれも低レベルだが、マイペースに進んでいくつもりなので、全然あせっていない。

 次は、【合成】と【錬金】で検証したいことがある。

 手元にある鉄鉱石。これを、炉をかいさずにインゴットにできるかもしれない。

 【錬金】による上位物質へんかんを利用して、鉄鉱石をインゴットに変える方法。

 炉がないために、インゴットを持つ意味はないのだが、インゴットにできる可能性は無視できない。それに足りなければまた石を拾えばいいだけだ。

 そうして俺は、手元にある鉄鉱石を全て、【錬金】によって変化させる。

「鉄鉱石×20に【錬金】!」

 一瞬の白い光を発したあと出来上がったのは、予想外のものだった。

 ──上質な鉄鉱石。

 読んで字のごとく、鉄鉱石だろう。上質の。それが二つ。どうして上質になったのか。やはりインゴット化は、【】や【細工】などの金属を扱う人の専売特許なのかもしれない。この上質な鉄鉱石は、マギさんに見せて相談しよう。

 続いての実験は、手元のただの石ころだ。

 これを合成に使えないだろうか? 今ある使えそうなアイテムと組み合わせて消費できれば、採取でのがなくなる。

 イメージでしかないが、矢のグレードを木の矢から石の矢へと上げることができるかもしれない。

 矢一本と石一個で試す。光があふれて、出来上がったのは、確かに石のやじりの付いた矢だ。この理論が正しければ、石を鉄や銀に変えれば、それだけ矢のグレードを上げることができる。使い捨てでコストはかりそうだが、石の矢程度なら、コストとこうげき力のいからきようができるかもしれない。

「さて、量産、量産、っと」

 俺は気を良くして、【レシピ】から石の矢を作ろうとしたが、合成すらできない。

【レシピ】には、木の枝、鳥の羽根、そして石の三つ。しかし、現在そのレシピは使えないようだ。

「何で使えないんだよ。三つ……あっ、初心者キットって二つまでしか合成できないのか」

 確か、シートの上にあるアイテム設置のしよは、二か所。つまり、より上位のキットをこうにゆうしないと【レシピ】からの合成ができないのだ。

「また出費かよ! ええい、めんどうだが、木の矢経由でもアイテムが作れることが分かったんだ。ジャンジャン合成するぞ!」

 半ば、やけくそ気味に声を上げ、木の矢を石の矢に作り変えた。木の矢も増産したので、木の矢二セットと石の矢一セット。十分な量を確保できた。

「しかし、矢が使い捨てって本当にもつたいいよな。弓使いがその内、ミスリル製の矢とかを使い捨てるのってしのびないだろ。これって強度が足りないんだよな。合成する木の枝を木材にすればいいのか? でも、木材って高かったんだよな。弓とかつえつくるから」

 一人る。どうしても納得できない。

「もしかして、さっきの鉄鉱石みたいに、素材は変わらずに矢が上質化するかも」

 物は試しだ、と木の矢一セットを丸々れんきんする。

 矢の束は、光に包まれた。

 出来上がったのは、三本の矢だった。一セット三十本の矢がたったの三本に減ってしまい、俺の労力はなんだ! とさけびたくなったのをまんして、アイテムを確認する。


木の矢+10【しようもうひん


 この表記は何だ? 攻撃力がじようしようしているなら使い捨てでもうれしいが、表記以外の変化は無い。試しに矢を射ってみる。基本的な動作を意識しながら、弓をしぼり、いつもと変わらず放つ矢。

 的にした木にさったのを確認した。別に攻撃力は上がってなさそう。

 近づいて、しげしげと確認している間に、弓矢が消えた。

「はぁ~。また使い捨てか。弓って本当に使いづらいな」

 そうぼやきながら、背中に担ぐづつに矢が一本だけ収まっていた。あれ? 消えたはずの矢が矢筒に収まり、表記が『+9』になっている。

 まさかと思いつつ、一本手に取り同じように射る。そして消えた矢は、戻ってくる。

「弓使いキタァァァァ!」

 これは、大発見だ。消耗品は、数字を消費して戻ってくる。

 弓使いのコスパの悪さ! そして、えの手間が減らせる! うおおおっ、これは勝てる、と思ったが、鉄の矢にかんさんしよう。

 鉄の矢+10を一セット用意するのに、必要な本数は、三百本。Gに換算したら300G。初心者には辛い上に、【錬金】センスがなきゃ使えない! 仮に別のセンスで作れても、わざわざ使い捨ての矢を強化する人はほとんどいないだろう。

 いたとしても供給は、少量だろう。

 つまり──

「相変わらず、弓使いってぐうかよ。周囲の生産職の人のサポートなしじゃまともに戦えないだろ」

 まぁ、俺は自作できるからいいし、自分のセンス上げになるからいいけど。それに、一つ【弓】センスのかくれた能力が判明した。矢のかん能力だ。わざわざ回収しなくていいし、これは魔法のつい効果やけんのモーションアシストとかの部類だと思う。これがあるだけでもありがたい。

 まさに、ファンタジーだ。

「うん。これが分かれば、長期戦で詰め替えとかしなくていいな。弓使いきわめてみるのもおもしろいかもしれんな」

 森の中、一人。にやりと笑みを浮かべて、ステータスを確認してからログアウトした。


 所持SP1

【弓Lv7】【たかの目Lv13】【ほう才能Lv9】【りよくLv10】【錬金Lv4】【付加Lv8】【合成Lv6】【調合Lv6】【細工Lv5】【生産の心得Lv5】

 ひか

【調教Lv1】


    ●


 ゲームからログアウトした俺と美羽は、夕飯のカレーを食べながら、おたがいに情報こうかんをしていた。と言っても、殆どは美羽からの情報であり、俺はそれにあいづちを打っている。

「ねぇ、聞いてよ。お兄ちゃん」

「何だ。また愚痴か?」

「うん。まあ、そうかな? もう転売屋の人たちがポーション買いあさっててんで売っているのよ。一個50Gのポーションが三倍の150Gだよ。最悪500Gでも売れるほどしなうすなんだから」

「知っているよ。NPCのポーション入荷量が定数決まっているんだろ?」

「そうそう。知ってたんだ」

「聞いた。あとは、俺自身が生産職だし、当分はポーション売って金にするかな?」

「そんなに金欠なの?」

「【調教】外して、【細工】取ったはいいけど、研磨との道具を買わないとまともにな」

「なんでそんなにお金かかる方向性にいくかな?」

 ぶーと文句を言うが何を言う。研磨で宝石の原石が何の宝石か分かるしゆんかんは、苦労が報われた感があるんだぞ。

「にしても【錬金】【合成】【調合】【細工】って見事に生産系センスばっかりだね。つうは、扱う素材の系統別に分かれるものだけど、これだとレベル上げがバラバラで効率悪いんじゃない?」

「いや、そんなことないぞ。西で採取した薬草を調合して初心者ポーション作って、【合成】でポーション。石は、【細工】センスでかんていすれば、宝石の原石や鉄鉱石って分かったり。【錬金】は余った素材を変換してちまちま成長させてるかな?」

 うわっ、もう使いこなしている、と言われたが、残念だな。鉄鉱石は余って錬金素材にしているし、後は、ようや骨、たんせきとかの使い道が分からないんだ。

 そういえば、美羽もβベータ版のプレイヤーなんだよな。聞いてみるか。

「なあ、腐葉土とか骨ってゲーム内で何に使うんだ?」

「農業、ってなかったっけ?」

「農業?」

「うん。町の南地区に土地貸しがあって、プレイヤーはそこで植物系のアイテムを育てて、採取するんだけど、それって大体植物の種子が無いとさいばいすらできないんだ。だから一部のプレイヤー向け」

「ふーん。じゃあ、胆石や薬石は?」

「お兄ちゃん、【調合】センスで試さなかった? 丸薬って回復量が初心者ポーション以上、ポーション未満のアイテムの素材になるんだよ」

 そうなると、骨粉は、骨の下位かんか? そして丸薬は、ポーションの上位互換かそれとは別系列のアイテムと考えるべきか。そして、丸薬の上位薬に薬石を使うのか。

「ふむふむ。参考になった。りしようと思ったけど、【調合】で試したいことができたな」

「お兄ちゃんがゲームにハマってくれるのはいいけど、やっぱり妹としてはその非効率さをなげきたいよ」

「ゲームは楽しむもの、ってお前が言ったんだろ。そんなせかせかと追われたくはないぞ」

 妹の苦言もなんのその。家事の合間に考えられる様々な可能性を検証した。

 種子の入手方法。一つだけ試してない方法があったからだ。


 ログインした俺は、まず錬金画面を開く。錬金画面では、【錬金】の物質へんかんに【上位変換】と【下位変換】がある。

 物質変換も、変換する物質ごとに系列が存在するように感じる。

 錬金とは名ばかりで、鉄は鉄にしかならない。ただ上位の『上質な』となるだけだ。つまり、名前ってやつだ。

 そして矢のように同一物質の強度を上げる【上位変換】。名前自体は変わらずに、強度や使用回数が変わる。

 最後に、植物だって上位変換しても別種にはなりはしない可能性。

 俺は、十個の薬草に【錬金】をほどこす。そして生まれたのは予想通り、上質な薬草。

 つまりはそういう事だ。そして、これが上位変換なら下位変換で考えられる存在。それは植物の元──種子への変換だ。

 上質な薬草を変換すればいいのか、それとも普通の薬草を変換すればいいのか。

 試しに薬草から変換した。変換率は、二倍。【錬金】によって誕生したそれは、薬草の種子だった。

 これは、栽培専用となっていたので、心なしか安心した。

 もしもこれも調合素材なら、俺はぼうだいな数の調合をしなければならなくなるからだ。

 そして上質な薬草も変換。結果は、二個の薬草。つまり植物にもグレードが存在する。

 最下層が種子で、それから順々に上がっていくほど同系統では効果が高いということだ。ただ、これがしよせんは薬草ってことだ。

 大量に集めて、薬草二十個消費で上質な合成ポーション一本では割に合わない。

「それにしたって、【錬金】で植物の種子作るってファンタジーだな。いや、金属の種類無視できない時点でもう現実重視って感じもあるけど」

 ふうっ、後は大量の胆石の使い道だが、薬草と混ぜると初心者丸薬になることが判明。

 同じ法則が適用されるなら、二つ合成で上位互換。また胆石の上位互換である薬石と、上位互換である薬草、しくは上質な薬草でも丸薬の上位互換が生まれる。

 この場合、前者は時間をけて段階をているために効果が高く、後者は【レシピ】からの作成が可能。

「大体の法則が分かれば、アイテムの系統別で【錬金】で対応できるだろ。種子も手に入ったし、明日あしたにでも畑を見に行こうか。その前に夜の狩りだ」

 俺は弓矢を持って、自身にエンチャントを施して林の中を進む。アイテムを積極的に採取しつつ、敵を探す。昼間あれだけ動き回っていた林のどこからいてきたんだ、と言いたくなるような大量のMOB。

 暗いやみの中をばっさばっさと飛ぶこうもりや野犬だが、俺の【鷹の目】の暗視能力でくっきりと見える。さらに遠視能力ではなれた場所からでも見え、敵が近付く前に仕留める。

 蝙蝠や野犬は、もろい。本来の暗さでは、しゆうでダメージをちくせきしてしまいたおされるプレイヤーも居るだろうが、俺には取るに足らないしいものだ。

【光属性】ならライトの魔法を灯して戦うのもいいだろうが、だれも好き好んでこんな所には来ないだろう。タクいわく、MOBのバランスが悪いってのは、こういうかんきようの戦いって意味だろう。初心者には辛すぎるはずだ。

 大体は、夜に狩りをするなら、昼夜問わず同じ明るさのダンジョンにこもるそうだ。

 蝙蝠からは、毒血とまく。おいおい、毒ってこれで毒物作れって言っているようなものだろ、と思ったら【レシピ】にありました。毒物って毒血と薬草で作るんだ。本来は、ポーション系の調合失敗では作らないってことなのだろう。

 そして解毒ポーションもありました。毒血とポーションで作る。つまり、毒をもつて毒を制するか? まあシステム的なものだし。

 そして野犬は、犬の毛皮ときば。とようが分からない。

 これはきっとほかの生産系の人用のアイテムだよな。ほら、かわよろいとかに使いそうだし。牙は、武器のそうしよくに使いそうだし。

 MOBは、倒しただけ湧き出る。そして、ソロでの狩りであるために、ドロップ率とかめっちゃ良い。俺は苦労なく倒せるが、慣れない人は苦労するんだろうな。

 そして狩りの最中分かったのだが、エンチャント時の光は、闇の中でも光る。これは、敵に自分の位置を知らせることになりそうだ。MOBはAI操作だからいいが、プレイヤーなんかにはすぐに見つかりそうだな。

 あれ? なんかやみまぎれる弓使いって暗殺者アサシンスタイルすすんでいるような気がする。

 俺は生産職だし、正面から戦っても勝てないなら不意打ち戦法でもいいかもしれない。

 夜もけてきたし、続きは明日ということにしてその日はる。


 翌朝、さっそく第一の町の南地区へ土地を借りるために来たが、その前に軍資金を用意しなければいけない。

 今日は、ポーション×30、丸薬×15、それと試しに解毒ポーション×5を用意してみた。まあ、ポーションだけでも買ってもらえれば、おんってところだ。

 今日もみように周りの視線を感じるがエンチャントで早足でけて、昨日マギさんの居た場所に向かう。同じ場所で露店を開いているマギさんを見つけた俺は、声を掛ける。

「マギさん、こんにちは」

「ユンくん! 昨日、ポーション売ってくれてありがとう!」

 開口一番に、両手をつかまれて大きく上下にるほど感謝された。それにしても女性に手をにぎられて、少しびっくりすると同時にちょっとずかしい。一しきり、手を握って落ち着いたところで離れたが、一体どうしたのか?

「ユンくんの売ってくれたポーション。適正価格で売ったら最前線の人が来て、いつしよに私の武器やアクセサリーも買ってくれたの。昨日は、かな~と思ったんだけど」

「ああ、そういうことなのか。じゃあ、今日も買い取ってくれますか? 用意しましたから」

「うんうん。お姉さん的には、武器やアクセサリーの店だけど、万能感が欲しいから露店で一緒に売っちゃうよ」

「じゃあ、お願いします」

 トレード画面にせていく。用意したポーション、丸薬、解毒ポーションを見せると、マギさんがうれしそうな、おどろいたような表情を見せる。

「わぁー。これだけまとまったアイテムありがとう。それに丸薬って、今この町で買える一番良い回復薬だよ。それに回復量も少し多い。解毒ポーションもβ版では【調合】や【合成】センスを持ってる人がいたけど、正式版のうわさではその方面進む人いないから状態異常回復ポーションが不足してるんだ」

「そうなのか。じゃあ、ラッキーってことで」

「うんうん、じゃあ、ポーション35G、丸薬70G、解毒ポーションは70Gの、2450Gね」

「ちょ、ちょっと。昨日よりポーションの値段が上がってるって。30Gだったし」

「昨日は六割買い取りだったけど、今日は七割買い取りにしたんだ。ほらほら、これって売れば私のお店の宣伝にもなるし、必ず売れるし、私は適正価格だと思っているわけよ。それに、お金しいんでしょ?」

 チェシャねこのように、にしし、と笑うマギさん。反論しそうになるが、実際先立つものがない。これから農場を見て、けいたいを見て、上位の合成キットを見て、とどう考えてもこれだけでは足りない。

「まあ、ユンくんがそこまで言うなら六割価格で……」

「すみません! その価格でお願いします!」

「うんうん、素直な反応がお姉さん好感を持てるな。それに可愛かわいい子がわたわたとあわてふためく姿もおもしろかったよ」

 いや、俺は男です。やっぱり女の子だと思ってるのか。だが、最初に俺の手を握ってきたのは、俺の恥ずかしがる姿を見たいためか? いや、そんなことはないだろう。

 にこにこと楽しそうな笑みをかべるマギさんに、そんな疑念も消え去る。

「じゃあ、トレードお願いします」

「はいはい。じゃ、お金ね。またセンス上げでできたアイテム買い取るよ」

「その時はお願いします。あっ、そうだ。忘れるところだった。このアイテム見てもらえますか?」

 俺は、トレード画面に昨日作った上質な鉄鉱石と宝石の原石を載せる。

 それを確認したマギさんの表情がいつしゆんにして険しくなり、声をひそめて話す。

「……ユンくん。これどこで手に入れたの?」

「どこって、つうの西の林の中で」

「いや、宝石は、ていねいけんすれば、このサイズになるから持っているといいよ。もっとセンスを上げれば、破損率も下がるし、中サイズだって成功するから問題ないよ」

 おっ、いいこと聞けた。その内、宝石の研磨も【スキル】でどんどん処理できるようになるってことだ。

「問題は、この鉄鉱石。上質な鉄鉱石は、西で採取するならもっと奥。第三の町──つうしよう、鉱山の町──の近くの鉱山まで進まないと。それにその採取は、手前の採石場の敵であるサンドマンのレアドロップか、その上位MOBのゴーレムの通常ドロップ品でだよ。一人で倒したなんてじようだんは言わないでよね。サンドマンは、東のビッグボアと同等なんだから」

 いや、ビッグボアとか知らないから。

「いやいや、ちがいますよ。【錬金】による【上位変換】ですよ」

「……なるほどね。【錬金】で作ったんならなつとくね」

 あっ、納得されちゃうんだ。

「で、どうする。ユンくんが使わないなら私が買い取るよ。上質な鉄鉱石とただの鉄鉱石って全く別種のアイテムだし、二つだけだと鉱石ってインゴットに出来ないのよね」

「えっ、マジで」

「うん、五つで一つのインゴットが出来て、武器は、けんなら三つ、大剣や両手剣なら五つはインゴット使うのよね」

「ってことは俺の場合、錬金で鉱石十個を消費して、上質な鉱石一個だから、鉄鉱石五十個でやっとインゴット一つ分ってことか。まためんどうだな。でも上質な鉄鉱石って価値高いんですか?」

「いや、全然。ただ、同じ鉄製の武器だと、上質の方が能力面にじやつかんのプラス補正が掛かるだけ。鉄鉱石めて作るほどの価値はないし、やったら大赤字だね。第一、インゴット一つあっても私の場合、アクセサリーにするくらいしかないね。あと、アクセサリーで指輪ならインゴット一つ、うでなら二つ必要だから」

「そうですか。じゃあ、買い取ってください。あと、また作ったら持ってきますよ」

「うん、市場に出回るまではそうしてほしいな。私は、上質装備でウハウハするから」

 トレード画面を確認し、上質な鉄鉱石をせんたくする。そして、トレードされるお金は、400Gって、ええっ!?

「マギさん、本気ですか!?」

「いやー、鉄鉱石って一個100Gなんだよ。それの上位だから200G。NPC価格で売ると半値だけど、今はあまり出回ってないからこれくらいがとうかな? 後は、これから市場に出回るまでのけいやく料込みってことで」

「分かりましたよ。マギさんって何気にお金を持っているでしょ」

「うーん。βベータあらかせぎしたから、もうじきてんくらい買えるかな」

 うらやましくなんかない、羨ましくなんかない、とぶつぶつつぶやく。

「まあまあ。もうかったんだしいいじゃん」

「……はい」

 何ともしやくぜんとしないが、お金が増えたのは良かった。今の手持ちは3430Gだ。だが、俺は甘く見ていた。農場の最低価格を。


「畑を買うのかい? 一番安いので3000Gだよ」

「えっ?」

 むぎわらぼうかぶった男がそう言いました。もちろんNPCで、畑の説明や育て方を教えてくれる人らしい。

「今は、ほとんど買い手がないが、その内、地価が上がるだろう。今のうちに買っておいた方が得だぞ」

 いや、ゲーム内でそんなリアルなこと言われても困る。しかし、南地区の畑は、野球場が三つ程度に開かれているが、殆ど人がいない。

「分かりました。最低のお願いします」

 インベントリの3000Gが消えた。ああ、俺のお金。

「ほら、土地の権利書だ。そこに書かれた場所がお前の畑だ。それと、畑を耕すには、スコップやくわとかの道具も必要になる。これは別で300Gだ」

 ──ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁっ!

 俺の残り所持金ギリギリじゃねえか! でも、道具がないと薬草の種子を植えられない。

 ぎりぎりと歯ぎしりするほどに、のうして。

「毎度あり」

 結局、買いました。先行投資だと思おう。そうだ、先行投資。調合すれば、2000G強かせげたんだ。すぐにもどせる。そう思わないとやってられなかった。


    ●


 早速、こうにゆうした畑に行ったが、なにこの重労働、もういやだ。

 ガチガチにかためられた土をスコップでこし、鍬で耕しました。

 ゲームの中でかなりの重労働だ。こんちきしょー。

「はぁ、はぁ。もう、なんだよこれ」

 エンチャントで速度じようしようけると、スコップで掘る時の速度が上がる。小さい土地とは言うが、種子を植えられる状態にするまでに心が折れそうになる。

 そして何より、ただ種子をくだけでは、アイテムは上質化しないそうだ。

 NPCいわく、土に色々な物を混ぜればいい、とのこと。つまり、ようとか、野草とか、骨や骨粉とか。つまり、肥料を混ぜろってことだよな。

 もう、森で採取しまくったふわっふわの腐葉土を混ぜたり、野草をわらのようにめたり、骨や骨粉を土に混ぜたりする下準備に、かなりの時間が掛かった。

 そして、センスステータスの成長に気付いた。


 所持SP3

【弓Lv9】【たかの目Lv16】【ほう才能Lv11】【りよくLv14】【錬金Lv5】【付加Lv13】【合成Lv8】【調合Lv8】【細工Lv5】

【生産の心得Lv6】

 ひか

【調教Lv1】


 森を出る前に一度レベルを確認したんだが、【調合】に関する行動をした覚えはない。だが上昇している、ということは、この畑仕事をしたからなのだろう。

 なんか、骨とか腐葉土を混ぜて土の中で肥料にした、とかいしやくできるんだろうか。それだったら成長もうなずける。そして【レシピ】に追加されておりました、肥料が。つまり、手作業で作ったあつかいなのだ。うーん。何とも釈然としない。生産キットが無くてもできることに。

 だが、まあいい。

 後は、種子を蒔いて、しゆうりようだ。3000Gはらって手に入れた土地で植えられる場所は、二十か所まで。薬草は、一日周期でしゆうかくできるらしい。ファンタジーだな。

「うーん。終わった。おっ、通信だ」

 ぽーんとひびく音に、フレンド登録した人の名前は──タクだった。

「どうした?」

『いや、ひまか? 暇ならりしようぜ。パーティーで』

「いいけど、どこでだ?」

『東のビッグボア狩りに行くんだ。ユンは、レベル上げにねなく来てくれ』

「いや、来ること前提かよ」

『いいじゃん。まぁ、ぶっちゃけ、ポーション足りずに足止め状態』

「分かった。じゃあ東門の前で待ち合わせな」

りようかい

 うーん、ビッグボア狩りか。ってことは西の鉱山地帯にいるサンドマンレベルのなのか。ちょっと興味あるな。俺は、さくっと装備の確認をした。強度を上げた弓矢は、約三百本を持っているためにせんとう中の矢切れはないだろう。

 ただ石の矢と木の矢だけだとこころもとない。今度鉄の矢を買い込んで、【錬金】で強化するか。今は金ないけど。

 東門前に辿たどいた俺は、タクを探した。すでに待っていたタクの装備品は、初日よりも良くなっているようだ。なんかくやしい。俺は初期装備なのに。

「よぉ、ユン」

「ああ。本当にいいのか? 俺なんかがいつしよでも」

 正直、不安たっぷりだ。まあほかのメンバーの男女比は二対二。俺たち二人男だからちょっとかたよっているが、問題ないだろう。

 タクのパーティーメンバーに軽くしやくをすると──

「俺っキタァァ!」

「うわぁっ、れいな子ですね」

「でも弓持ちじゃないか。だいじようか? それに初期装備だぞ」

「いいじゃん。ゲームなんだし、楽しめば」

 あー、うん。俺も気にしてるんですよ。初期装備で弓持ちって。あと、俺っ娘とか綺麗な子とか、俺男だから。

「タクのリアル友達を連れて来るって言ってたけど、外見レベルが高い。しかも勝気系、いやクーデレ。これは勝つる」

「美人さんね」

 それ以上、容姿のこと言わないで! お願いだから。軽装の男と、きんぱつウェーブで白を基調としたローブとつえの聖職者っぽいの、二人が言ってくる。

「えっと、こいつは、ユンだ。見ての通り弓使いだが、多少は役立つだろ。役立たなくても、今回の戦闘でセンス変える時の参考にはなるだろう」

「おい、はなから役立たず、って決めるな。俺は生産職だ。戦う畑が違うって」

 周囲が、えっ!? って表情している。そうだよな。そうだと思う。弓持ちの生産職。さらに、初期装備とかアホだろって思うよ。でも事実金欠で何もできないから。

「それなら役には立つかもな。ちなみに何を作っている?」

 弓とか初期装備のところに反応した男だ。なんか見た目無骨だけどカッコいいんだよ。しぶカッコいいし、よろいがなんか灰色とかなまりいろで歴戦の戦士っぽいな。カッコいいけどムカつく。

「一応、ポーション」

 インベントリから自身の作ったポーションを一つ取り出して見せる。それを見た彼は、質問を重ねる。

「それは初心者か?」

「いや、一個上の通常の」

「なら、回復役にはなるな」

「あー、金欠で売っちゃった。これ以外は、全部」

「なっ!?」

 タクは、腹かかえて笑うし。さっきから俺が女と誤解されているところで笑いこらえていただろ。こいつ、後でしばく。

「お前は鹿か!? なんでポーションを全部売る!?」

「いや、初心者のポーションや丸薬で用足りるから」

「アホか!? 取得SPの合計が10をえると、初心者ポーションの効果が減るんだぞ!」

「へー。ってことは、全部のセンスのレベルが10を超えるかそれくらいなんだ。俺はまだまだゆうだな」

 なんか鉛色の戦士さんは、頭抱えている。言葉にはいつさい悪意がなく、親切心からの言葉なのだろうが、無骨でデカいずうたいの持ち主から言われるとあつかんがある。となりの緑色の三角ぼうに丸メガネの魔法職の女性がなだめている。なんかじよっぽい。

 それにしても最前線の人がポーションを必要とするのは、そういう理由か。

「じゃあ、説明するな。軽装かくとうがガンツ、隣の回復役のミニッツ。鎧男がケイ。んで、魔女っ娘マミさん。そして俺は、けんのタクだ」

 タクが一通りしようかいすると、全員よろしくと気持ちいいあいさつを送ってくれたために、軽くよろしくと返して、自己紹介する。

「俺は、ユン。見ての通り、初期装備の金欠弓使いだ」

 自己紹介でそれはどうかと思うが、事実そうだ。うそを言ったり、きよえいを張るよりはマシだと思った。

 それから俺たちは、平原をけてビッグボアの居る位置まで移動する。弓使いの俺は、道中での戦いで矢を使づかいするな。ということで戦闘には参加させてもらえなかったが、代わりにみんなの見ていない場所で、【鷹の目】をきたえたり、エンチャントしたり、採取ポイントでアイテムを回収。

 解毒草やそうの基本的なアイテムが採取出来て、【レシピ】の解毒ポーションもこうしんされた。新しい作り方は、解毒草とポーションの組み合わせ。

 つまり──アイテムの作り方は、一つではない。

 段階をて作るやり方や、数通りの作り方があるようだ。ほとんどのプレイヤーは、NPCから買えるからって殆ど採取しないらしい。そして石ころはなんと、銅鉱石とすず。これってインゴットにして合成すれば青銅ブロンズのインゴットになるかも。ちょっとマギさんに相談してみよう。

 後は、木の枝って木のあるところならどこでも採れるようだ。それに、鳥型MOBから鳥の羽根が容易に手に入る。

 これの使い道って【さいほう】センスで羽毛にして、ベッドやぶくろなどきゆうけい時の回復量増加アイテムにするらしい。みんなそくさんもんで売るらしいが、俺は、弓矢の素材で必要だからありがたいんだが。

 道中、俺はアイテム採取でほくほく顔。ただ、なんだかガンツやミニッツの視線が痛い。

「な、なにかな? ガンツにミニッツ?」

「いや、本当にタクの知り合いかな? と思ってさ。だって、プレイヤースキルの高いはいゲーマーのおさなみがこんな可愛かわいい子なんて……どこのリアじゆうだ」

「それに、姉妹も居るのよね。つまり、人間のタクくんに連れられてやってくるしっかり者の幼馴染みって。どこのラブコメよ!」

 いや、知らんがな。と言うか、俺は男だ。

「俺だったられてるよ。ユンちゃん」

「男は、ノーサンキューだ」

「私も可愛い子は好きだよ」

「そういう好かれ方も好きじゃない!」

 ミニッツに背後を取られ、かたに手をのせられる。こんなモテ方は、男としては不本意だ。

 周囲に助けてと視線できゆうえんを求めると、ケイって男は、苦々しげなふんを放ち、マミさんになだめられる。おいタク。お前がリーダーなんだからまとめろよ、と視線を向けるが苦笑い。

「ねぇねぇ。タクくんとはどういう関係? ホントのところ、リアルだとどんな関係?」

「ミニッツ。ゲームでリアルのことを聞くのはマナーはんだろ」

 鉛色の戦士であるケイが、タクの代わりにストッパーとして入る。

 タクは肩を軽くすくめてやっと動く。

「じゃあ、この辺でむかつか。あんまり遊んでいるから、ばつで足の速いガンツがビッグボアをってきてくれる?」

「いやいや無理だって。ビッグボア足速いだろ。ほう任せでえんきよからドカンとやろうぜ」

 満足したのか、そういう切り出し方でガンツとミニッツがはなれる。

「いいですけど、私、紙そうこうで当たりどころ悪いと、そくだってあり得ますよ。それに魔法って連続使用できないから巻き込まれたら」

 そう言って、少し不安そうに自分の意見を述べるマミさん。

 あーどうするか? って、おい考えてなかったのかよ。

「なあ、引き寄せるのっていちげき入れればいいんだよな」

「そうだな。まあ、直接一撃入れればいいし……」

「この位置からでも一撃入れればいいんならやるぞ」

 タクが何? と訳が分からないような感じだった。久々にタクをおどろかせることができそうだ。

「まぁ、見てろって。《付加エンチヤント》──アタック」

 プレイヤーへのエンチャント。【付加】のレベルが10を超えた辺りから、スキルの効果と持続時間をはじめ、次のえいしようまでの待機時間デイレイ・タイムが短くなった。

 自身のこうげき力を高めてから、弓を引く。距離は、目測で20メートル。

 射程は、自分の攻撃力にもぞんする節があるようで、エンチャントの成長は、そのまま射程はんの増大につながる。

 複雑な計算がなされる射程距離だが、成長した弓と【アーツ】、そしてエンチャントを使えば、十分届く範囲だ。

たかの目】でねらいをさだめ、ギリギリと弓のつるが引かれる音を聞きながら、放す。

 風を切って走る矢。【鷹の目】で当たるしゆんかんを確認するよりも早く、次の矢をつがえる。二射目を放つ時には、一射目が当たったことが確認できた。

「当たった。来るぞ!」

 俺は、二射目を放ったが、今度は外した。

 二度《遠距離しやげき》を使ったためにMPの残りが少ない。通常の射程にもどるまでにできる事は、エンチャント一回分だった。

「《付加エンチヤント》──ディフェンス」

 タクにぼうぎよのエンチャントをほどこし、げいげきする。

 魔法職の火力はあつとうてきだし、剣士二人と格闘家一人のれんけいすごかった。

 おそってくるビッグボアの真正面に立ち、一歩も引くことなく迎え撃つケイ。タクとガンツは、それぞれゆうげき。時には、回復の機会を作り出すために、ビッグボアの注意を引き付け、ダメージかくごういんな攻撃でターゲットをへんこうさせる。たがいの名前や簡単な単語を口に出すだけで次の連携の動きを作り出せる三人。

 それでもビッグボアの攻撃は、一撃で前衛のHPを三割けずる。ただタクは、二割にとどまっている。あっ、そうか。タクは、鎧持ち。そしてエンチャントは、本人のステータスを基準とした増加だ。つまり、エンチャントは、ステータスが高いほど効果が高くなる。

 うん、良い発見になった。

 俺も矢を射ながら、MPが回復したら、防御エンチャントをける。ミニッツとマミさんのMPがギリギリ切れるところでやっとビッグボアをたおした。結構時間が掛かったし、強い。サンドマンもこの強さなのか。つらいな。

 せんとうが終わった後、全員レベルチェックだ。心なしかうれしそうだ。俺は、おっ!? 【弓】と【魔法才能】に【りよく】、それに【付加】が上がった。やっぱり強い敵と戦うと経験値の補正が掛かるのか。

「いや、まさかここまであっさりビッグボアを倒せるとは思わなかった。アイテム買ってきてだったかもな」

「あっさり!? あんだけ苦労して、後ろから見ているだけでも冷や冷やする戦いだったのに?」

「ユン。お前、パーティーで強敵にいどんだことないだろ?」

 最初の姉妹のチュートリアルだけで、一人で細々と弱い敵をズドンだったからな。

つう、取得SPが10未満のプレイヤーをふくむパーティーがビッグボアと戦う場合、ポーションやMPポーションがないとキツいぞ」

 そう言われても、知らないものは知らない。

「なぁ、ユンだったか。一つ聞いていいか?」

「なんだ? ケイ」

、お前は、【付加】のセンスを取った。使えないと言われていただろう」

「うーん。なんとなくだな。キャラの初期方針でサポートできる万能キャラ目指したんだが、いい感じでゴミあつかいだし、だから生産職にえただけ。【付加】を持ってるのは、まぐれだ。最初は、これも取り替えるつもりだったんだから」

「そうか、もう一つ。どうして俺たち前衛に、防御エンチャントを掛けた。攻撃エンチャントでも良かっただろ」

「……うん? 今回の目的ってレベル上げだろ? 【よろい】センスとか、ガンツの【皮鎧】って、攻撃を受けなきゃレベルが上がらないだろ。だからだよ」

「そうか。その……【付加】に助けられたんだな。今回は、ありがとう」

 なんか、背中がぞわわっとあわつ感じがした。男がデレるのってかんが。

「でも実際そうなんだよね。防御エンチャントでダメージの軽減や、弓で遠距離から引き付けてくれなかったら、私たち後衛のMPが切れて危なかったもの」

「そう言ってもらえたら助かるかな?」

 なんか、女性たちにめられると照れくさい。だが直後に、にやりと笑みをかべるミニッツ。

「でも、何で最初に【付加】したのがタクくんなのかな?」

「はぁ? 何でそんなことを……」

「ふふっ、気になる男の子は、支えたいってこと?」

ちがうって、ただ自然と目に付いたからであって……」

「自然と目に付く存在がタクくんだったと……」

「だから、違うって! タクとは、くさえんの幼馴染みだし……。そもそも俺は──」

 男だ。と言おうとしたが、からかって悪かったよ、と俺の反応を軽く流すミニッツ。に対応して興奮したのか、顔が少し熱く感じる。

 ミニッツは、今度はタクの方をからかいに向かうが、良いようにあしらわれている。その後ろ姿を俺はうらめしそうに睨み、ほかのメンバーはそれをこっそりと見て微笑ほほえみを浮かべている。これじゃあ、まるで俺がタクを取られてねているみたいじゃないか。ああ、考えるのめようと、軽く頭をって気持ちをリセットする。

「さぁ、休憩ついでに反省会とインベントリの確認しよう。そうしたら、また三びきほどビッグボアをって帰ろう」

 音頭を取るタクの指示に従い、俺もインベントリで取得アイテムを見る。うん……パーティーで狩ったからアイテムが少ないが。何、このおおいのししの肉ってどうやって使うの?

 使い道は、保留にして、その後、大猪の毛皮や大猪のきばといったアイテムを取得した。

 タクたちと狩りをした結果、レベルが上がる上がる。経験値は、強い敵の方が実りも良い。だからハイリスク・ハイリターンをとるんだな、と思う。

 まあ、俺はこうりやく組じゃないし、まったりでいいかな、と思っている。

 俺のセンスって半分が戦闘、半分が生産だから、戦闘だけじゃバランスよくレベルが上がらない。マギさんの言っていた戦闘と生産の両立が難しい、とはこういうことなのか。

「うーん」

「どうしたの? ユンちゃん」

「ユンちゃん!?」

 ミニッツが俺に後ろからきついてくる。うわっ、女の人ってやわらかい。ってそうじゃなくて、俺は男だ。ちゃん付けってやめてほしい。

「くっつかないでくれよ」

「やだよ。こんな可愛かわいいのに……」

 すぐには離れそうにないが、女の子相手に暴れる訳にもいかない。それに、それ程い密着をしていないので少しまんすると、耳元でささやかれ、背筋がゾクっとする。

(ユンちゃん。さっきは、からかうようなこと言ってごめんね)

(ミニッツ?)

(別に、タクくんを取る気はないから)

 いや、何か盛大なかんちがいとか色々混じっている気がするが、首をめぐらすと良い笑みを浮かべるミニッツが至近に見える。

「だから俺は、男だ。だからそういう考えは止めてくれ」

「えー、うそだよ。こんなに可愛い子が男の子な訳がない! って言うか、男装のれいじんキャラ? うーん。服装をパリッとさせた方がいいんじゃないかな?」

「だーかーらー、タク! お前が証明してくれよ!」

「くくくっ、照れるなよ。ユンは、リアルでも似たようなもんだろ」

「おおっ! リアル俺っ発言キタァァ!」

「タクてめぇぇ!」

 抱きつかれて無理にがせない俺を見て、けらけら笑う目の前の男。くそっ。

「でも弓使いって、弱いとかぐうって色々言われているけど、全然そんな感じしないじゃん。それに【付加】も不遇センスだけど、ポーションを作れるってことは【調合】とか【合成】を持ってるんでしょう? そんなに不遇な扱い受けるほどひどい訳じゃないと思うな」

「あー、言われてみればそうね。どうして弱いとかって言われたのかしら?」

 女性じんは首をかしげる。そんなの俺も知らないけど。まあ、おもしろいからいいんじゃないの?

 それに対して男性陣、何ともみような表情をしている。

「あーそれな。βベータ版のころの町しゆうげきイベントが原因なんだ」

 おもむろに語り出すケイ。

 たんてきに語ると──防衛戦イベントで、遠距離のほう使つかいと弓使いの混成部隊で数を減らして、前衛で残存勢力そうとうというのが作戦のがいようだった。当の弓使いたちが、あわてて町で矢のじゆうをした結果、町の矢の在庫が無くなり、弓使いの全体の数から見て、十分な数をそろえられずに防衛戦が始まる。不測の状態で戦場にり出された弓使いたちは、途中で矢が無くなり、ぼうとなった。

 イベントはしんしように終わったが、弓使いたちは多くのプレイヤーから反感を買う結果となった、とのこと。

「いやー、あの時は本当にあせったな。俺ら前衛も、死に戻りでステータスダウンの中でも戦場になぐり込まなきゃいけないほどにせつぱくしてましたからね。タクさん」

「そーだな。あの時、かつやくしたβ版のえいゆうが【白銀のせい】とか【水静のじよ】なんて呼ばれ方されていましたね。ガンツさん」

 か、遠い目。そんな死んだ魚のような目をするなって。

「それに、おかしいのはもう一つ──【付加】だ。どうしてそういう風に使える?」

「「「えっ?」」」

 いや、エンチャントって普通に仲間に掛けられるよね。そう言えば、仲間に掛けるのは、これが初めてかもしれない。それに女性陣、何であなたたちもおどろいているのですか?

「もしかして、仲間に掛けられなかった?」

「いや、【付加】センスのネックは、その範囲にあるんだよ。おおよそ2メートル。それを育てた人の話だと、育てても変わらずで、早々にあきらめて変えたそうだ」

 つまり、射程の短さ? 確かに、2メートルって言えば、初期の弓矢のはんだ。そんなにきんきよじゃあ、前衛にエンチャント出来ないし、掛けるために前に出ていけば、こうげきに巻き込まれる。エンチャントはほう職を想定して作られたので、ぼうぎよ力は段ボール並み。

「だから、おかしいんだよ。戦闘中にあんなに安全にエンチャントを掛けられることが──何か心当たりはないか?」

「いや、普通に、だれに掛けるか見てやるし……」

 その言葉にゆいいつ、俺の初期センスの全てを知るタクが反応する。

「ユン。まだ【たかの目】を育てているのか?」

「ん? あれ、便利だぞ。遠視能力に加えて暗視能力まで含まれている。夜の狩りに最適だし、夜は常時発動でどんどんレベル上げしているんだ」

「お前、ちょっと俺をエンチャント掛けてみろ」

 5メートルほどはなれてタクが言ってくる。

「なんか良くわからんが、《付加エンチヤント》──ディフェンス」

 ほのかな青い光に包まれるタク。一分弱の間をて、エンチャント効果が消え失せる。

「次は、右を向いて、俺に掛けろ。俺を絶対に視界に入れるなよ」

「分かった分かった。《付加エンチヤント》──ディフェンス……ってあれ?」

 エンチャントができない。それを見たタクは、やっぱりか、という風にいきき出す。

 それに気がついた周囲の面々。俺だけが現状を分からずに、エンチャントを自分にけたり、他人に掛けたりしてちゃんと使えることを確認している。

「俺たちは、大きな勘違いをしていたな。【鷹の目】の本質は、遠視でも暗視でもない。ターゲット能力だ」

 俺は聞きなれない単語に首を傾げる。

「つまり、視認した物を対象にせんたくする能力か。成長させれば、とんでもない能力だな」

「あはははっ、公式チートまで成長してくれることを願うよ」

「えっ、どういうこと?」

 もう、何が何だか分からなくてちゃんと説明してほしい。

「つまり──ユンは、見た対象に魔法を掛けられるってことだ。それでつえと魔法の属性のセンスを習得して魔法職になってみろ。えんきよそうができる……かも、ってことだ」

 やっぱりよく分からないけど、何か無双って聞くとカッコいい気がした。

「ユンはどうする? このまま魔法職に変えるか?」

「いや、人と同じじゃつまらんし。俺は、生産職けん弓使いってこのままのスタイルにする」

「それとこの情報、攻略サイトに上げる? 上げると【鷹の目】と【付加】のコンボで二つのセンスが不遇からだつするよ」

「うーん。誰かが俺のマネするのか。ちょっとイヤだな。Only Senseってタイトルなんだから、だまって俺だけのスタイルでやらせてくれないかな? 俺のままだけど」

りようかい、了解。みんなも黙っていることに異論はないか?」

 みんなは賛成してくれた。

 なんか、意外と気の良いやつらだし、また何かあれば狩りに出かけたいな。

 一気にフレンドが四人増えた。なんとなく、友達百人できるかな? なんて言葉が聞こえてきそうだった。

【付加】と【鷹の目】は、単体では役立たないが、組み合わせると役に立つようだ。このまま育て続ければ、今日よりもっとタクやその仲間を支えられるんじゃないか。そう思うと少しうれしくなった。

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