公務員という仮面の中に隠す、ひとりの人間としての素顔

区役所に勤める若き職員さんたちの日常を、様々な課を舞台に一話完結のオムニバスで綴られる作品です。
いわゆるお仕事小説ではあるのですが、その中身は味わい深く色付けされたノンフィクションのようです。各課の職員と、彼らが向かい合うさまざまな住民とのエピソードには心の襞が見えるようなやりとりがあり、色んな状況に置かれた人間の心理を細やかに描き出してみせます。
ひとりひとりの住民の人生に寄り添い、耳を貸すというのは容易な仕事ではないでしょう。日常の出来事のなかで自分の仕事に迷い、悩み、それでも人に向かい合う若い職員たち。
公務員という仮面をつけながらも、彼らにはひとりの人間としての素顔がある。その部分を垣間見られるのがこの作品の魅力だと思います。
読んでいるうちに彼らを応援したくなり、また読んだ後はこちらが背中を押してもらった気がする、そんな味わいのある物語です。

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