総務課コピー係の最強勇者
スズヤギ
第1話 コピー係からの冒険
「ふぁー」
大きな欠伸をするのは、社会人3年目【青空 夏生(あおぞら なつき)24歳独身男性 恋人なし 趣味 ゲーム ラノベ】
またつまらない1週間の始まりですか。
土日は結局いつものように家に引きこもって、勇者を育ててしまいました。
もちろんゲーム内の話である。
夏生は有名ゲーム会社【フェニックス】の総務課に勤務している。
大好きなゲーム会社に入社出来たものの、積極性に欠けおっとりした性格もあって希望のエンジニア職やプロジェクトチームではなく女子社員ばかりの総務課に配属された。
一緒に入社した同期は2年目にはすでにエンジニア職につくものや、プロジェクトを任されてバリバリ働いている。
夏生は毎日コピーとシュレッダーをかけるだけの仕事にお世辞にも楽しいとは思えなかった。
その為だろうか。週末の休みになるとゲーム内で冒険をして現実逃避していたのだ。
昨日の夜も遅くまで冒険していた為に、寝不足気味である。
いつものように頼まれた書類のコピーをしていると寝ぼけているためか原稿をセットせずにスタートボタンを押してしまった。
「しまった」
作動しているコピー機を急いで開けると、辺り一面にカメラのフラッシュのような光が辺り一面を包み込む。
そして次の瞬間!!!!!!!
1階のオフィスにいた社員約100人が、呆然としながら見知らぬ景色の中で立っていた。
そこは映画やアニメそしてゲームに出てくるようなまさに大自然の真っ只中だった。
まるで今にも恐竜が出て来そうな草原が広がる。そして森や木が生い茂り遠くには滝や川が流れている。
映画ア◯ターのような景色だ。
よく見ると少し遠くではあるが壁に囲まれた街らしき景色が見える。
「なんだこれ?」
「夢?夢だよね?」
「どこだよここ」
「なんだこの格好は」
当たり前ではあるがみんな大混乱である。
パソコンを入力していた者、電話応対していた者、コピーをしていた者……
あまりにも一瞬過ぎて頭が追いつかないのだ。
その中で夏生だけは違っていた。
『おーーー!まさにゲームの世界みたい。ラノベだと異世界に転送された感じでしょうか。ステータスは見れるタイプかな』
憧れの異世界へ転送され生き生きとしている。
ステータスと頭で考えるとすぐに目の前にディズプレイのような物が表示された。
【 名 前 】青空 夏生
【 レベル 】 1
【 攻撃力 】 1
【 防御力 】 1
【 魔 力 】 1
【 素早さ 】 1
【 スキル 】 なし
【ユニークスキル】コピー シュレッダー
えーー!!!
レベルが1なのはわかるけど、他のステータスも軒並み1って……。すぐやられてしまいそう。
それにユニークスキル?コピーとシュレッダー?
異世界でも雑用係のスキルはあんまりですよ。
しかも使い方がわからないし。
どうやら他の社員?冒険者?もようやく観念したらしく重役のみなさんが指示を出している。
ちなみに現在の服装は男女の違いはあるものの、俗にいう冒険者の格好をしており、いわゆる旅人の服である。
僕はせっかくの異世界生活なら自由に生きていきたいので、当然のように会社?の緊急会議?をする集団から離れて1人で街の方へワクワクしながら歩き出していく。
「夏生くん!ひとりでどこへ行くの?危ないよ」
名前を呼ばれ後ろを振り向いた先には、同じ総務課にいた同期入社の女の子【上條 彩月(かみじょう さつき)】が不安そうな顔をして立っていた。
上條彩月は社内でも1、2を争うほどの美少女だ。
彼女とはたまたま入社試験の面接の時に同じグループで席が隣合わせになったのがきっかけで友達になった。
最初の配属先は秘書課だったはずなのに、入社2日目には総務課にやってきて社内でも話題になったものの理由は誰も知らなかった。
「街の方へ行ってみようかと思いまして。それに今夜の宿も確保しなくてはいけませんし、その為にはどんな通貨が使われお金の稼ぎ方も含めて情報収集しなくては。それに僕のステータスがあまりに低すぎるので、ここでモンスターにでも襲われたらすぐ死んでしまいます」
「モ、モンスター?脅かさないでよー。それより部長達が集まれって」
「僕はみなさんと別行動しますので伝えておいてください。みなさんにも早くここから離れるよう言ってあげてくださいね」
ようやく出発しようとすると部長と主任がやって来た。
早く集まれと怒られたけど、上條さんに伝えた通りの内容を話すと軽く失笑されてしまった。
必死に説得しても結果は同じだった。
「そんなに単独行動したいなら勝手にしろ。お前は首だ」
「わかりました。今までお世話になりました。それではお気をつけて」
これ以上留まるのはほんとに危険だと思うので足早に街へと向かう。
急げば10分くらいで街に着くだろうか。
ちょうど半分くらい歩いた時だった。
「夏生くん待ってー!」
遠くから聞こえる声の先を目を細めて見ると、上條さんが一生懸命走ってやってくる。
「はぁはぁ。夏生くん歩くの早過ぎだよ」
「上條さんいったいどうしたの?」
「やっぱり夏生くんの言う事を信じて私も会社辞めてきちゃった。そもそも会社はもうないけど」
走ってきたので息を切らし汗をかきながらも笑って答える。
「さっきはみんなと残るって言ってごめんなさい。大勢の方が安心かなと思って……。でも夏生くんがいなくなったら不安になってきて……ひとりよりふたりの方がいいでしょ?」
「すぐ来てくれて良かったです。僕みたいなオタクで頼りないと思いますがふたりで頑張りましょう。よろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
握手をしたその時!!!
僕の目の前にメッセージが浮かび上がった。
『ユニークスキル【コピー】を実行しますか?』
「えっ!?」
あまりに突然の事でびっくりしたけど、スキルの使い方がわかるチャンスだと思い[Yes]と答える。
すると僕のステータスの下に上條さんのステータスが現れた。
【 名 前 】上條 彩月
【 レベル 】 5
【 攻撃力 】 3
【 防御力 】 5
【 魔 力 】 20
【 素早さ 】 3
【 スキル 】 初級水魔法(ウォーター) → OK?
初級回復魔法(ヒール)
「え?え?これってなーに?」
「上條さんのステータスです。まだ確認してなかったみたいですね?僕よりレベルも高く魔法が使えますよ」
「ひえーー。どんな世界なの?夏生くん落ち着きすぎだよ」
上條さんに何か言われている気もするけど、その言葉は頭に入って来ない。
初級水魔法「OK」を選択してみた。
『『 スキル【 初級水魔法(ウォーター) 】を取得しました』』
「やった!攻撃手段が手に入った。回復魔法はOK付かないからダメみたいですね」
何か制限があるのかも知れない。このユニークスキル【コピー】は使えるなあ。シュレッダーは未だわからないけど。
「ねえ私の話聞いてる?何か喜んでるみたいだけど」
「はい。上條さんのおかげで少し未来が明るくなりました。ありがとうございます」
「役に立ったのなら良かったー。ただ……仕事でもないし友達なんだからそろそろ敬語はやめてもらいたいな。それと彩月(さつき)でいいよ」
「なるべく善処します。呼び捨てはハードル高いので……」
などと言っているその時だった!!!!
草むらから1匹の青い半透明でブヨブヨのモンスターが現れた!!!
あの有名なモンスター「スライム」である。
「彩月ちゃん僕の後ろへ!」
「きゃーー!」
スライムといえど僕はレベル1なので距離を取る。
「ウォーター!」
手の先から水魔法(ウォーター)がスライム目掛けて飛んで行く。
しかしゲームと現実?は違うらしい。
スライムのボディに水魔法(ウォーター)が当たると、ものの見事に弾かれてしまった。
「えー!属性が近いからダメなのかな?それなら」
辺りに転がっている拳ほどの大きさの石を何個か拾い上げると、スライムの前にまとめて放り投げる。
「彩月ちゃん!石を目掛けて水魔法(ウォーター)って唱えて!」
2人同時に水魔法(ウォーター)を放つ。
そして空中に投げ出された石を巻き込みながら、スライムのボディへ命中すると音もなく消えていった。
【【【 レベルアップ 】】】
「やった!スライムたった1匹でレベルアップ出来ました」
『『スキル【 初級炎魔法(ファイア) 】を取得しました』』
うーん。スライムと戦闘前に覚えておきたかったです。
スライムの消えた辺りを見渡すと何か落ちている。ドロップアイテム【 スライムのカケラ 】を拾い上げるが何に使うのかわからないので街で聞いてみることにしようかな。
それからさらにスライムを5匹倒してレベル3になる。
現在のステータスはこんな感じ。
【 名 前 】青空 夏生
【 レベル 】 3
【 攻撃力 】 12
【 防御力 】 8
【 魔 力 】 10
【 素早さ 】 5
【 スキル 】 初級炎魔法(ファイア)
初級水魔法(ウォーター)
【ユニークスキル】コピー シュレッダー
ステータスも上がってきたので街へと急ぐことにした。
まずはお金を稼がなくては生きていけませんからね。
街の中は外から見るよりもずっと広く感じられた。
たくさんの人が行き交い賑わっているのがわかる。
歩いている人達は見た感じ僕らと変わらない感じだった。
初めての物珍しさにキョロキョロしていると、全力で駆け抜けて行く青年とぶつかってしまった。
「すまん」
ひと言だけ残して風のように通り過ぎていった。
『ユニークスキル【コピー】を実行しますか?』
突然スキルが発動する。どうやら【コピー】は触れた相手に対して発動するようだ。
ただでスキルが手に入るのだから実行する。
すると今回は相手の詳細なステータスはなぜか現れなかったが、驚くべきスキルが……
レアスキル【勇者の力 ★1】
「ええええ!!!!!」
今の方は勇者さま?相当急いでいた気がするけど。
しかしとんでもないスキルを手に入れてしまいました。
この時点で夏生は気付いていなかった。
ほんとの意味でとんでもないスキルは【コピー】だと言うことを……
レアスキルさえもコピーで手に入れることが出来るのなら可能性は無限なのだから。
スキルを確認したい衝動を抑えてまずは宿屋を探そう。宿代の相場とついでに情報収集が出来るかもしれない。
「あのベッドの絵が書いてある看板そうじゃない?」
上條さんが指差す方向を見てみると、確かにベッドの絵が書いてある。
文字はこの世界にはないのだろうか?などと思いながらも、とにかく中に入ってみることにしよう。
建物の中に入ると辺りには、丸いテーブルがいくつかあり冒険者風の方達が食事を取っていたり談笑していたりする。
受付らしきところに行きエメラルドグリーンの髪の色をした少女に話かける。
「いらっしゃいませ!宿屋【夜光(やこう)】へようこそ。ふたりでいいのかな?」
「実はこの街に来たばかりでして宿屋の相場や、ついでにこの街の事なども教えて頂きたいのですが?」
「オッケー!そーゆう事なら全然いいよ!まずは……」
この街の名前は【マーブル】
冒険者の拠点的な存在で、武器や防具、道具など品揃いは豊富らしい。
街の中心には冒険者ギルドが設立され、冒険者登録をするとモンスター討伐やドロップアイテムから物資の調達など様々な依頼を受けることができる。
その報酬としてG(ゴールド)が支払われ、依頼内容によってはゴールドだけでなく名声も手に入れられる。
「……そして最後に宿屋【夜光】では、食事付きの宿泊でお一人さまの料金が1万Gともれなく可愛い受付の【ティナ】と仲良くできるよ」
簡単に説明し終えると、ウインクしながら舌をペロッと出す彼女は可愛いかった。
「ありがとうございます。だいたいの事はわかりました。私達はお金の手持ちがなくまだ宿泊出来ないので、早速ですが冒険者ギルドの場所を教えていただけますか?」
なんだか少し冷めた口調で上條さんが話に割って入ってきた。
いつもの彼女と違い少し怖いです。急にどうしたのかな……
「そうですね。泊まって頂く為に頑張ってもらわないと」
そう言ってティナと上條さんがお互いに笑い合っているけど、なんだか寒気がします。
「部屋は空けておくから頑張ってね〜!」
ティナに見送られて冒険者ギルドに到着するまで、上條さんはご機嫌ななめだ。きっと初めての異世界での生活に不安がいっぱいなのだろう。
「きっとなんとかなるから大丈夫だよ。上條さんは僕が守ってみせ……」
「さーつーき!彩月(さつき)でしょ!ティナにはティナって言ってたくせに……」
あれは外国人と英語で呼び合う時に『さん』を付けないしおかしい気がした為なのですが……
ふてくされてしまったので、呼び捨てにするしかなくなってしまいました。
とにかく僕についてきてくれた彼女は僕が守ってみせる。
その為には武器や防具も手に入れたいな。
街の中心に着くとまるで中世ヨーロッパのホテルのような立派な建物【冒険者ギルド】が建っていた。
冒険者ギルドの中に入って行くと、思ったよりも人の数が少ない。まだ日中の為、恐らく依頼をこなしているか稼ぎに出ているのだろう。
冒険者ギルドの登録には保証人が必要だった。
宿屋【夜光】のティナから貰っていた紹介状と保証人の用紙を受付けの女性へ渡す。
「あら!ティナの紹介だなんて余程気に入られたのね。街の人間からの紹介なら手続きは簡単よ。ステータスプレートにギルドのランクと実績プログラムをインストールしてっと。はい!終了!」
冒険者ギルドには貢献度によってランクがあるらしい。
ブロンド → シルバー → ゴールド → プラチナ → ダイヤモンド → ??? らしい。
お金を稼ぐにはモンスターからのドロップアイテムを冒険者ギルドに買い取ってもらうか、依頼を達成するかの2つだ。
ドロップアイテムを所持する【 冒険者のポケット 】と呼ばれる物と、初期の武器が支給される。
「武器はどんな物がいい?」
「彩月ちゃんには後方支援を頼みたいから杖かな。僕は……男のロマンといえば……やっぱり剣がいいです。」
「それなら……」
彩月ちゃんは杖を受け取り、僕には【鉄の剣】と【錆びた剣】の2つをカウンターに置かれた。
なんでも先代のギルドマスターの申し付けで、剣を選ぶ冒険者には【錆びた剣】も試すよう勧めているらしい。しかしその理由は今では不明との事。
「【錆びた剣】はそもそも直接に触れると持ち上げられないっていう、曰く付きの別名【呪われた剣】なのよ。私はこれを持てた冒険者を見た事がないわ」
「夏生くん呪いでもかかったら怖いよ。普通の剣にしておこうよ」
「うーん……でもイベントっぽいところが気になるから試してみようかな」
呪われませんように……
恐る恐る剣を手に取ってみる。
「あ、持てた」
「「えっ!?」」
ふたりがびっくりするのをよそに、僕は剣を眺めながら運命的な出会いを感じていた。
「よし!宿屋の料金と食事代稼ぎに行かないと!彩月ちゃん行こう!」
いよいよ異世界での最初の冒険が始まる。
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