一章 正式オープンと不遇センス

 朝の八時。がそわそわとしながら朝食のトーストを食べている。

「なあ、そんなに落ち着かなくてても、朝の十一時には始まるんだろ?」

「うん。だから、早いおひるはんお願い。ぶっ続けでやるから」

だ。ちゃんと十二時に飯を食うぞ。そして、ゲームはそんなに長時間やるな」

 俺の苦言にも妹は、ぶーぶー、と文句を言う。夏休み中の家事をお前は手伝っていないだろ、と言おうと思ったが、それでムキになって手伝われてもじやになるならとだまる。

「全く。分かったよ。じゃあ、簡単にチャーハンな」

「わーい、お兄ちゃんありがとう」

 全く、子供なんだからとつぶやく。その後、家事を終えて、昼食を作りながら夕飯を考える。

 今日の夕飯は、暑いからそうめんでいいか。それと湯を沸かす間に作れるメニューで栄養バランスを整えれば。バンバンジーやもの、ナスのつけものなんかをえればいいだろう。美羽の好きなき揚げも用意すれば、二階から下りてくるだろ。カリカリの揚げ物をつゆにひたして食べるのが至福。揚げ上がったタイミングでゲームを中断するだろう。

 美羽も早く食べられるし、と妹に甘いなと思う。

 そして、十一時。俺は、VRギアを着けて、ベッドにころがる。起動と共にさいみんゆうどうが始まる。感覚的には、体は寝ているのに、頭はえている感じだ。それから視界が広がり、真っ白な空間へと出る。

『名前をどうぞ』

 機械的な女性の声にうながされるままに、目の前に現れたはんとうめいなキーボードに名前を打ち込む。VRに慣れない中で、ゆっくりと自分の名前【SYUN】を打ち込む。すると、半透明な画面が切り替わり、チュートリアルのせんたくが出る。俺は、操作以外は攻略サイトから事前に情報を得ている。必要ならば、しずか姉ぇや美羽に聞けばいい、とスキップを選択する。


 ──そして、開ける光景。

 周囲には、あふれ返る人。たくさんの人がログインして来たようだ。そして、俺は初めてのVRの世界に降り立った訳だけど、体感がおかしい。まあ、VR特有のかんだと思いたいけれど……何故かかみびていて、なんだかおしりにも丸みが……どういうことなんだ?

 そう考えている時、ぽーん、ぽーんと連続性を持つ音が聞こえ、あわてて周囲を見回す。

 視界のはしかび上がるアイコンを慌てて目で追い、音声入力でそれを選択する。

「チャット、オープン」

『あっ、お兄ちゃん。つながっている?』

「なんだ。美羽か。おどろいたぞ」

 今は、現状あくできていないじようきようで、思考が中断される形となる。だが、見知った相手の声を聞いたために大分落ち着いた。

『こっちも人が多くて分かんないから、お姉ちゃんと北の大聖堂前で待ち合わせしよう。待ってるね』

「分かった、すぐ行く」

 俺は、すぐにその場を移動した。人ごみはきらいだし、何より周囲が俺を見ている。

 辿たどいた大聖堂前は、多くの人が待ち合わせをしており、その中から美羽を探す。

『ねえ、お兄ちゃん。もう着いた?』

「ああ、着いたが……どこだ?」

『聖堂前の像の下。白い髪だよ。お姉ちゃんは、水色』

 やっと見つけた。確かに白だ。そのとなりには、水色の髪に魔法職の人らしいローブの人がいる。じやつかん垂れ目の眼の下に泣きボクロのある美女は、配色のちがいはあれど、見知った人物だ。その人たちに声をかける。

「美羽で合っているか?」

「えっ、ハイ。ミュウです、が、どちら様ですか?」

「俺だよ、お前の兄のしゆんだよ」

「えっと? 峻ちゃん? お姉ちゃん、しばらく会わなかったから分からなかったよ。いつの間に女の子になっちゃったの?」

「いや、お姉ちゃん、違うから!? これそういう問題じゃないから! なんで、お兄ちゃんがお姉ちゃんになっているの!」

 姉、と言われて、自分の胸に手を当てて軽くでる。胸部のふくほとんど無いが、それでもやわらかなかんしよくてのひらに返ってくる。その手を下へとスライドさせると、ほっそりとしたこしまわりの柔らかい反応が返ってくる。服の上からでも胸部の柔らかなだんりよくまどいを覚える。

「いや、考えたくないんだが、カメラでさつえいした姿を修正無しでキャラエディットした時、身体補正がかったのかもしれない。主に、女性的な方向で」

 考えたくなかった。確かに女顔かもしれないが! これはひどい。システムのバグだ。なんでこうなるんだ! と心の中でさけぶ。

「それに、お兄ちゃんの声も高くなってない? なんか、可愛かわいい声になったかも」

 確かに、俺の声は、若干高くなっている。いわゆる、アニメ声に近くなってしまった。

 意識して声を作れば、リアルでも同じ声を出すことが出来るので違和感はうすい。

 この声ので、学園祭の仮装コンテストに出場させられたんだ。仮装なら女装も入るだろ、と有名女性声優の演じるキャラの衣装を着て、ステージに立たされて……だれ一人ひとり男と気づかず、優勝して終わった。

 あの黒歴史が俺だと特定されたら、もう首をくくるしかない。ちなみに、コレがたくみの宿題消化を手伝わされたおどしのネタだ。

「うーん。すっかり美人になっちゃって、お姉ちゃんはうれしいな。峻ちゃん、いや、今はユンちゃんかな?」

 ……はい?

「だって、名前の所がユンになっているよ」

「えっと、あっ、本当だ。ユンお姉ちゃん?」

 SYUNと打ったはずなのだが、不慣れなVRの操作で打ち損じたようだ。最初のSがけてYUN──ユンと名前が決定している。

「おい、もう、このキャラ消すぞ!」

「まあまあ、このゲームって基本ネカマが出来ないんだから、良い体験だと思おうよ。ユンお姉ちゃん」

「それ消したら──お姉ちゃん権限で黒歴史をさらすよ」

 うわっ、静姉ぇ。いや──今はセイ姉ぇが本気だ。セイ姉ぇが本気の時は、後がこわい。結構しつこいのだ。だん温厚な分、ままを通そうとする時は、てつていてきなのだ。

「わ、分かった。まあ、俺は、演技ロールとかはしないで適当にやるよ。それで、二人はもうセンスをかくとくしたの?」

「うん。初期のセンスを獲得すると、同時に初期武器ももらえるからね」

「じゃあ、俺もセンスを取るか」

 俺は、少し二人に待ってもらってセンスを取得する。

「ねえ、ユンお姉ちゃんは、どんなセンス構成?」

「うん? 俺の構成は、【弓】【たかの目】【ほう才能】【りよく】【錬金】【付加】【調教】【合成】【調合】【生産の心得】だぞ」

 なんか、ミュウが口をぽかんと開けている。そしてセイ姉ぇは、困ったような顔をする。

「ねえ、ユンお姉ちゃんは、何を目指そうと思っているの?」

「うーん、サポートかな? ちゃんとテンプレを見てアーツやスキルに必要な【魔力】と魔法を使うベースの【魔法才能】。それに対応する魔法の種類で【付加】を──」

「……お、に、い、ちゃんの鹿っ! そんなゴミセンスばかり集めて!」

 うん、ゴミだと知っていてえてすき産業的な意味合いで、と反論しようとしたが──。

「良い!? 【弓】ってコスパ最悪じゃない! 【鷹の目】は、遠くの物がよく見えたりするだけで、全然ユニークセンスじゃないよ! それに、【錬金】ってただの物質へんかんセンスで変換率悪いよ! 【付加】は、ちゆうはんだし。【調教】は、MOBの調教の成功率は高くないから死にセンスだよ。生きてるセンスって魔法系と生産系のセンスだけじゃない! いつしよぼうけんできると思ったのに!」

「えっと、直訳すると【弓】はしようもうひんである矢とセットじゃないと使えないし、【鷹の目】も見通すだけで余り便利なセンスじゃない。【魔法才能】は【付加】や【錬金】でも多少育つけど、効率が悪い、ってところかしら?」

 ていねいにセイ姉ぇが説明してくれた。

 つまり、俺はあしまといにならないようにサポートセンスを選んだつもりが、完全に足手纏いでサポートにすらなっていないようだ。さらに、とどめの一言が俺をおそう。

「【合成】や【調合】でできるアイテムって大体お店で売っているんだよね。だからゲーム初期では、あまり重要じゃないかも」

 はい、俺の存在意義がなくなりました。だからと言って、しゆうじんかんの中で落ち込んでいる訳にもいかない。

 全プレイヤーの初期の所持金は、1000G。装備を整えるべく、町をめぐる。

 取得したセンス【弓】のために鉄の矢を三十本一セットが30G。それを四セットで120G。そして【合成】と【調合】の初期の生産キットで、300Gずつの600G。初心者用ポーションが三十本で150G。──合計、870G。残金は、130G。

 つうのテンプレ編成の場合、センス取得時の初期武器をそくさんもんで売って、店売り武器にして消耗品を買いそろえたとしても500Gは残る計算だ。

 そして、弓のコストパフォーマンスの悪さの理由は、矢にある。矢とは、使い捨てなのだ。放った矢は回収できないのが基本。そして初期の敵を矢だけでる場合、三本使って一体たおす。その時のドロップアイテムは最大で3G、最低で1G。それは全て当たった場合であり、外せば、当然もうけはない。

 俺は、生産センスを持っているので、ドロップアイテムを別のアイテムにしたとしても、大した儲けにはならないだろう。

「……つまり、初期のコストパフォーマンスの悪さが原因なんだな」

「そう。しかも魔法は、センス自体のレベルを上げていけば、若干のつい機能も付いたりするけど、弓はそういったものは全然ないの。矢のどうはほぼ直線。だから弓だけは大分プレイヤーの能力ぞんになっちゃうわけ」

「……ま、まあ、モーションアシストもあるから初心者でも最低限にはできるはずだよ。だから気を落とさないで、ユンちゃん」

「あ、ああ……」

 さっきまで一緒に冒険できるとはしゃいでいたミュウに説教されている。俺がゴミセンスを取ったのがそんなに気に入らないのだろうか。いやまあ、テンプレ構成を聞いた上でこれを取ったのだ。おこられたって仕方がない気がする。

「いいから狩り行こう。せんとうのチュートリアルを早く済ませちゃおう。私、午後に友達と狩りに出かけるから」

「……お、おう」

 セイ姉ぇ、助けて。と視線を送るが苦笑いされるだけだった。

 俺たちは、初期の町──つうしよう、第一の町──のがいへきから外の平原フィールドへと出た。このマップでは、平原に居るMOBは、全て初心者プレイヤー向けであり、更に東西南北にそれぞれ道がある。

 βベータ版では、東方面のこうりやくが盛んで、南北は高レベル帯だったために、攻略が手つかず。西方面は、採取系のアイテムが豊富だが敵MOBのバランスが悪いそうだ。

ずは敵を倒してみよう。お兄ちゃんは、弓でこうげきして、お姉ちゃんは、魔法でお願い」

りようかい

「分かったわ」

 それからしばらく狩りにいそしんだ訳だが、妹がけんり回し、そうしよくじゆうという名前の、見た目草食系のMOBをバッタバッタとなぎ倒し、セイ姉ぇが水のだんがんを打ち出す。俺は、矢を射るのだが……

「全然、当たらねぇ!」

 セイ姉ぇは、同じ射程2メートルほどで魔法を簡単に当てるのに、同じえんきよ攻撃持ちの俺は、2メートルでも外す。そして外した矢は、使い捨て。悪い。非常にコスパが悪い。

 そして何より、矢が切れたら、いちいちインベントリからじゆうをしなければならない。

めんどうくせぇぇ!」

 ねらいをけずにどんどん矢を打ち出していくが、当たる気配はない。当たりやすい位置まで自然と足が進む。

「お姉ちゃん、そんなに前に出たら──」

「ここなら、当たっ──!」

 矢を射る俺に向かってくる草食獣におどろき、けようと半歩下がり、そのまましりもちをつく。

「──危ない! 《アクア・バレッド》」

 俺へと体当たりをしてくる草食獣に向かって水の弾丸が打ち出され、敵はしようめつする。

「ユンちゃん、不用意に近づいたらでしょ。だいじよう?」

 セイ姉ぇは、こしかがめて尻餅をついた俺をのぞき込んでくる。その時、首筋のローブの間から白い首筋となだらかなこつがちらりと見えて、少し視線を外す。やっぱり大学生になるとちがうのかな? と少しセイ姉ぇの色気を感じ取る。

「むぅ、だからゴミセンスなんか取るからだよ。矢全部使い切ったでしょ。じゃあ最後に必殺技──【アーツ】。ちょうど【剣】のセンスが5になったから……」

 何か、俺を追い立てるように声を上げて、立ち上がらせる。

 ミュウは、おもむろに草食獣に近づく。近づいて剣を正眼に構えた、と思ったら、流れるような三連撃をす。振り抜かれた剣の軌道は、薄い銀色の光を帯びているように見える。

「これが【アーツ】ね。ユンお姉ちゃんも【弓】のセンスを上げれば、そのうち覚えると思うけど、私は、早めのセンスえをおすすめするな」

「ちなみに、センスは10レベルごとSPセンスポイントを一つ貰えるの。上位センスは、レベル30くらいで発現するから」

「分かった。ありがとう」

 兄妹きようだい三人での狩り。得たアイテムでは、弓矢代には遠くおよばず。これはもう生産職でお金を貯めつつ、センス総入れ替えでもしないといけないように感じた。


    ●


 ミュウとセイ姉ぇと別れた俺は、ステータスを確認しつつ町にもどった。

 俺のセンスは、こんな感じだ。


 所持SP0

【弓Lv3】【鷹の目Lv2】【魔法才能Lv1】【魔力Lv1】【錬金Lv1】【付加Lv1】【調教Lv1】【合成Lv1】【調合Lv1】【生産の心得Lv1】


 狩りの結果、全く育っていないのだ。ミュウは【剣】が5、【よろい】は3。時折、回復や魔法も使っていたので、魔法系のセンスも育っているだろう。セイ姉ぇは、【魔法才能】が3、【魔力】も3。そして【水属性】5という具合だ。というのだから、俺の総合レベルの低さがうかがえる。

 俺は、町のこうがいの広場に座り、色々と試してみる。

 先ずは【錬金】センスからだ。

 このセンスのとくちようは──物質変換だ。だが実際には、名前とかけはなれ、ぐうなゴミセンスあつかいである。試しに、草食獣より手に入れたたんせき、毛皮、骨がそれぞれ五十個ある。これは姉妹たちのお情けだ。

 メニューよりせんたくすると、スキルらんに【物質変換】のスキルが存在した。スキルは、【物質変換】を選択すると、次に対象の選択へと移る。リストから胆石を選択。

 消費画面では、胆石×10と表示された。これは、物質変換で消費するアイテムなのだろう。俺は、躊躇ためらわずに、実行する。

 そうして変換されたアイテムは、薬石というものだ。それが一個。

 いやまぁ、胆石って漢方薬になったね。うん、ゲームだからその辺はまないでおこう。

 そのほかにも、毛皮十個で物質変換したら、大きな毛皮が一つ。骨の場合は、「十個消費して大きな骨」と、「一つ消費して骨粉二つ」の二種類のせんたくがあった。

「なんで、骨で変化先が増えたんだ? センスのレベルが上がったのか?」

 レベルが上がったかと思い、ステータスを確認したが、レベルは1のままだ。

「消費するアイテムの数が違うし。骨粉十個の場合は──」

 骨を骨粉にし、骨粉に再度【錬金】をほどこす。結果、骨に戻った。

【錬金】の物質変換を考察した結果は、二種類。上位と下位の物質変換に分かれる。上位の物質である薬石や大きな毛皮を生産するのに、十個のアイテムで上位一つになる。

 そして、下位物質である骨粉は、変換率二倍。

 センスを成長させれば、変換率が変わるのか、別の変化先が生まれるのか分からない。だが、現状【錬金】センスのレベル上げに使えるアイテムが少ない。

「狩りで敵を倒せないのに、どうやってアイテム集めるんだ。まぁ、後で考えよう」

 これは後回しで次は、【付加】をやってみよう。

【付加】と言えば、RPGの定番であるエンチャントやバッファ、バフと呼ばれるステータスじようしよう系のほうセンスらしい。

 試しに、自身を対象にエンチャントをけてみる。

 やり方は【物質変換】とは違い、対象を意識して、スキルリストにある魔法スキルを唱えるだけで良い。

 MPがほとんど持って行かれた上、得た効果はたるものだった。それにけいぞく時間が六十秒と短く、実戦で使えるか疑問だ。ただ、MPの消費量が大きいってことは【りよく】も成長するってことだ。MPの回復を待って、他のエンチャントを試してみる。

 自身の体には、ぼうぎよエンチャントや速度上昇エンチャントを施すが、すぐに効果は切れてしまう。ただ気がついたことだが、座って休んでいれば、MPの回復は、立っているより若干早い。

 じっと座って、自分にエンチャントを使い続けていれば、気づいた時には【魔法才能】が2で【魔力】が4にまで成長していた。

 エンチャントの種類は、赤色のATK、青色のDEF、黄色のSPEEDの三種類。センスレベルを上げれば、ステータス上昇効果の増大、効果時間の延長が見られるだろう。時間を見つけて適当にエンチャントしてれば、レベル10くらいまで成長するだろう。

【調教】に関しては、完全に死にセンスだ。今の俺では、MOBをたおせる自信がない。

 そして【合成】と【調合】にもアイテムが必要だが素材が無い。うーん、アイテムが無い。どうするべきか?

 その時、ぽーん。とチャットが来た。俺のメールアドレスを知っている人間は、このゲーム内でも事前登録しておけば、チャットが可能なのだ。

 チャットの主は、巧だった。

『おう、ログインしてるか?』

「ああ、なんだ? しているぞ」

『なら今から会わないか? フレンド登録するために。ちなみに今の俺の名前は、タクな』

「了解。じゃあ、場所は……」

 それから俺は巧を待つ間、エンチャントを続けていたら、レベルが一つ上がった。

『なあ、峻。どこにいるんだ?』

「ユンって名前のキャラだ。くろかみで今エンチャントしている。今は、赤色に発光中」

 自分でもシュールだと思う中、見知った少年と目が合う。その相手は、俺を見て一言。

「あ、ああ。ユンってお前……何で女キャラ」

「……知らん。機械の誤認だ」

「いや、最後に見た時より、美人度二割増しで美少女だぞ。胸ないが──「ふんっ!」」

 俺は、攻撃のエンチャントの状態で、タクのわきばらにボディーブローをける。脇腹にいちげき食らった巧だが、質素でかたよろいは、俺のこぶしはじく。むしろ、俺の手が痛い。

「大人しくなぐられろ。……俺だって気にしているんだ。はいゲーマー」

「いいだろ。でも、何でユンって名前なんだよ。完全に女だろ。見た目からしても……」

「入力ミスだ」

 分かっているさ。だんよりも目が大きく、だれが見ようと女の顔だ。体付きも女性のそれと同じだ。

「想像してみろ。自分の妹にお姉ちゃんと言われるしゆんかんを。背筋に寒気が走るぞ」

「そりゃ、ごしゆうしようさま

さらに、えてすき産業的センス取得したら、妹にチェンジを要求されるし」

「いや、ゴミセンス取る方が悪いだろ」

 くっ、これだから廃人ゲーマーは、ゲーム効率を重視する。

「ちなみに、今のセンスはどんな感じだ?」

「ああ、こんな感じだ」

 センスのステータスを巧、もとい、タクに見せ──その第一声がこれだ。

「うわっ、ひどい」

「泣くぞ! そんなにひどいのか!?」

「【弓】は、せんとうセンスの中でも非効率の代名詞だし。大体【錬金】なんて非効率以外の何物でもないぞ。【調教】を単体って……早く何かのレベルを10にしてひかえにしろよ」

「うっ……戦闘じゃあ金かせげないし、今は所持金が130G」

「お前、何気にしばりプレイしてないか?」

 断じて、そんなことしてません。そもそも、そんなつもりもありません。

「やばい。妹にはチェンジを要求されるし、静姉ぇには苦笑いされる。自信なくすな」

「元々、ゲーム始めたばかりで自信なんかあるわけないだろ」

「むぅ、そこはなぐさめるとかしろよ。普段の兄としての尊厳とかあるんだよ」

 ひざかかえて座り込み、となりに立つタクをにらみつけるように見上げるが、タクはただほおつめいているだけだ。

「慰めねぇ……美少女で良かったな。あのおっとり系美人のセイさんに、元気系美少女のミュウちゃん。お前はさしずめ、クール系の美少女か?」

「うるせぇよ。と言うよりも全く慰めになってないから」

 それに、そんなことないだろ、と周囲に視線を向けると、周囲のプレイヤーがいつせいに顔をそむける。……いや、ぐうぜんだよな。偶然だ。そうにちがいない。

「なあ、相談なんだが、効率のいい稼ぎ方って無いか?」

「うーん。それってレベル的な意味か? それとも金的な意味?」

「両方だ。先立つものがないんだから」

 りよううでを組んでうーんと考えるタク。その時もエンチャントを掛けて青色に発光する俺。考えると何ともみような組み合わせだ。

「あるな。戦闘しないんだったら、平原を西側に進んだ林で採取系アイテムが手に入る。【調合】センスもあるし、レベル上げもねて加工して売るのが良いんじゃないか?」

「そうか、サンキュー。そうしてみるわ。他にアドバイスは?」

「敵は、昼間の出現率は低いけど、夜になると増える。だからその点気を付けろ。って言うか。どうする? 手伝うか?」

「いや、相談に乗ってくれただけで十分だ。ありがとう。多分、一人じゃ無理だったわ」

「別にこれくらいつうだ。じゃ、フレンド登録。ひまになったらレベル上げ手伝ってやるよ。俺がこのゲームにさそったんだから」

 全く、リアルでは俺にめいわくばかり掛けるのに、ゲームだとたのもしくなるんだもんな。少し不服だ。

「じゃあ、お前のかつやくを期待してるぞ」

「俺は、ミュウやお前のような廃人じゃないから無理だ」

 たがいに軽いじようだんを言って別れる。先ほどよりも軽い足取りで、町の西門をけて西へと向かう。目指すは、採取アイテム。

 平原のそうしよくじゆうを無視して突きすすむ。どうやら、ノンアクティブ──近づいても敵からはこうげきしないタイプのMOB──らしい。

 そのため、無視して平原を進むことができた。

 時折、速度エンチャントで黄色の光を発しながら進む。更に、平原は広いので【たかの目】の成長のためにも遠くのMOBや風景をながめる。

 みるみるレベルが上がるぞ、ミュウとセイ姉ぇとのりが何だったのかと思うほどセンスのレベルが上がる。

 道沿いには、採取アイテムは無さそうだが、鷹の目で林の奥に目をらすと、少し離れた場所が採取ポイントのようだ。さあ、採取採取と。

 木の根元や地面にアイテムがあるとのだ。自然とそこに意識がいく、不思議な感覚。これがセンスの補正なのだろうか。

 採取したアイテムは、木の枝を始め、キノコ、薬草、石、野草、鳥の羽根と、種類だけは豊富だった。大体それぞれ十個ずつくらい。後は、特定の場所の土から回収できる──よう。そのまんま過ぎて何のようがあるのか、不明。

 結構な種類のアイテムが集まった。この情報を教えてくれたタクには、感謝がきない。そして俺は、林に設けられた非戦闘エリア──セーフティーエリア──できゆうけいしていた。

 すぐに【調合】には入らずに、いまさらながらメニューを食い入るように見返している。

 スキルらんを見ると、まだ戦闘技能の【アーツ】は取得していない。そのほかの、【合成】や【調合】のスキル欄には、すでに【レシピ】が存在した。

 ちなみに、センスのステータスは、以下の通り──


 所持SP0

【弓Lv3】【鷹の目Lv5】【魔法才能Lv4】【魔力Lv7】【錬金Lv1】【付加Lv6】【調教Lv1】【合成Lv1】【調合Lv1】【生産の心得Lv1】


 順調とは言いがたいが、最初になやんでいた時よりマシだ。それじゃあ、【調合】と【合成】をばしていくとするか。

 ずは、【調合】の基本セットを取り出し、並べてみる。

 出てきたのは、おわんサイズのにゆうばちと乳棒。加熱用の鉄製の小さな容器とそれを支えるさんきやく、加熱用のなぞの熱源、そして、薬を包むような紙やガラス容器が収められた箱だ。

 ガラス容器は、取り出すと新しい容器が生まれ、手に持っている容器に何も入れないままだとしようめつし、箱の中にき出るようにじゆうされる。

「こういう所は、ゲームだよな。まさにファンタジーだ」

 何とも中学生の化学キットのような道具で、ファンタジー定番の薬草をせんじたり、たりしていく。こうりやくサイトでも手作業で可能とのことでじつせんしてみた。

 そうして出来たのが初心者ポーション。タダから一本5Gのアイテムになりました。

 薬草一つから初心者ポーションが出来るわけだ。【錬金】より変換率が良い。流石さすがは、生産系。

 まぁ、錬金も分類的には、生産なのだろうけど。

 その後、スキル欄に変化が生まれた。初心者ポーションの【レシピ】が追加されたのだ。

 俺は、その【レシピ】をせんたくし、初心者ポーションを作成する。

 物質へんかんと同じような画面選択をして実行すると、MPを消費して、初心者ポーションが一個出来上がる。なるほど、必ずりよくセンスが必要になるのは、こういった理由だったのか。他にもレシピ一覧として、薬石や大きな毛皮、骨粉など今まで生産した物が分類されている。

【調合】を始めとした生産系センスの法則は、アイテムを一度自作すると、レシピが自動で追加されることだ。そして、次回よりスキルによる作成ができる。

 錬金も同じということは、どの生産職にも通じるものかもしれない。試しに、いくつかの初心者ポーションを作成する際、少し手順を変えてやってみた。どれも名前は、初心者ポーションだが、回復量に多少の差が出た。

 そして、レシピの内容がこうしんされており、先ほど作った中で一番回復量の多いポーションに更新されていた。

「つまり、スキルによる画一的な大量生産か、手作業による良品質か」

 大体の利点はそんなところだろう。初心者ポーションを十個作った時、調合のセンスレベルが上がった。センスの上げ方は分かったことだし、次は【合成】だ。

 合成のセンスは、素材と素材で新たな素材、アイテムとアイテムで新たなアイテムを作り出すセンス。こちらは、最初からMPを消費して合成するらしい。とにかく試してみよう。

 取り出した合成キットは、ほうじんの描かれたシートで左右に物を置くための場所が指定されているらしい。

「先ずは、定番のポーション同士のけ合わせだな」

 先ほど作った初心者ポーションを指定された位置に置き、発動。

 いつしゆん、白い光を発した後、二つのポーションが消え、なんか……どす黒いポーションが出来上がっていた。

「な、何だこれ? せ、成功か?」

 いや、見た目的に失敗だろう。アイテムとして確認したら、毒物だった。HPにけいぞくダメージをあたえる状態異常を引き起こす。

 まあ、何かの役には立つだろう、と思い、それをインベントリにしまう。

「生産失敗か。確か、生産職のレベルが低いと失敗するんだったよな。まあ、経験値入るらしいし、いいかな?」

 そう自分に言い聞かせながら、もう一度初心者ポーションを二つせんたくし、合成する。

 今度は、初心者ポーションよりい緑色のポーション。名前もポーションだ。

 今度は成功、レシピにも追加されている。

 そのまま、合成レベルが2になるまでポーションを合成した。

 ふと、ポーションと初心者ポーションの残量を確認する。

「ミュウとセイ姉ぇといつしよに買った初心者ポーションが丸々残っているな」

 初心者ポーションを買ったのはいいが、【回復】持ちの二人がセンス上げのために率先して回復していたので手つかずだ。その初心者ポーションを錬金で上位変換した場合、どうなるのか。一種の実験的な意味で行う。

 変換した結果──残念なことに、また毒物になってしまった。錬金の失敗。

「……50Gが毒物になった」

 このしゆんかん【錬金】センスのレベルが2に上がった。ほう系センスも一つずつ上がり、悪くはない。ただ、出費が痛い、痛すぎる。だが、気になったことをちゆうほうしない。

 りずに再度、錬金した結果──ポーションが出来上がった。何とも無気力感が……。

「あー、にした。全部合成でポーションに変えてれば、合成センスが上がったのに」

 しかし、確認したのだが、【合成】で作ったポーションと【錬金】で作ったポーションには、性能差が存在した。

 合成ポーションは、【レシピ】のデフォルトに近いが、錬金ポーションは、デフォルトより一割回復量が多い。つまり、錬金製の方が品質的に上と言える。

 錬金>合成>手作り調合>スキル作成の様な感じで性能があるようだ。ただし、効率で言えば、その逆だ。また、手作り調合もきわめれば、二つを容易に抜きりそうだ。

「またい具合にバランス取っているな。それにしても、とんでもないセンス取ったな」

 もちろん、悪い意味でだ。普通に考えれば、この生産センスの効率の悪さからされる【錬金】、効率の良さのある【合成】と【調合】の三つでセンスの装備わくあつぱくする俺自身がアンバランスなのだ。だが今の目的は、センスのレベル上げだ。

 薬草は、おもに【調合】センスに。その他アイテムは【錬金】と【合成】に使うことにした。夕飯の準備の時間まで採集と生産センスのレベル上げをかえした結果、分かったことがある。

 石ころは、錬金ではどうやっても選択できなかった。結論を言うと、石というめいしようかんていアイテムということだ。そして、キノコや薬草や野草は、かんそうなどの工程をて作ると、素材の名前の前に『乾燥』と付く。そして、効果が二倍になったのは大きい。

 ただ、キノコは食材アイテムなので、乾燥させるだけでそれ以上の変化は望めなかった。

 最後に、木の枝と鳥の羽根の組み合わせて合成すると、鉄の矢の下位かん──木の矢になった。

 おどろいたことに、これは、枝一本から二本出来た。今六十本二セットほど矢があり、矢の心配がなくなり安心した。

 現在のセンスは──


 所持SP0

【弓Lv3】【鷹の目Lv7】【魔法才能Lv6】【魔力Lv9】【錬金Lv2】【付加Lv6】【調教Lv1】【合成Lv4】【調合Lv4】【生産の心得Lv3】


 魔力があと少しで10になりそうだ。かくてきどのセンスも最初は上がりやすいようで、修正がきやすくて助かる。まずは、【調教】をひかえにして新しいセンスを取得しよう。

 時間もそろそろよさそうだ。再開は、現在のセーフティーエリアにへんこうして、ログアウトする。


    ●


 ゲームの世界では、夕暮れ時という空だったが、真夏は、日が高くまだまだ明るい。

 それでも夜の六時半ともなれば、少しはすずしい風がき込む。そうめんで涼しく感じるが、さらに別の要因で場がこごえるように寒い。

 時間になり、美羽も自室から出てきた。

「……」

 夕飯の席、無言で素麵をすする美羽。視線はするどく、ふんが悪い。

「ど、どうした?」

「別に……」

 だんは元気な妹だが、時折げんになる時がある。まあ、思春期真っただ中の中学三年生なのだし、と思う時があるが、今日の不機嫌には、思い当たる節がある。

 ──俺のセンス構成だ。

「その、すまなかった」

「……何で謝るの?」

「その、ゲームの事で……お手数掛けました」

 なんか知らないが、とにかく謝っておけ、それが問題をかいする方法だ。

 美羽は、大きく息を吸い、盛大にいきをつく。

「なんか、ごめんね。お兄ちゃん」

「おお、今は兄と呼んでくれるんだな」

「いや、そういうところに反応しないで」

 むぅ、妹にお姉ちゃんと呼ばれた心の傷は意外と深かったようだ。

ちがうの。ゲームでβベータ版の時からやっていた人が新しい人を連れてきたんだけど、その人と折り合いが悪くて……気分悪くしたらごめんね」

「そうだったのか。まあ、くらいは聞くぞ」

「うん。とにかく目立ちたがり屋で、私たちが回復している最中なのに、ずんずん進んで、一人死にもどり。戻ってきたら、私たちのサポートが悪いだのってひどいこと言われたから、ちょっとね」

「あー、そっか。それで……。大変だったな」

「逆にその人が居ない方が、たんさくもサクサク進んだからね。流石に、死んだ後にパーティーに入ろうとは思わないだけありがたいよ」

「それってゲームで死ぬとどうなるんだ?」

「デス・ペナルティーが発生するよ。デスペナの効果は、一時間のステータスの減少だね」

「それは痛いな。けど、俺は生産職だし、死んだ時間はアイテムでも作れば無駄がないな」

 あっ、もう方向性決めたんだ、と言われた。

せんとうできないからな。今は、生産系のセンスを上げている最中」

「でも残念だな。ユンお姉ちゃん、美人だからパーティーに入れてまんしたかったのに」

かんべんしてくれ。まぁ、戦闘に関しては、アイテム収集のためにMOBりは一人でするし、弓センスも多少は上げておきたいからな」

「ふーん。ユンはソロで進めるんだ」

 当分は地道に採取とMOB狩りに専念しよう。こんな遠回りな行動に、他人を連れ回せない。話題を変える意味で別の質問を投げかける。

「美羽の今のセンスってどんな感じなんだ?」

「うーん、【けんLv12】【よろいLv11】【こうげきじようしようLv6】【ぼうぎよ力上昇Lv6】【気合いLv4】【魔法才能Lv10】【魔力Lv14】【魔力回復Lv7】【光属性Lv5】【回復魔法Lv7】かな?」

「結構成長しているな。もうSPが四つもまっているし」

「お姉ちゃんも大体こんな感じだね。あとは、お兄ちゃんも【攻撃力上昇】とかのセンスを付ければ、弓矢の消費がおさえられるんじゃないかな? 早くセンスのそうえした方がいいんじゃない?」

「それはおいおいやることだな。今は、西の林で自給自足している」

「まぁ、私は、お兄ちゃんとぼうけんしたいんだから、早く戦えるレベルまで上げてよね」

 そう美羽に注文されるが、総取り替えして戦えるレベルまで上げるのと、今のセンスを戦えるレベルまできたえるの、どっちが早いだろうか。

 うーん。普段はできる兄としてっているはずの俺だが、ゲームになるとたじたじだ。

 夕食の後は、美羽がに入り、俺はその間食器の片づけや帰ってきた両親の食事の用意。俺も風呂にのんびりと入って、再び【OSO】にログインした。


 再開は、林のセーフティーエリアだったので、そこからのスタートだった。

 ゲームの中も夜で真っ暗。この場所は、たきがされているためにほのかな明るさが保たれているが、少し遠くをながめても真っ暗、時折飛び立つこうもりらしきかげがチラつく程度だ。

 うーん、夜の空ってれいだな。天の川っぽい星々が良く見える。とぼうぜんと空を眺めていた。意識すれば、【たかの目】のセンスで天体望遠鏡のようにズームアップできる。

【鷹の目】が成長しているようだが、今はこのゲームの中の自然を楽しんでいる。

 三十分程ぼけっとしてセンスを確認した。【鷹の目】がレベル10になっていた。やったと喜ぶ思いと、【りよく】が最初にレベル10になるという予想を裏切り、まさか【鷹の目】が最初に10レベルにとうたつするとは。

 それに、心なしか周囲を見回す時、くらやみの中をさっきより遠く見通せる気がした。

 俺は、さっさと新しいセンスを取得することにした。

 初期のセンスと言っても数は豊富だ。もう方向性は生産職寄りになっているので、生産職でもいいかもしれないと考えながら生産系センスを探す。

】【さいほう】【木工】と続いて、最後に見つけたのは──【細工】だ。

【細工】は、メインなあつかいというよりは、【鍛冶】センスと共通するこうもくがあるためにオマケ扱いが多い。効果は、アクセサリーの作成センスなのだ。戦闘をいろどる武器防具を作る【鍛冶】、かわよろいや魔法職の軽装防具作成の【裁縫】、つえや弓の【木工】とは異なり、アクセサリーは、あくまで補助的な位置づけだ。これはもう、初期の方針──サポートにてつするすき産業的ではないか、とそつけつ。良い物を選んだ、という気分だ。

 それにしても、センスとは奥が深いと思う。

【鷹の目】は、ただの遠視センスと思っていたが、暗視性能もある。1レベルにつき1メートル程度視界が広くなる。弓センスのレベル補正のみの場合、射程はかなり短い。

 そういえば、矢があるし、敵もいないことだし、弓の練習をしてようと考えた。

 木の矢を取り出し、弓をしぼる。ひっと放つ矢は、見えるはんやみの中に消える。使い捨ての矢をどんどんと闇の中に放り込んでいく。弓のセンスは弓を射ることで成長し、敵を射ることで成長率がじやつかん上昇するのかもしれない。

 一本一本ていねいに弓を射る。弓の練習など今までしたことのない俺は、こうやって反復してプレイヤー自身の命中率を上げるしかない。【鷹の目】は遠視、暗視センスなのでねらった木に当たったのかよくわかる。

 今のところ、命中率は、十本中二本とまだまだだ。

【弓】のセンスも【鷹の目】のセンスも十分にレベルが上がった。気になって、【弓】のスキルを見てみたら、確かに【アーツ】があった。《えんきよしやげき》という安直な名前だ。

 試しに《遠距離射撃》のアーツを使ってみた。

 弓を溜める時間が長くなる代わりに、今までよりも力強い音がひびき、【鷹の目】でも見通せないほど遠くにいつしゆんで行ってしまった。効果の程は、まだ分からない。

「ミュウにぐうだとか、使えないって言われたけど、ちゃんと確認しないとだな。今のも手応えがあった。さて、もういい時間だし、続きは明日あしたにしてもう寝るか」

 明日も同じ生産系をメインに成長させよう、と考えながら、俺はログアウトした。

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