第3話 冒険者ギルドからの依頼
「彩月ちゃんそろそろご機嫌直してよー」
ほっぺをいっぱいに膨らませて怒っている彩月を、夏生がなだめている。
昨日の夜はスキルのシュレッダーまで確認すると夏生もお風呂に直ぐに入り、疲れがでたのかベッドに横になりそのまま寝てしまった。
彩月はタオル1枚で覚悟を決めてベッドで待っていたというのに……相手にもされず放置プレーをされてしまったのだから、女性としてプライドがズタズタだ。
う〜ん正直なぜ怒っているのかわからないけど。やっぱり異世界に来てのストレスでしょうか。ここはひとつ総務課で身に付けたスキルで乗り切りましょう。
「今日は午前中はショッピングに行きましょう。彩月ちゃんは可愛いから異世界のどんな洋服も着こなしてしまうんだろうな〜。早く見たいな」
「えー可愛いなんてお世辞はやめてよー。でも同じ洋服ずっと着てられないし朝ごはん食べたら見に行きたいね」
掴みはオッケーだ。ここでダメ押しのプレゼントを用意する。昨日手に入れたレアドロップアイテム【天使のリング】だ。効果も優秀だったので彩月ちゃんにピッタリだと思う。
「あとプレゼントがあるんだー。昨日は疲れて寝てしまったから渡すことが出来なかったけど。このリングがすごくかわいいから似合いそうかなぁって」頑張って敬語はやめて親しげに話す。
【天使のリング】はその名の通りかわいいデザインだった。それを見るなり彩月ちゃんは「指輪を貰えるとは思ってもみなかった…ふてくされたりしてごめんね。夏生くんありがとう」と最高の笑顔を見せてくれた。
うう。とても装備品とは言えなくなってしまった。とにかく機嫌が直ったようなので朝ごはんを食べて街を回ってみよう。
朝食を食べて部屋に戻りまずは彩月ちゃんのステータスを確認する。
「パーティーを一緒に組んでいるので経験値が入っているはずですよ」
「敬語はダメでしょ」
笑顔だけど目が冷たい。「そうだったね」やっぱり怖いけど慣れるしかないな。
【 名 前 】上條 彩月
【 クラス 】ブロンズ
【 レベル 】 34
【 攻撃力 】 170
【 防御力 】 125
【 魔 力 】 225
【 素早さ 】 100
【 スキル 】 水魔法
土魔法
ステータス補助魔法
状態異常補助魔法
回復魔法
うん。やっぱりちゃんとレベルも上がっている。補助系魔法を覚えているみたいだけど、本人の素質とか性格に依存するのかなぁ。
「ほら、昨日だけでだいぶ成長してるよ。これなら生き抜いていけるよ」
「うん……何もしてないけど少し嬉しい。でも帰れる方法をなんとか見つけようね」
この反応が普通なんだろうな。僕はこの世界で生きていきたいけど今は内緒にしておこう。
ステータスの確認も終わり街を見て回ることにした。昨日はバタバタしていたので気づかなかったけど人間以外にもいろんな人種がいるみたいだった。
あの猫耳や尻尾は本物なのかな。アニメでしか見た事がないから興味津々だ。歩いていると洋服店らしき建物が見えてきた。防具屋?洋服屋?極端なくらい店の中が半分に分かれているので生活用と冒険用なのだろう。
必要最低限の衣類や雑貨を買い込んで荷物を置きにいったん夜光へと戻るとティナが声をかけてきた。
「冒険者ギルドのエミリーから頼みたい事があるって連絡がきてたよ」受付のあの子がエミリーなのかな。昨日も思ったけど電話もないのにどうやって?と考えるけど魔法の類いに決まっている。
頼みたい事ってなんだろう?と思いつつ、先ほど買った洋服を嬉しそうに部屋でファッションショーしている彩月を残して冒険者ギルドへ向かった。
たくさん買い物したので残りは1万ゴールドしかないから今日も午後から稼ぎに頑張ろうと思っていたんだけど。
冒険者ギルドに入るなりエミリーが僕を読んでいる。
「ナツさんこっちです」
ナツ?どうやら夏生の発音が難しいらしく縮めて言ってるらしい。
「急にお呼びしてごめんなさい。冒険者ギルドから正式に依頼をお願いしたいと思いまして。詳しい話は2階でご説明します」
螺旋階段を上がり大きな応接室へと通されて、出された紅茶のような物を飲みながらソファーに腰をかけて待っていた。すると応接室に繋がっているもう1つの部屋の大きなドアからまるでバイキングのような筋骨隆々の大男が入って来た。
「こちらはギルドマスターのルドルフさんです。それでこちらが昨日から冒険者ギルドに登録されたシルバークラスのな、つ、キ……ナツさんです」
僕の名前を勝手に名前を変えないでください。
「初めまして夏生です。よろしくお願いします」
ガッチリと握手をしたので当然だけど、【コピー】が発動する。ギルドマスターのスキルなんて期待するなという方が間違いだと思う。しかしギルドマスターまで昇り詰めた相手にいまコピー実行するのは得策ではないので、昨日の夜に試した【コピー】の中のスキャン機能のみ実施しておく。
この機能はコピー自体は待機状態になる為、使用中は他のスキルをコピー出来ないがスキャンのみ行なっていれば後でゆっくり必要なスキルを選んでコピー出来るのだ。
なんだか僕はコピー機販売の回し者みたいだな……
「ルドルフだ。エミリーから1日でシルバーランクに上がった前代未聞の冒険者がいると聞いてのう。いろいろ事情があって他の冒険者には内密に依頼をお願いしたいのだ。もちろん今回は特殊なクエストの為に報酬も期待してくれて構わない」
「なるほど。それだけ厄介で他の冒険者には知られたくなくて僕みたいな新参者のよそ者冒険者が必要なんですね」
「ここでは否定も肯定もせずにおこう」
「それで肝心のクエスト内容は?」
クエスト内容はーーーーーー
街から南に10キロほど行ったところに『試練のダンジョン』があるらしい。
このダンジョンの特徴は、通常だと経験値が必要なブロンズからシルバーへのクラスアップが、腕に自信のある冒険者がダンジョンをクリアするとクラスアップがすぐに出来るらしい。
しかし現在はダンジョン内で問題が起こっており、それを調査して欲しい。調査内容は行けばわかると曖昧だった。
なぜ隠す必要があるのかな……調査は名目であっておそらく戦闘になる事が前提としか思えない。
これは……行くしかないですね。報酬よりも冒険者ギルドに恩をうるチャンスですから。なによりダンジョンと聞いてテンションが上がってしまいました。
「お引き受けします。ただし条件があるのですがよろしいですか?」
さすがに今回は装備品をしっかりしておきたいので防具を揃えたいけど、お金がない。せめて防具と回復アイテムなど道具の準備をお願いしたいと言ってみる。
「その程度なら構わん。すぐに各ショップへと連絡し支度金も用意させるので準備が出来次第すぐに向かって欲しい」
なるほど……かなり切羽詰まっているようだ。それだけ危険だとも言える。彩月ちゃんは危ない目に合わせたくないし今回はひとりで行く事にしよう。
「わかりました。早速準備を整えて出発します」
こうして夏生は初めてのギルドクエストの依頼を受ける事になった。
まずは防具屋へと向かう。もちろん防具も揃えるが本当の目的は違っていた。ギルドマスターにお願いした各ショップへの手回しの意図とは……
防具屋に着くと鎧や盾などをさっさと手に入れる。そして防具屋の主人に触れる。次に向かうは武器屋だ。すでに最高の武器があるので適当な武器を1つ選び武器屋の主人に触れる。道具屋、魔法ショップでも同じ行動をした。
これでギルドマスターを含めてスキャンは5回か。試してわかった事だけど一度にストック出来るスキャンデータは5つなのでこれが限界ですね。
今回はひとりでクエストを行う為、出来る限りのスキルを手に入れておきたい。それぞれのショップの店主であれば、その道の専門スキルが手に入る可能性があるので夏生は利用しようと思ったのだ。
コピーするスキルがようやく決まった。
ギルドマスター 『全知全能』
武器屋 『二刀流』
防具屋 『紙一重』
道具屋 『アイテムマスター』
魔法ショップ 『マジックポータル』
まだ未知数だけど常時発動と瞬時発動があるみたい。
ダンジョンに着くまでに使いこなせるようにしましょう。
よし!これで準備は整いました。では行くとします!南へはギルドマスターの用意してくれた馬車で連れて行ってくれるのか。気を遣うから疲れそうだな……
街のゲートを出ると馬車と馬の隣に深くフードを被った人物が立っていた。
「ナツキさまですね。私はニーナと申します。よろしくお願いします」
ん?少し声が高いけど……女性なのかな?こんな危険な任務なのに大変だな。
馬車の荷台へと乗り込むと「到着まで休んでいてください」と声をかけられた。少し気難しい方のようで気まずいな……でもちょうどいいか。先ほどコピーで手に入れたスキルを確認するとしよう。
まずはギルドマスターの『全知全能』から。すごい名前だったけど……うわああああ!ない!一番期待してるスキルがない!なんで?
パニックになっているけどあらためてステータスを確認してみる。
すると……『複合コピーに成功しました』と痕跡がある。そんな機能気付きませんよ普通は。
なになに…アイテム鑑定とだって!?うう…せっかくのレアスキル同士なのにもったいない。とりあえず複合コピーの結果は、ユニークスキル『博士』?『博士』?2回言ってしまうほどわからない。でもレアスキルからユニークスキルになったのならもしかして……期待が大きくなってきた。
よし!試してみよう!
「スキル『博士』!」叫んでみた。
「おはようございます。ご用件は?」
「うぉ!びっくりした」あ、頭の中に声が響いたよ。
「博士のスキル能力は?」質問してみる。僕の頭へ大丈夫だろうか?
「ユニークスキル博士に変化した事で、あらゆる知識あらゆる可能性を見出せます」
頭の中にAIロボットがいるようなものかな。じゃあ試しに、「アイテムマスターの使い方」新しいスキルを聞いてみる。
「アイテムを使用しなくても、最初に3つセットしておく事で必要に応じてオートで使用されます」
すごー!回復アイテムをセットしておけば安心だ。他のスキルも確認していると……
「モンスターの群れがやって来ます!」緊迫したニーナさんの声がしてきた。
「この地域この時間帯でこれだけの数のモンスターが現れるなんてありえません!申し訳ありません……」
「ニーナさんは私を連れて来てくれただけで悪い事はしていませんよ。謝らないでください。僕が食い止めますので急いで馬車で街へ引き返してください」
「食い止めるって……ざっと1000体近くいるんですよ!おひとりでなんて無理です。一緒にお戻りください!」
「このまま見過ごせば街へとモンスターが向かってしまいます。それではニーナさんを守った事になりませんから」
ちょっと自分に酔ってるかな。でも力があるのに見過ごして使わないならそれは悪だ。僕は正義を貫きたいから。
「ではお気をつけて!」ニーナさんに声をかけて笑顔で馬車を飛び出して行く。
頼む剣よ力を貸してくれ。前回よりも更に力強く剣が輝いていく。アイテムもたくさんあるしやるだけだ!
うわーほんと大群だ。ダンジョンより大変なんじゃ?稼げるだけ稼ごう。
新しいスキル『二刀流』を手に入れているので、武器屋の武器を左手にも装備してみる。
おう。利き腕のような感覚ですごい。両手の剣でモンスターの間をすり抜けながら次々と撃破していく。さすがに左手は豆腐みたいには切れないか。
15分後には半分くらい倒し、少し疲れが出てきた。あれ?馬車が戻ってきちゃった。ニーナさんが深く被っていたフードとコートを脱いだ。
「あれは……エルフ?」
ニーナは正確には高位のハイエルフだ。その完成された顔立ちは間違いなく美少女である。
「憧れのエルフに会えるなんて信じられない」興奮状態の夏生はいつも以上に力が入る。
ニーナは何やら歌いはじめる。すると夏生の疲れていた肉体が楽になり体が異常なほど軽くなっていく。
すごく心地がいいです。気分良く剣を振るう夏生はわずか5分ほどで相手を全滅させる事に成功した。
「ありがとうございました。なぜ戻ってきてくれたのですか?」
「私は人間が嫌いです。でも……あなたは迷いもなく私だけ逃がそうとしてくれました。そして守るとも。私もあなたに信頼してもらいたい。あの笑顔をもう一度私に見せてもらいたいのです。仲間に……私を仲間にしてください!」
なんだか訳ありなんだろうな。こんな美少女のエルフと冒険か〜悪くないな。
「こちらこそ仲間になってください。よろしくお願いします」
誰かさんを忘れている夏生であった……
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