第2話

【第2章~時代背景~】

元号が令和となった今からみると1990年代の日本における社会変動は、明治維新や戦後の民主化に匹敵するほどのものだったように思える。


社会規範や経済構造は大きく変化し、冷戦終結、ソ連の崩壊などによるグローバル化、アジア通貨危機などが立て続けに起こった。


国内ではバブル崩壊とそれに続く就職氷河期、長期にわたるデフレ…社会変動というダイナミズムにさらされた当時の日本経済は閉塞感につつまれていた。


この閉塞感は歴代の内閣の様々な努力にも関わらず、元号が令和2年の現在も払拭しきれていないように感じる。


巨大な時代のうねりの中で、我々の生活はどのような影響を受けたのだろうか。


1995年に日経連が発表した「新時代の日本的経営」では、長期雇用の中核社員の他に、非正規社員を増やしていくことが明記されていた。この非正規社員はいうまでもなく、その時々の景気に応じて調整弁とされる使い捨てだ。


高度成長期、日本人のほとんどが中流意識を持つことができたが、80年代以降、使い捨てにされる非正規社員は増え続け、就職氷河期世代以降は若者にも非正規という働き方は広がっていった。


非正規社員が増加していった背景には様々な要因が複雑に絡まりあっている。その一つはグローバリゼーションだ。冷戦終結後、社会主義諸国が市場経済を導入したため、グローバリゼーションの波は日本にも押し寄せ、日本国内に発展途上国で生産される安い物が流入するようになってきた。海外の安い製品に加え、中国などの比較的、賃金の安い国に日本企業の工場が次々に移転していき、国内では単純労働者が正社員から非正規社員に置き換わっていったのだ。非正規社員なら人件費が安いので、その分、安い製品を作ることができるからだ。


グローバリゼーションの他にも非正規社員が増加した要因がある。それは産業構造の変化である。日本国内では1990年代以降、産業構造の中心が製造業からサービス業に移っていった。製造業では熟練の技術者が必要とされ長期雇用と非常に相性が良かったため、末端のブルーカラーにまで長期雇用が浸透していった。しかし、サービス業において、末端の労働者に必要とされる能力はマニュアル通りに動く単純な労働だ。そのため、一部の中核的な業務をこなす社員以外は非正規社員でまかなうことが多い。そのため、産業構造が変化していくにつれて非正規社員の割合は増加していったのである。


これまでは、非正規という働き方は主に専業主婦や学生がするものだという認識が強く、大きな問題にはなってこなかった。しかし、若年男性の間にも非正規社員が増え続けるなかで、未婚率は上昇し、次第に「少子高齢化」というワードは日常的に使われるようになっていき、問題として認識されるようになってきた。未婚率の上昇は結婚適齢期の男性に非正規という働き方が広がったことにより、これらの男性が婚活市場で女性から敬遠されてきたからだと思われる。女性の多くが男性の年収や雇用形態を意識するからだ。


私は、1987年に生れだ。つまり、昭和生れの平成育ち。


なので、高度成長期もバブル経済も知らない。


私は、記憶が有る限り、デフレの中で育ち、中学や高校時代に就職氷河期世代の方たちの惨状を見てきた。


しかし、大学では団塊世代が現役からリタイアし始めるため、就職活動は売り手市場になるといわれたので、内心、自分の未来に期待感を抱いていた。大学を卒業して就職し、結婚して子育てし、いつかはマイホームを建てる。それが、普通の生き方で、自分もそんな人生を歩むと思っていた。そんな最中、大学3年生のときにリーマンショックが直撃したのだ。


そんな社会情勢の中で私は大学院に進学し、学部時代から研究していた仏教史を研究した。大学院卒業した後は高井物産という総合商社で非正規社員として勤務している。


長々となったが、以上が私が行った実験の時代背景である。

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