最終話 「隣で眠るあなたよどうか生きて」
隣で眠るあなたよどうか生きていてください
僕は一人ではままならない人間です
社会生活とやらのある程度は
それとなく出来ているつもりではいますが
それでもしょっちゅう苦しくなって
朝が来るたびに
早く今日が終われば良いのにと
夜が来るのを必死に願ってしまう人間です
それでもやらなきゃいけないことを
なんだかんだでやり越せてしまうのだと
分かっているくらいには
こんな生活や性格にも慣れたもので
やらなきゃいけないと
自分自身の首を絞めている事に対しても
それなりの自信や誇り、大切にしたいものも出来て
だからこそ手放す事なんて出来なくて
苦しい逃げたいなんて言いながらも
結局はその日をやり越して
やがて夜が来て
今日も終わったと安堵して
気を緩めて気分良く
歩き慣れた道を夜に触れながら歩いて帰るのです
あなたが過ごし、僕が当たり前のように帰って良いのだと思える家へ
僕の帰りを待ってくれているあなたのもとへ
悲しみを
寂しさを
不安を
負担を
抱かせたくないが為に
今日も帰ろうと思うのです
いつも通りに
当たり前のように
悲しみを
寂しさを
不安を
負担を
抱かせたくないが為に
今日も生きようと思うのです
いつも通りに
当たり前のように
あなたが隣で眠る
僕はその寝息を確かめて
あなたが生きていると安堵するのです
時々とても静かに眠るものだから
もしかしたら、と不安になるのです
怖くなるのです
今あなたがいなくなったら、という考えが
一瞬頭を走り抜けるだけでも
とても怖くなってしまうのです
だから本当に息をしているのか
じっと見つめて確かめるのです
そしてあぁ大丈夫だ、と安堵するのです
その度に僕は
僕は一人ではままならない人間なのだと
痛感するのです
そして
あなたが今も生きてくれていて良かったと
強く思うのです
あなたが
どうかずっと元気でいてくださいと願うから
僕はそうしようと思うのです
でもたまに
この日常から切り離されたいが為に
いっそのこと倒れてしまいたいと
願ってしまうこともあるのです
微々たるものだけれど背負うものも出来て
投げ出したくても投げ出せないと
逃げ出したくても逃げ出せないと
朝が来るのを恐れ夜の中に蹲って
空に浮かぶ月に縋るように
ひとり泣いてしまう夜もあるのです
だからずっと元気でいるということが
ひとつの課題かのように
自分自身の首を締めて苦しくなってしまうのです
そんな僕はやはり弱い人間なのかもしれません
それでも
それでも僕はあなたに
悲しみを
寂しさを
不安を
負担を
抱かせたくないが為に
今日も元気でいようと思うのです
笑っていようと思うのです
生きていようと思うのです
いつも通りに
当たり前のように
あなたがいるから
僕は生きようと思うのかもしれません
生きなければと思うのかもしれません
それが苦しくなる時もありますが
それでも
僕が今日も生きているのはあなたのお陰です
僕は一人ではままならない人間で
弱い人間かもしれません
生きているというより
生かされているのかもしれません
そんな僕の日々にも
光が差すこともありますし
大好きな音楽や言葉に救われたり心が躍り高鳴ることもありますし
なんだかんだで笑って過ごせる日もそれなりにあるのです
生きていて良かったと思える瞬間もそれなりにあるのです
そんな僕だからあなたの
悲しみを喜びに
寂しさを温みに
不安を安堵に
負担を楽しさに
変えることができるかな
いやきっと変えてみせるから
隣で眠るあなたよどうか生きていて
隣で眠るあなたよどうか生きていて
朝が来たら一緒に海へ散歩に出掛けよう
あなたの寝息の音色を聴きながらそう思って眠った
詩集「隣で眠るあなたよどうか生きて」 雨音 @ayuction
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