二章 生産職とエンチャント
翌日、俺がログインしたのは、午後からだった。
俺もゲームでまとまった時間が欲しいから、昼ご飯は夏野菜カレーだ。夕飯も同じメニューだけど、文句は言わせない。
「お兄ちゃん。私のレベルが上がって【剣】のセンスを【片手剣】に派生させたんだよ!」
「へぇ、良かったな」
「それからね、新しい友達もできたの。今度の子は、
「……そうか」
お前はいいな。家事が下手という
だがまぁ、俺はサポート、俺はサポート。そう自分に言い聞かせる。
そして俺は、またユンとしてログインする。
降り立った場所は、西のセーフティーエリア。昨日は【調合】でポーションや毒物を作ったが、素材が足りない。そして昨日手に入れたセンス【細工】だが、あれは最低限の設備として
研磨セット300G、携帯炉は800G。今の所持金ではどうしても足りない。とにかく、まとまったお金を
今の所持品は──木の矢×90、ポーション×25、初心者ポーション×50、石ころ×75、腐葉土やキノコを始めとした各種アイテムだ。
「うーん。これだけあれば300Gくらいで売れるかな?
俺は、小さな自信と共に、林を
いや、一番の勝因は、アーツ《遠距離射撃》だ。最大15メートルの
ほくほく顔で町へと入ると、俺に注目が集まっている気がした。いや、まあ初期装備だってこともあるし、それ以前に弓の人って不遇だから、それで注目されるんだろう。
ちょっと
「《
俺はそう
直前の
事前に調べたことだが、露店は
まあ、露店開設アイテムが1万G、店舗を借りるので一カ月5万G、購入だと50万G。俺の所持金いくらだと思う? 130Gだぜ。
露店には色んな人がいる。ポーションを売ったり、武器を売ったり。現段階で露店や店舗を持っている人は、
「やあ、そこの子。見てかない? ほら武器やアクセサリーだよ」
赤っぽい
なんか話でもできそうな
「俺のことか?」
「おおっ!?
そういえば、俺って今は、女性型のアバターだった。ヤバイな、人から離れていたからその認識を忘れてた。
「いや、リアルは男です」
「またまた、このゲームは性別
「あー、たぶん。機械の誤認なんですよ。だから、その。リアルでも」
「へぇー。機械が
うわぁ、話通じてないし。もう
「まぁ、いらっしゃい。マギさんの露店へようこそ。武器やアクセサリー何でもござれ。私は、店主のマギだよ」
「へぇ、もう露店を持ってるってことは、βテスター?」
「そうだよ。君は、えっと……」
「ユンだ」
「じゃあ、ユンくんもそう?」
「いや、友達と姉妹がβからで正式版で
あはははっ、じゃあ、弓使いって納得、と
「でも弓はここにはないかな? アクセサリーは基本
「いや、俺も生産職なんだ」
「へー、
「そうなのか。俺のセンス構成って弓使っているから金欠で」
「あー、分かった。作ったアイテム買ってほしいんでしょ。お姉さん、買っちゃうよ」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
それはさておき、これは
「へー。自作ポーションか。回復量がちょっと多いから、色付けて一個30Gかな? NPCなら25Gだよ」
「えっと、30の二十五個だから750G!?」
「まあ、まとまった数だからね。もう最前線の人は、初心者ポーション卒業でNPCからポーション買い取れるけど、NPCの一日の供給量ってゲーム内で決まっているの。だから転売屋なんかまとめて買って、露店でぼったくりで売ってるんだよね。まあ、プレイヤーの中には回復
そう言って俺のインベントリの中の所持金が増え、880Gに。
……いや、携帯炉セットまでは買えないか。
「あの。マギさん。アクセサリーを作るって言ってましたけど、アクセサリーの性能って
「いや、変わらないけど。加工できる金属の種類が変わるだけだよ。携帯炉だと鉄までだね~。私は鋼までしか見たことないし。ってことは、ユンくんのセンスは【調合】か【合成】。それと【細工】なんだね」
あー、マギさん。結構ハイレベルのプレイヤーだわ。これだけの会話でセンスの種類
「その、三種類あります」
「
「あ、ありがとうございます。さっそく試してみます」
「うんうん、それじゃあフレンド登録してくれる? ユンくん
そうして俺は、町でマギさんという
ほくほく顔で行きと同じように
戻ってきた俺は、必死に石を研磨した。今まで拾った石を鑑定した結果、半分はただの石だったが、残りの半分は、価値のあるものだったことが判明。拾った石の中に鉄鉱石が二十個あったが、炉が無いとインゴット化できない。
だから今は、【細工】のレベル上げのために、研磨セットで宝石の原石を
ガリガリガリ……と静かな森に音が
この近辺は、ペリドットしか採取できないようだ。どれを削ってもペリドットだ。
それより、金欠だから無理だ。金策
「つまり、俺は地道に削るしかないってことか」
まあ、【細工】センスのスキル【研磨】を使えば
だから、俺は十数個の原石を一つ一つ
そうして研磨すること三時間。全部の石を研磨し終え、中が三個、小が七個。残り全ては、ご臨終しました。
これ以上の研磨は、よりグレードの高い研磨セットを買わなければいけない。
だが【研磨】のお
センスはどれも低レベルだが、マイペースに進んでいくつもりなので、全然
次は、【合成】と【錬金】で検証したいことがある。
手元にある鉄鉱石。これを、炉を
【錬金】による上位物質
炉がないために、インゴットを持つ意味はないのだが、インゴットにできる可能性は無視できない。それに足りなければまた石を拾えばいいだけだ。
そうして俺は、手元にある鉄鉱石を全て、【錬金】によって変化させる。
「鉄鉱石×20に【錬金】!」
一瞬の白い光を発したあと出来上がったのは、予想外のものだった。
──上質な鉄鉱石。
読んで字の
続いての実験は、手元のただの石ころだ。
これを合成に使えないだろうか? 今ある使えそうなアイテムと組み合わせて消費できれば、採取での
イメージでしかないが、矢のグレードを木の矢から石の矢へと上げることができるかもしれない。
矢一本と石一個で試す。光があふれて、出来上がったのは、確かに石の
「さて、量産、量産、っと」
俺は気を良くして、【レシピ】から石の矢を作ろうとしたが、合成すらできない。
【レシピ】には、木の枝、鳥の羽根、そして石の三つ。しかし、現在そのレシピは使えないようだ。
「何で使えないんだよ。三つ……あっ、初心者キットって二つまでしか合成できないのか」
確か、シートの上にあるアイテム設置の
「また出費かよ! ええい、
半ば、やけくそ気味に声を上げ、木の矢を石の矢に作り変えた。木の矢も増産したので、木の矢二セットと石の矢一セット。十分な量を確保できた。
「しかし、矢が使い捨てって本当に
一人
「もしかして、さっきの鉄鉱石みたいに、素材は変わらずに矢が上質化するかも」
物は試しだ、と木の矢一セットを丸々
矢の束は、光に包まれた。
出来上がったのは、三本の矢だった。一セット三十本の矢がたったの三本に減ってしまい、俺の労力はなんだ! と
木の矢+10【
この表記は何だ? 攻撃力が
的にした木に
近づいて、しげしげと確認している間に、弓矢が消えた。
「はぁ~。また使い捨てか。弓って本当に使い
そうぼやきながら、背中に担ぐ
まさかと思いつつ、一本手に取り同じように射る。そして消えた矢は、戻ってくる。
「弓使いキタァァァァ!」
これは、大発見だ。消耗品は、数字を消費して戻ってくる。
弓使いのコスパの悪さ! そして、
鉄の矢+10を一セット用意するのに、必要な本数は、三百本。Gに換算したら300G。初心者には辛い上に、【錬金】センスがなきゃ使えない! 仮に別のセンスで作れても、わざわざ使い捨ての矢を強化する人は
いたとしても供給は、少量だろう。
つまり──
「相変わらず、弓使いって
まぁ、俺は自作できるからいいし、自分のセンス上げになるからいいけど。それに、一つ【弓】センスの
まさに、ファンタジーだ。
「うん。これが分かれば、長期戦で詰め替えとかしなくていいな。弓使い
森の中、一人。にやりと笑みを浮かべて、ステータスを確認してからログアウトした。
所持SP1
【弓Lv7】【
【調教Lv1】
●
ゲームからログアウトした俺と美羽は、夕飯のカレーを食べながら、お
「ねぇ、聞いてよ。お兄ちゃん」
「何だ。また愚痴か?」
「うん。まあ、そうかな? もう転売屋の人たちがポーション買いあさって
「知っているよ。NPCのポーション入荷量が定数決まっているんだろ?」
「そうそう。知ってたんだ」
「聞いた。あとは、俺自身が生産職だし、当分はポーション売って金にするかな?」
「そんなに金欠なの?」
「【調教】外して、【細工】取ったはいいけど、研磨と
「なんでそんなにお金かかる方向性にいくかな?」
ぶーと文句を言うが何を言う。研磨で宝石の原石が何の宝石か分かる
「にしても【錬金】【合成】【調合】【細工】って見事に生産系センスばっかりだね。
「いや、そんなことないぞ。西で採取した薬草を調合して初心者ポーション作って、【合成】でポーション。石は、【細工】センスで
うわっ、もう使いこなしている、と言われたが、残念だな。鉄鉱石は余って錬金素材にしているし、後は、
そういえば、美羽も
「なあ、腐葉土とか骨ってゲーム内で何に使うんだ?」
「農業、ってなかったっけ?」
「農業?」
「うん。町の南地区に土地貸しがあって、プレイヤーはそこで植物系のアイテムを育てて、採取するんだけど、それって大体植物の種子が無いと
「ふーん。じゃあ、胆石や薬石は?」
「お兄ちゃん、【調合】センスで試さなかった? 丸薬って回復量が初心者ポーション以上、ポーション未満のアイテムの素材になるんだよ」
そうなると、骨粉は、骨の下位
「ふむふむ。参考になった。
「お兄ちゃんがゲームにハマってくれるのはいいけど、やっぱり妹としてはその非効率さを
「ゲームは楽しむもの、ってお前が言ったんだろ。そんなせかせかと追われたくはないぞ」
妹の苦言もなんのその。家事の合間に考えられる様々な可能性を検証した。
種子の入手方法。一つだけ試してない方法があったからだ。
ログインした俺は、まず錬金画面を開く。錬金画面では、【錬金】の物質
物質変換も、変換する物質ごとに系列が存在するように感じる。
錬金とは名ばかりで、鉄は鉄にしかならない。ただ上位の『上質な』となるだけだ。つまり、名前
そして矢のように同一物質の強度を上げる【上位変換】。名前自体は変わらずに、強度や使用回数が変わる。
最後に、植物だって上位変換しても別種にはなりはしない可能性。
俺は、十個の薬草に【錬金】を
つまりはそういう事だ。そして、これが上位変換なら下位変換で考えられる存在。それは植物の元──種子への変換だ。
上質な薬草を変換すればいいのか、それとも普通の薬草を変換すればいいのか。
試しに薬草から変換した。変換率は、二倍。【錬金】によって誕生したそれは、薬草の種子だった。
これは、栽培専用となっていたので、心なしか安心した。
もしもこれも調合素材なら、俺は
そして上質な薬草も変換。結果は、二個の薬草。つまり植物にもグレードが存在する。
最下層が種子で、それから順々に上がっていくほど同系統では効果が高いということだ。ただ、これが
大量に集めて、薬草二十個消費で上質な合成ポーション一本では割に合わない。
「それにしたって、【錬金】で植物の種子作るってファンタジーだな。いや、金属の種類無視できない時点でもう現実重視って感じもあるけど」
ふうっ、後は大量の胆石の使い道だが、薬草と混ぜると初心者丸薬になることが判明。
同じ法則が適用されるなら、二つ合成で上位互換。また胆石の上位互換である薬石と、上位互換である薬草、
この場合、前者は時間を
「大体の法則が分かれば、アイテムの系統別で【錬金】で対応できるだろ。種子も手に入ったし、
俺は弓矢を持って、自身にエンチャントを施して林の中を進む。アイテムを積極的に採取しつつ、敵を探す。昼間あれだけ動き回っていた林のどこから
暗い
蝙蝠や野犬は、
【光属性】ならライトの魔法を灯して戦うのもいいだろうが、
大体は、夜に狩りをするなら、昼夜問わず同じ明るさのダンジョンに
蝙蝠からは、毒血と
そして解毒ポーションもありました。毒血とポーションで作る。つまり、毒を
そして野犬は、犬の毛皮と
これはきっと
MOBは、倒しただけ湧き出る。そして、ソロでの狩りであるために、ドロップ率とかめっちゃ良い。俺は苦労なく倒せるが、慣れない人は苦労するんだろうな。
そして狩りの最中分かったのだが、エンチャント時の光は、闇の中でも光る。これは、敵に自分の位置を知らせることになりそうだ。MOBはAI操作だからいいが、プレイヤーなんかにはすぐに見つかりそうだな。
あれ? なんか
俺は生産職だし、正面から戦っても勝てないなら不意打ち戦法でもいいかもしれない。
夜も
翌朝、さっそく第一の町の南地区へ土地を借りるために来たが、その前に軍資金を用意しなければいけない。
今日は、ポーション×30、丸薬×15、それと試しに解毒ポーション×5を用意してみた。まあ、ポーションだけでも買ってもらえれば、
今日も
「マギさん、こんにちは」
「ユンくん! 昨日、ポーション売ってくれてありがとう!」
開口一番に、両手を
「ユンくんの売ってくれたポーション。適正価格で売ったら最前線の人が来て、
「ああ、そういうことなのか。じゃあ、今日も買い取ってくれますか? 用意しましたから」
「うんうん。お姉さん的には、武器やアクセサリーの店だけど、万能感が欲しいから露店で一緒に売っちゃうよ」
「じゃあ、お願いします」
トレード画面に
「わぁー。これだけまとまったアイテムありがとう。それに丸薬って、今この町で買える一番良い回復薬だよ。それに回復量も少し多い。解毒ポーションもβ版では【調合】や【合成】センスを持ってる人がいたけど、正式版の
「そうなのか。じゃあ、ラッキーってことで」
「うんうん、じゃあ、ポーション35G、丸薬70G、解毒ポーションは70Gの、2450Gね」
「ちょ、ちょっと。昨日よりポーションの値段が上がってるって。30Gだったし」
「昨日は六割買い取りだったけど、今日は七割買い取りにしたんだ。ほらほら、これって売れば私のお店の宣伝にもなるし、必ず売れるし、私は適正価格だと思っているわけよ。それに、お金
チェシャ
「まあ、ユンくんがそこまで言うなら六割価格で……」
「すみません! その価格でお願いします!」
「うんうん、素直な反応がお姉さん好感を持てるな。それに
いや、俺は男です。やっぱり女の子だと思ってるのか。だが、最初に俺の手を握ってきたのは、俺の恥ずかしがる姿を見たいためか? いや、そんなことはないだろう。
にこにこと楽しそうな笑みを
「じゃあ、トレードお願いします」
「はいはい。じゃ、お金ね。またセンス上げでできたアイテム買い取るよ」
「その時はお願いします。あっ、そうだ。忘れるところだった。このアイテム見てもらえますか?」
俺は、トレード画面に昨日作った上質な鉄鉱石と宝石の原石を載せる。
それを確認したマギさんの表情が
「……ユンくん。これどこで手に入れたの?」
「どこって、
「いや、宝石は、
おっ、いいこと聞けた。その内、宝石の研磨も【スキル】でどんどん処理できるようになるってことだ。
「問題は、この鉄鉱石。上質な鉄鉱石は、西で採取するならもっと奥。第三の町──
いや、ビッグボアとか知らないから。
「いやいや、
「……なるほどね。【錬金】で作ったんなら
あっ、納得されちゃうんだ。
「で、どうする。ユンくんが使わないなら私が買い取るよ。上質な鉄鉱石とただの鉄鉱石って全く別種のアイテムだし、二つだけだと鉱石ってインゴットに出来ないのよね」
「えっ、マジで」
「うん、五つで一つのインゴットが出来て、武器は、
「ってことは俺の場合、錬金で鉱石十個を消費して、上質な鉱石一個だから、鉄鉱石五十個でやっとインゴット一つ分ってことか。また
「いや、全然。ただ、同じ鉄製の武器だと、上質の方が能力面に
「そうですか。じゃあ、買い取ってください。あと、また作ったら持ってきますよ」
「うん、市場に出回るまではそうしてほしいな。私は、上質装備でウハウハするから」
トレード画面を確認し、上質な鉄鉱石を
「マギさん、本気ですか!?」
「いやー、鉄鉱石って一個100Gなんだよ。それの上位だから200G。NPC価格で売ると半値だけど、今はあまり出回ってないからこれくらいが
「分かりましたよ。マギさんって何気にお金を持っているでしょ」
「うーん。
「まあまあ。
「……はい」
何とも
「畑を買うのかい? 一番安いので3000Gだよ」
「えっ?」
「今は、
いや、ゲーム内でそんなリアルなこと言われても困る。しかし、南地区の畑は、野球場が三つ程度に開かれているが、殆ど人がいない。
「分かりました。最低のお願いします」
インベントリの3000Gが消えた。ああ、俺のお金。
「ほら、土地の権利書だ。そこに書かれた場所がお前の畑だ。それと、畑を耕すには、スコップや
──ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁっ!
俺の残り所持金ギリギリじゃねえか! でも、道具がないと薬草の種子を植えられない。
ぎりぎりと歯ぎしりするほどに、
「毎度あり」
結局、買いました。先行投資だと思おう。そうだ、先行投資。調合すれば、2000G強
●
早速、
ガチガチに
ゲームの中でかなりの重労働だ。こんちきしょー。
「はぁ、はぁ。もう、なんだよこれ」
エンチャントで速度
そして何より、ただ種子を
NPC
もう、森で採取しまくったふわっふわの腐葉土を混ぜたり、野草を
そして、センスステータスの成長に気付いた。
所持SP3
【弓Lv9】【
【生産の心得Lv6】
【調教Lv1】
森を出る前に一度レベルを確認したんだが、【調合】に関する行動をした覚えはない。だが上昇している、ということは、この畑仕事をしたからなのだろう。
なんか、骨とか腐葉土を混ぜて土の中で肥料にした、と
だが、まあいい。
後は、種子を蒔いて、
「うーん。終わった。おっ、通信だ」
ぽーんと
「どうした?」
『いや、
「いいけど、どこでだ?」
『東のビッグボア狩りに行くんだ。ユンは、レベル上げに
「いや、来ること前提かよ」
『いいじゃん。まぁ、ぶっちゃけ、ポーション足りずに足止め状態』
「分かった。じゃあ東門の前で待ち合わせな」
『
うーん、ビッグボア狩りか。ってことは西の鉱山地帯にいるサンドマンレベルのなのか。ちょっと興味あるな。俺は、さくっと装備の確認をした。強度を上げた弓矢は、約三百本を持っているために
ただ石の矢と木の矢だけだと
東門前に
「よぉ、ユン」
「ああ。本当にいいのか? 俺なんかが
正直、不安たっぷりだ。まあ
タクのパーティーメンバーに軽く
「俺っ
「うわぁっ、
「でも弓持ちじゃないか。
「いいじゃん。ゲームなんだし、楽しめば」
あー、うん。俺も気にしてるんですよ。初期装備で弓持ちって。あと、俺っ娘とか綺麗な子とか、俺男だから。
「タクのリアル友達を連れて来るって言ってたけど、外見レベルが高い。しかも勝気系、いやクーデレ。これは勝つる」
「美人さんね」
それ以上、容姿のこと言わないで! お願いだから。軽装の男と、
「えっと、こいつは、ユンだ。見ての通り弓使いだが、多少は役立つだろ。役立たなくても、今回の戦闘でセンス変える時の参考にはなるだろう」
「おい、
周囲が、えっ!? って表情している。そうだよな。そうだと思う。弓持ちの生産職。
「それなら役には立つかもな。ちなみに何を作っている?」
弓とか初期装備のところに反応した男だ。なんか見た目無骨だけどカッコいいんだよ。
「一応、ポーション」
インベントリから自身の作ったポーションを一つ取り出して見せる。それを見た彼は、質問を重ねる。
「それは初心者か?」
「いや、一個上の通常の」
「なら、回復役にはなるな」
「あー、金欠で売っちゃった。これ以外は、全部」
「なっ!?」
タクは、腹
「お前は
「いや、初心者のポーションや丸薬で用足りるから」
「アホか!? 取得SPの合計が10を
「へー。ってことは、全部のセンスのレベルが10を超えるかそれくらいなんだ。俺はまだまだ
なんか鉛色の戦士さんは、頭抱えている。言葉には
それにしても最前線の人がポーションを必要とするのは、そういう理由か。
「じゃあ、説明するな。軽装
タクが一通り
「俺は、ユン。見ての通り、初期装備の金欠弓使いだ」
自己紹介でそれはどうかと思うが、事実そうだ。
それから俺たちは、平原を
解毒草や
つまり──アイテムの作り方は、一つではない。
段階を
後は、木の枝って木のあるところならどこでも採れるようだ。それに、鳥型MOBから鳥の羽根が容易に手に入る。
これの使い道って【
道中、俺はアイテム採取でほくほく顔。ただ、なんだかガンツやミニッツの視線が痛い。
「な、なにかな? ガンツにミニッツ?」
「いや、本当にタクの知り合いかな? と思ってさ。だって、プレイヤースキルの高い
「それに、姉妹も居るのよね。つまり、
いや、知らんがな。と言うか、俺は男だ。
「俺だったら
「男は、ノーサンキューだ」
「私も可愛い子は好きだよ」
「そういう好かれ方も好きじゃない!」
ミニッツに背後を取られ、
周囲に助けてと視線で
「ねぇねぇ。タクくんとはどういう関係? ホントのところ、リアルだとどんな関係?」
「ミニッツ。ゲームでリアルのことを聞くのはマナー
鉛色の戦士であるケイが、タクの代わりにストッパーとして入る。
タクは肩を軽く
「じゃあ、この辺で
「いやいや無理だって。ビッグボア足速いだろ。
満足したのか、そういう切り出し方でガンツとミニッツが
「いいですけど、私、紙
そう言って、少し不安そうに自分の意見を述べるマミさん。
あーどうするか? って、おい考えてなかったのかよ。
「なあ、引き寄せるのって
「そうだな。まあ、直接一撃入れればいいし……」
「この位置からでも一撃入れればいいんならやるぞ」
タクが何? と訳が分からないような感じだった。久々にタクを
「まぁ、見てろって。《
プレイヤーへのエンチャント。【付加】のレベルが10を超えた辺りから、スキルの効果と持続時間をはじめ、次の
自身の
射程は、自分の攻撃力にも
複雑な計算がなされる射程距離だが、成長した弓と【アーツ】、そしてエンチャントを使えば、十分届く範囲だ。
【
風を切って走る矢。【鷹の目】で当たる
「当たった。来るぞ!」
俺は、二射目を放ったが、今度は外した。
二度《遠距離
「《
タクに
魔法職の火力は
それでもビッグボアの攻撃は、一撃で前衛のHPを三割
うん、良い発見になった。
俺も矢を射ながら、MPが回復したら、防御エンチャントを
「いや、まさかここまであっさりビッグボアを倒せるとは思わなかった。アイテム買ってきて
「あっさり!? あんだけ苦労して、後ろから見ているだけでも冷や冷やする戦いだったのに?」
「ユン。お前、パーティーで強敵に
最初の姉妹のチュートリアルだけで、一人で細々と弱い敵をズドンだったからな。
「
そう言われても、知らないものは知らない。
「なぁ、ユンだったか。一つ聞いていいか?」
「なんだ? ケイ」
「
「うーん。なんとなくだな。キャラの初期方針でサポートできる万能キャラ目指したんだが、いい感じでゴミ
「そうか、もう一つ。どうして俺たち前衛に、防御エンチャントを掛けた。攻撃エンチャントでも良かっただろ」
「……うん? 今回の目的ってレベル上げだろ? 【
「そうか。その……【付加】に助けられたんだな。今回は、ありがとう」
なんか、背中がぞわわっと
「でも実際そうなんだよね。防御エンチャントでダメージの軽減や、弓で遠距離から引き付けてくれなかったら、私たち後衛のMPが切れて危なかったもの」
「そう言ってもらえたら助かるかな?」
なんか、女性たちに
「でも、何で最初に【付加】したのがタクくんなのかな?」
「はぁ? 何でそんなことを……」
「ふふっ、気になる男の子は、支えたいってこと?」
「
「自然と目に付く存在がタクくんだったと……」
「だから、違うって! タクとは、
男だ。と言おうとしたが、からかって悪かったよ、と俺の反応を軽く流すミニッツ。
ミニッツは、今度はタクの方をからかいに向かうが、良いようにあしらわれている。その後ろ姿を俺は
「さぁ、休憩ついでに反省会とインベントリの確認しよう。そうしたら、また三
音頭を取るタクの指示に従い、俺もインベントリで取得アイテムを見る。うん……パーティーで狩ったからアイテムが少ないが。何、この
使い道は、保留にして、その後、大猪の毛皮や大猪の
タクたちと狩りをした結果、レベルが上がる上がる。経験値は、強い敵の方が実りも良い。だからハイリスク・ハイリターンをとるんだな、と思う。
まあ、俺は
俺のセンスって半分が戦闘、半分が生産だから、戦闘だけじゃバランスよくレベルが上がらない。マギさんの言っていた戦闘と生産の両立が難しい、とはこういうことなのか。
「うーん」
「どうしたの? ユンちゃん」
「ユンちゃん!?」
ミニッツが俺に後ろから
「くっつかないでくれよ」
「やだよ。こんな
すぐには離れそうにないが、女の子相手に暴れる訳にもいかない。それに、それ程
(ユンちゃん。さっきは、からかうようなこと言ってごめんね)
(ミニッツ?)
(別に、タクくんを取る気はないから)
いや、何か盛大な
「だから俺は、男だ。だからそういう考えは止めてくれ」
「えー、
「だーかーらー、タク! お前が証明してくれよ!」
「くくくっ、照れるなよ。ユンは、リアルでも似たようなもんだろ」
「おおっ! リアル俺っ
「タクてめぇぇ!」
抱きつかれて無理に
「でも弓使いって、弱いとか
「あー、言われてみればそうね。どうして弱いとかって言われたのかしら?」
女性
それに対して男性陣、何とも
「あーそれな。
イベントは
「いやー、あの時は本当に
「そーだな。あの時、
「それに、おかしいのはもう一つ──【付加】だ。どうしてそういう風に使える?」
「「「えっ?」」」
いや、エンチャントって普通に仲間に掛けられるよね。そう言えば、仲間に掛けるのは、これが初めてかもしれない。それに女性陣、何であなたたちも
「もしかして、仲間に掛けられなかった?」
「いや、【付加】センスのネックは、その範囲にあるんだよ。おおよそ2メートル。それを育てた人の話だと、育てても変わらずで、早々に
つまり、射程の短さ? 確かに、2メートルって言えば、初期の弓矢の
「だから、おかしいんだよ。戦闘中にあんなに安全にエンチャントを掛けられることが──何か心当たりはないか?」
「いや、普通に、
その言葉に
「ユン。まだ【
「ん? あれ、便利だぞ。遠視能力に加えて暗視能力まで含まれている。夜の狩りに最適だし、夜は常時発動でどんどんレベル上げしているんだ」
「お前、ちょっと俺を見てエンチャント掛けてみろ」
5メートルほど
「なんか良くわからんが、《
「次は、右を向いて、俺に掛けろ。俺を絶対に視界に入れるなよ」
「分かった分かった。《
エンチャントができない。それを見たタクは、やっぱりか、という風に
それに気がついた周囲の面々。俺だけが現状を分からずに、エンチャントを自分に
「俺たちは、大きな勘違いをしていたな。【鷹の目】の本質は、遠視でも暗視でもない。ターゲット能力だ」
俺は聞きなれない単語に首を傾げる。
「つまり、視認した物を対象に
「あはははっ、公式チートまで成長してくれることを願うよ」
「えっ、どういうこと?」
もう、何が何だか分からなくてちゃんと説明してほしい。
「つまり──ユンは、見た対象に魔法を掛けられるってことだ。それで
やっぱりよく分からないけど、何か無双って聞くとカッコいい気がした。
「ユンはどうする? このまま魔法職に変えるか?」
「いや、人と同じじゃつまらんし。俺は、生産職
「それとこの情報、攻略サイトに上げる? 上げると【鷹の目】と【付加】のコンボで二つのセンスが不遇から
「うーん。誰かが俺のマネするのか。ちょっとイヤだな。Only Senseってタイトルなんだから、
「
みんなは賛成してくれた。
なんか、意外と気の良い
一気にフレンドが四人増えた。なんとなく、友達百人できるかな? なんて言葉が聞こえてきそうだった。
【付加】と【鷹の目】は、単体では役立たないが、組み合わせると役に立つようだ。このまま育て続ければ、今日よりもっとタクやその仲間を支えられるんじゃないか。そう思うと少し
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