第2話 レアスキルと剣
夏生と彩月はモンスターを討伐しながらある場所を目指していた。
この世界に転移してきた最初のポイントである。
上司にクビだと言われてあの場から逃れてきたものの、総務課の同僚の女の子達をあの場所に残してきてしまった。
それが心残りで仕方なかったのだ。
彼女達はみんな夏生に優しかった。
ランチに誘ってくれたり、時にはプロジェクト用の資料の大量のコピーを手伝ってくれたり。
間に合ってくれ……夏生もまた心優しい青年なのだ。
途中何度か出くわしたモンスターとの闘いで驚くべき現象が起きた。
相手はハリネズミを大きくしたようなモンスターだった。
水魔法も炎魔法もダメージは与えるものの、致命傷にはならない。
それならばと手に入れたばかりの「錆びた剣」を構える。
ちょうどその時!!彩月に向かってハリネズミが突進して行く。
「危ない!」
夏生は咄嗟にハリネズミの方向を変えるため、全身に魔力を込めて左手で水魔法を放ちなんとか方向を変える事が出来た。
ほんの一瞬の出来事だった!!!!!
いまにも崩れ落ちそうであった錆びた剣が、眩いばかりの蒼白い神秘的な光とともに輝く。
『レアスキル勇者の力を確認しました。【未来への剣】の能力を一部開放します』
最初は驚いたものの、ニヤリと夏生は笑っている。
(やったー!ゲームとかラノベで勉強してて良かったー)
笑顔でモンスターに向かう不思議な光景ではあるが、ハリネズミめがけて剣を振り下ろした。
「えっ!?」
まるで豆腐や紙を切ったと表現するのが一番近いだろう。
硬い皮膚に無数のハリが出ているボディをスーっと真っ二つに切り裂いた。
「夏生くんすごい!すごいよ!」
かなり興奮している彩月が色っぽい言い方をする為、少し照れる。
「この調子でどんどん倒しながらレベルも上げてみんなのところへ行こう」
夕方になってきた為だろうか。
あきらかにモンスターの数が増えてきた。
夏生が剣の一振りで倒していくので、あまり危険な感じはしないが一般的な冒険者であればそろそろ街へ戻る頃だろう。
おそらく30体以上は倒したところでようやく目的地へ辿り着いた。
「誰もいないよ!どうしよう……」
「辺りに争った後はあるけど、人の血らしきものはないから……無事を願うしかないですね……日も落ちてきたし僕らも急いで街へ戻りましょう」
「うん……きっと無事だよね」
帰りの道のりはモンスターの数が急激に増えて大変だった。
【未来への剣】があるので倒す事は簡単なものの、大量のモンスターから彩月を守りながら闘わなくてはならなかったのだ。
「迷惑かけてごめんね」
「全然大丈夫だから気にしないでください」
「でもさすがにこの体勢は……迷惑だし、恥ずかしいし…」
あまりに大量のモンスターに囲まれたので、夏生の左腕に腰掛けて首に抱きついてる感じなのだ。
普通は女性とはいえ片手で持ち上げるのも難しいはずなのに、軽々と椅子のように微動だにしなかった。
僕のステータスはいったいどうなっているんだろう?
宿屋に泊まれたらいろいろ調べたり試さなくては。
「彩月ちゃんが恥ずかしがると僕も恥ずかしくなるから……我慢してね」
誰がなんと言おうとあくまでもいまは闘いの最中だ。
ふたりは忘れているようだが……
もう何体倒したのだろうか。帰り道だけで100体までは数えていたんだけどさすがに疲れてきたな。
昼から何も食べていないのでお腹もかなり空いてきたし。
するとようやく街の門へと辿り着く。
「やっと着いた〜。はぁ〜お腹減ったね」
彩月ちゃんを地面へ下ろす。
「ありがとう。お腹減ったよね…」
顔が真っ赤だ。恥ずかしさがマックスだったみたい…
まずは冒険者ギルドへ行って、ドロップアイテムを売らないと宿屋にも泊まれないのでふたりで向かう。
先ほど冒険者ギルドの登録をしてくれた子が手招きをしている。
「初のドロップアイテム集めはどうでした?ティナが何度か心配で確認しに来てましたよ?」
「この剣のおかげでだいぶいい感じでした」
今は【錆びた剣】でも【未来への剣】でもない通常の剣にしか見えない。だいたい理由はわかってるからいいけど。
「なんで錆びてないのかな?なにかあったの?あったんでしょ?教えてよ!」
す、すごい熱のこもりようだな。でも今はまだ企業秘密に決まってる。広まれば危険に巻き込まれる可能性が増えてしまうからな……
「もう少し強くなったらそのうちお教えしますよ。それより宿屋代が稼げたのかが心配で」
とにかくドロップアイテムの相場も分からないから気が気じゃないんですけど。
食事代まで稼げてますように!
「じゃあ【冒険者のポケット】を出してちょうだい」
恐る恐る差し出す。
あのポケットに本当に勝手にドロップアイテムが入ってるのだろうか?
重さもまったく感じないし何も入ってないなんて事はないよね……
ネコ型ロボットのポケットみたいな物かな?
未来のアイテムはこの世界で出てくる気がしないけど。
「いったいどーゆう事?」
ごめんなさい。ネコ型ロボットはネズミがダメでしたね。
ハリネズミも倒したからですかね。
「すっごいアイテムの数。いったい何体倒したの?初仕事でブロンズクラスが稼ぐ量と質ではないよ?中にはレアドロップもあるし。まさか初心者で夜まで討伐してたの?」
「成り行きで……」
「じゃあレアドロップは一旦返すからよく考えてね。通常のドロップアイテムを買いとるとこれくらいかな?」
うっそーーーー!!!
そんなにもらって大丈夫なんでしょうか?
いきなり30万ゴールドを稼いでしまった。
レアドロップを売却すると100万ゴールド以上らしいけど、装備品だったり能力上昇とか便利かもしれないので後でゆっくり宿屋で調べよう。
報酬を受け取り受付けの子の手が触れるとまたも【コピー】が発動した。
受付の子が使うのスキルってきっと戦闘系スキルじゃないですよね。
もちろんコピーさせていただきますが。
技能系スキル【アイテム鑑定】
おー!これはこれでいいスキルが手に入りました。
この世界はゲームの世界ではないみたいなので、ヘルプ参照とか出来ず不便だったので地味に嬉しい。
レアドロップも後で鑑定しよっと。
「ありがとうございましたー」
お腹もペコペコだし、急いで宿屋【夜光】へと向かう。
「いらっ……あー!おかえりなさい!なかなか来ないから心配したよ〜」
「初の討伐で張り切ってしまいました。改めてお部屋をお願いします」
「え〜と〜2部屋だとおねだん……」
「大きな部屋でもいいので1部屋で!」
彩月ちゃん急に何を言い出すのやら。
若い男女ですよ。僕も男ですよ。
同じ部屋はいくら僕とでもまずいと思うけど。
「こんな世界でひとりで寝るなんて怖くて絶対に無理だよ……」
今にも泣きだしてしまいそうな顔をしている。
いきなりの異世界転移にモンスターと戦闘なんて経験したら当たり前か。
「じゃあ少し高くてもいいので綺麗な部屋を1部屋で」
ティナが残念そうな顔をしながら「いい部屋があるけど3万ゴールドだよ。大丈夫?」と言ってきた。
「ありがとう。朝晩の食事付きでとりあえず5日分お願いします」
気前よく20万ゴールドを前払いして部屋を確保した。
無銭状態から20万ゴールドも稼いだ事に驚きと尊敬の眼差しをティナがむけてくる。
「お腹が空いてるので晩ご飯をとにかくください。お腹と背中がくっつきそうです」
テーブルについて異世界の食事を初めていただくが、なんの肉か聞くのも怖いのでやめておこう。
ちょっと豪快な洋食ではあったけど、ふたりとも貪りつくようにかぶりつき一心不乱に食べた。
食事も美味しいけど一緒に出てきたぶどう酒は最高の味だった。
お腹も満たされたし部屋に戻っていろいろ確認しなくちゃ。
ティナに2階へと案内される。
「この部屋だよー。間違いを起こしたらダメだよー」
「な、何言ってるんですか!」
彩月ちゃん動揺しすぎて顔が真っ赤すぎだよ。
ティナまでなんて言い方するんだよ。
僕まで緊張するじゃないか……
ぎこちなくふたりで部屋の中へと入る。
うん。部屋もきれいで広いしベッドも2つあるしいい感じ
だ。
どういった仕掛けかわからないけどガスも水道もないのにお風呂もあってお湯も沸いている。
魔法……だろうな〜きっと。
ようやくこっちの世界に来て落ち着けた。
「彩月ちゃんいろいろ調べるからお風呂どうぞ」
「えっ!お風呂の後に調べるって…」
なんでそんな動揺しているんですか。
あ、確認したい事もあるんだった。
「それと後で触らせてください」
ん?触れさせてくださいかな。まー同じようなものか。
「夏生くんならいいけど…せ、責任とってね」
足早にお風呂へと向かって行った。
責任って?やっぱり美人の思考は僕にはわからないみたいです。
気を取り直してまずはステータスの確認から。
【 名 前 】青空 夏生
【 クラス 】シルバー
【 レベル 】 1
【 攻撃力 】 8200
【 防御力 】 4500
【 魔 力 】 1500
【 素早さ 】 4000
【 スキル 】 炎魔法ファイア
水魔法ウォーター
【ユニークスキル】コピー シュレッダー
【 レアスキル 】勇者の力 ★2
【 技能系スキル 】アイテム鑑定
うわー!なにこれ?
勇者の力はとにかくステータスが上がるみたい。
★が2になってるから成長するスキルのようですね。
まだ何も覚えていないけど、魔法か必殺技とか習得できるといいな。
えー!レベルが1に下がってる……
ん?よく見るとクラスがシルバーにランクアップしてる。
1日で上がるものなのかな?……夏生だけである。
それとこれこれ!剣を天井に向けて夏生は魔力を込める。
『勇者のーーーーー』
【未来の剣】へと姿を変え神々しく輝いている。
やっぱりだ!勇者の力を使って魔力を流すと変化するのか。
あとはレアドロップだな。
【冒険者のポケット】からレアドロップを2つ取り出した。
【天使のリング】魔力20%向上、回復魔法20%上乗せ死亡と同時に1回限り蘇生。
【透明マント】使用中は透明になり誰にも見えない。時間無制限。
説明がついているのできっと鑑定スキルだろう。
やっぱり便利だしレアドロップは貴重なアイテムだからなるべく売らずにおこう。
そうこうしている間に彩月ちゃんがお風呂から出てきた。
タオル1枚だけを体に巻いて。
「ちょっとちょっと!洋服を来てください。新しいのは明日買いに行きますから」
「そこから脱がしていくなんて夏生くん……マニアックなのね」
耳まで赤くしながらベッドに横になる。
「触りたいんでしょ?……いいよ」
目をつぶって震えてる気がするけど。
タオルの意味はわからないけど、手を少し触る。
『ユニークスキル【シュレッダー】を使用しますか?』
あー!なるほど。きっとスキルのコピーは1人から1つのみ。
もしコピーしたければすでに手に入れたスキルをシュレッダーを使い消してからコピーするのか。
これも使い方次第では使えるな。頭は使うけど。
いろいろだいぶわかってきたぞ。
明日もドロップアイテムとスキルを集めて頑張るぞー!
「頑張るんだね……いいよ」
あら?今声を出して言ってしまったようですが……
異世界で一番怖い状況に追い込まれている夏生であった。
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