第8話
【第8章~初デートの約束~】
私は、目を覚ますとスマホを開いた。
LINEを起動させると先日、連絡先を交換した早川希からメッセージが届いていた。そこには次のようなメッセージが届けられていた。
「連絡ありがとうございます!こちらこそ、よろしくお願いします!たくさんの人がいる中で、どうして私を選んでくれたんですか?」
それを見た私は実験が成功する日も近いかもなと思い、胸が高鳴った。私はすぐに次のように返信した。
「本当はこういうことは直接言いたかったんですけど、希さんは可愛くて、笑顔が素敵だと思ったからです。何か率直に言うのは照れますね(笑)」
数分後に希から次のように返信があった。
「ちょっと照れますが、率直に言ってくれて嬉しいです。私はユキオさんは優しそうで、オーラがあって、すごくカッコいいなと思ったから連絡させていただきました。もし良かったら、今度、食事に行きませんか?」
このようなやりとりを行い、私は早川希とデートすることになったのである。場所は東京・丸の内で、希が洋食を食べたいと言ったので、美味しそうな場所を探すことになった。
2020年5月1日、元号は平成から令和に変わった。元号が変わる瞬間、各地に人が集まり、世間はお祝いムードに包まれていた。
新しい時代が始まった。令和という時代を通じて、平成時代は歴史として検証され、評価されていくだろう。私たちは、その時代の流れの中で翻弄されながら生きていくしたないのか?あるいは、歴史の流れを受け入れつつも、その中で何ができるかを模索しながら生きていくべきなのか。
一つ確実に言えることがあるとしたら、平成は格差や貧困が再発見され、人々の間に認識が広められていった歴史であると考えることができる。
社会構造は大きな転換期を迎え、旧来の制度は時代に合わない部分も出てきた。そして、労働者に占める非正規社員の割合は増加していき、相対的貧困率は増えていった。
私は、その非正規社員の一員である。
元号が令和に変わって数日後、私は大学時代の部活の仲間の今村正幸と関取・J・真雄と飲みに行った。
私は軽音楽部でバンドを組んでいたが、彼らは同じバンドの仲間だった。
今村は現在、結婚していて2人の子どもを育てている。普段は外資系の企業でシステムエンジニアをしている。
関取は大学時代はプータローで、バイトで稼いだお金のほとんどをギャンブルに使ってしまう絵に描いたようなクズ野郎だった。社会人となった現在では以前ほどではないにしろ時々パチンコに行っているらしい。普段は広告系の会社で営業をしている。
渋谷の居酒屋で新元号になってからの初めての飲み会ということでその日は楽しく盛り上がった。
関取は「ユキオは最近、街コンに行ったんだっけ?どうだったの?」と言った。
私は「1人良い感じでLINEのやりとりを続けてて、今度、丸の内で食事をする約束をしたよ」と答えた。
そして「でも、俺は正直こういうの慣れてないからな」と続けて言った。
今村は「初デートするのか?そしたらさ、何か手土産とか渡したら?手軽に食べられるお菓子とかいいんじゃない?食事する場所はゴールデンウィークだから予約はきちんとしておいた方がいいぜ」と言った。
私は手土産として何かお菓子を渡すのは良いなと思い、その日の帰りに母の日のプレゼントと一緒にチョコレートを購入した。
初デートの場所は東京・丸の内にあるスペイン料理のお店を予約した。
そして、当日…
希とは東京駅に11時30分に待ち合わせした。
希は時間通りにやって来た。私は希に手を振った。笑顔が可愛かった。切れ長の目が特徴的で長いストレートに下ろした黒髪がそよ風に靡いて美しかった。
爽やかに着こなした白色のロングスカートは初夏の雲一つない快晴の青空の下では涼しげに感じられた。
希は「ごめんなさい、お待たせしちゃった?」と私に聞いた。
私は「いや、大丈夫ですよ。今着いたばかりなので。じゃあ、早速行きましょうか!」と行った。
予約したスペイン料理店はランチコースを予約し、2時間制だった。
スタッフに案内された席に希と向き合う形で座った。改めて向き合うと照れくさかった。そして、自分が実験を行っているのだという罪悪感を感じた。もしかしたら、私は実験など忘れて、彼女のことを好きになってしまうのではないかと思い葛藤した。
希はおしゃべりが好きなごく普通のOLだった。実家は横浜にあり、家族は両親と妹で、妹は地方の大学に通っているため、現在は3人で暮らしていると話していた。
仕事は「帝国証券」という証券会社に勤務していて一般職だと言っていた。
父親は東京大学経済学部から同大学院博士過程で博士号を取得し、現在は同大学院教授。専門は労働経済学で、小泉政権期に規制緩和の推進プロジェクトのメンバーとして労働者派遣法の改正などに着手した著名な学者だ。正直、エリート一家という印象であり、私は実験ということでなければ身を引いていたかもしれない。
さらに、父親が規制緩和や労働者派遣法改正に関わったことが若干心に気にかかった。
とはいえ会話は思った以上に弾み、お互いの趣味や仕事、休みの日の過ごし方などを話した。
スペイン料理店を出た後、希は次の日の仕事が早いということで、カフェで軽くお茶して帰ることにした。
帰り際に私は「これ、もし良かったら受け取ってください。」と言って、お菓子を渡した。
「母の日のプレゼントを選んでた時にすごく美味しそうだなと思って一緒に買ってきました」と続けて言った。
希は笑顔で受け取ってくれた。そして、1週間後に再び食事をする約束をして、その日は解散した。
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