第6話

【第6章~彼女との出会い】

2019年4月27日、平成時代も終わり、新しい時代がやってくる!世の中は、そんな空気につつまれていた。


私、盛山ユキオは高井物産で事務系の仕事をしている契約社員。31歳、独身だ。正社員であれば年収はすでに700万円は超えているだろう。だが、このスペックでは当然、恋愛や婚活市場では女性から敬遠される。おまけに実家暮らしだ。


そんな私がこの日、銀座というスペックの高い街にやってきたのは大学時代の友人Aと高スペック街コンに参加するためだった。


参加条件は、女性は未婚の20代~30代となっている。しかし、一方、男性の参加条件は…


「未婚の方で、下記の条件のいずれかに該当する方。①医者、弁護士、公認会計士 ②公務員 ③大企業に勤務している方 ④年収600万円以上の方 ※非正規社員の方は参加不可」


これを見た瞬間、私は「俺、参加条件満たしてないじゃん(笑)しかも、身分証明書の提示が必要なのかよ」と思った。


しかし、私は気づいた。「あれ、でも身分証明書に雇用形態なんて書いてなくね?ワンチャンいけるかも!」と思ってしまったのだ。人生一度は魔が差すものである。


一方で、大学時代の友人Aは本村自動車技術研究所の資材部で勤務するサラリーマン。この参加条件を満たしていた。彼は飾らない性格と実直な仕事に対する姿勢が魅力的な好青年で、爽やかな髪型に知的な雰囲気を醸し出すメガネが特徴的だった。年収も同世代の平均をかなり上回っているため、婚活市場で彼を逃した女性は永遠に後悔するだろう。


私から見たAはそれくらい魅力があった。ただし、唯一の欠点があるとするならば、それは彼が女性に対してかなり奥手だということくらいだろう。


銀座線の改札口で私たちは待合せし、会場に向かった。私は銀座という街を歩くことを想定し、しかるべき服装をしてきていた。ジャケットにシャツ、ネクタイ。どこから見ても非正規社員には見えないだろう。


GUCCIやCOACHなどブランド物の店舗が並ぶお洒落な街を歩きながら、私はAに身なりを入念にチェックしてもらっていた。


Aは「ユキオ、なかなかいい感じで決まってるじゃないか。これなら商社に勤務するエリートサラリーマンと言ってもバレないぜ」と言った。


完璧だ。そして、今回は男性の参加費用が7000円なのに対して、女性は6000円。


街コンで女性が支払う費用としては割高だ。その分、本気で相手を探しにくるのだろう。Aが言うには、このタイプの街コンにはサクラはほとんど来ないそうだ。


会場に着くとすでに人がたくさん集まっていた。人数は男女合わせて60人程が参加する予定だった。


想定した通り、受付で職業が分かる身分証明書の提示を求められたが、難なく通過することができた。


私は「あれ、俺ってもしかして高スペック男子のふりをする演技、なかなか才能あるんじゃないか?実力派俳優も夢じゃないかもな」と思った。


実際、私は歴史が好きだったので、大河ドラマを子ども時代に見ていたが、いつしか俳優になって歴史上の人物を演じてみたいと思っていた時期もあったのだ。そのため、中学時代には文化祭で南アフリカで黒人差別と戦い、後に大統領となったネルソンマンデラを主人公にした演劇に出させてもらったことがある。


その時は黒人神父役で差別と戦う人々を鼓舞するシーンで登場したのだが、今回、私は非正規社員という身分でありながら高スペック男子を演じることで、格差社会で苦しむ人々を鼓舞したいと思ったのだ。


パーティーが始まると、早速、私たちは女性3人組が座る席に案内され、自己紹介をした。


その時の私のプロフィールは前回と同じく高井物産のエネルギー事業部に勤務する正社員という設定だ。


友人Aの勤める本村技研も高井物産と同じくらい有名企業で、当然、婚活市場では知らない女性はいないだろう。


女性たちからは受けは良かった。


パーティーは10分交代でローテーションをして、ほぼ全員の女性と会話することができた。


そして、私はその中から早川希という女性とマッチングをして連絡先を交換し、LINEのやりとりをすることになった。


彼女は爽やかな笑顔が印象的な女性で、明るい性格だった。


そして、どうやら彼女は私に対して好印象を持っていたようだった。


「実験は成功するかもな」と私は内心思った。


その後の展開は次回以降、記す。

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