予言者ミリアムの試行錯誤

森山智仁

1 ミリアムの家

【11「決戦」から戻ってきた場合、ステータス表を初期化する】


「くそ、また負けたのか」

 薄汚れた天井を見て、ミリアムは苦々しげにつぶやいた。


 今夜、ドラゴンが襲ってくる。ルルドの都は一夜にして焼け落ちる。そのことをミリアムだけが知っている。

(手遅れでは?)

 ドラゴンが来るとの啓示を受けた時、彼女が最初に思ったのがそれだった。

 備える時間が短過ぎる。できれば一月前、せめて一週間前に知りたかった。災害級の怪物相手に、一日しかないとはあんまりだ。

(無理がある)

 しかし、両親の墓があるこの都を捨てて逃げるわけにはいかない。

 ミリアムは父の形見である秘蔵の呪符を使い、自らに時間遡行の呪いをかけた。

「ドラゴンを退けない限り、命が尽きたら時を遡り、当日の朝に戻る」

 一見すると無敵に見えかねないが、呪いは呪いである。何しろ、もし勝ち筋がなければ永遠に「死の一日」を繰り返すことになるのだから。


(今度こそ正しい手順を踏まなければ……そんなものがあれば、の話だが)

 弱気になりかけた己を、自分の声で叱咤する。

「しっかりしろ!」

 そして、小さなベッドから飛び起き、母の形見である桜色のリボンで長い金髪を結えた。

 これまでの挑戦で、国王軍の協力を得ることは不可能と結論が出ている。どんな手を使っても信じてもらえなかった。かくなる上は、自らの手で撃退するしかない。

 着古した黒のローブをまとい、最初の行動を考える。


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