ワタリガラスになったパパ

甘木智彬

0.とりのくに

 爽やかな朝でした。


 カーテンの隙間から、柔らかなおひさまの光が差し込んでいます。夏と秋の境目、暑くはないけれど朝はちょっと肌寒い。そんな季節です。


 すやすやと気持ちよさそうに、女の子がベッドで眠っています。


 髪は金色のくせっ毛で、寝癖もあいまってくるんくるんです。お人形さんのようなかわいらしい女の子でした。


 小さなこども部屋で、ふわふわのおふとんに包まれて、むにゃむにゃと夢の中。窓の外では小鳥たちが楽しそうにチュンチュンと鳴いていますが、まだ目を覚ます気配はありません。


 ところが、コツコツ、コツコツという、かたい音がひびきます。


 コツコツ、コツコツ、コツン。


 何かが、窓ガラスを叩いています。


 女の子はそれでもぐうぐう眠っていましたが、いつまでたっても鳴り止みません。


「……んぅ~? なぁに?」


 そして、さすがの女の子も、音のせいで目を覚ましました。ねぼけまなこでベッドから起き上がり、カーテンを開けます。


 すると、まどの向こうには――


「やあ、シャル! おはよう!」


 一羽のカラスが止まっていました。


 それも、ただのカラスではありません。首にはネクタイをしめ、小さなカバンを持ち、シルクハットまでかぶった、おしゃれなカラスです。


「ああーっ!」


 女の子は、眠気もふきとんで、ぱぁっと明るい笑顔になりました。


「パパぁ! おかえりなさい!!」


 そう。この黒いカラスは、『シャル』とよばれた女の子の、お父さんなのです。


 ここは、『とりのくに』。


 人が鳥になってしまう、ふしぎな国です。


 これは、『とりのくに』に住む女の子・シャルと、ワタリガラスになったパパの物語。


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