第4話 ダンジョンの激闘
先ほどの戦闘でかなり体力を消耗した為、ポーションや魔力回復薬などのアイテムを使い現在は少し休憩している。
「改めて自己紹介しましょう。私はハイエルフの【ニーナ=ハドルド】ニーナと呼んで」
「僕は青空夏生(あおぞらなつき)です。なつきと呼んでください」
「ねえ?その話方は私を馬鹿にしているのかしら?仲間に対してそれは失礼だと思うわ」
同じような事をまた言われてしまいました。この世界だと失礼なのか……
理由を尋ねるとーーーー
「私達の一族は400歳くらいまで生きられるのよ。年上だからといって丁寧過ぎる言葉なんて使われてもなんの意味もなさないわ。それにあなた……この世界で見た事もない人種ね。長く生きてる私でもわからないのだけど…この世界に馴染まないと生きてはいけないわよ」
え?ニーナはこんなに美少女なのに何歳なんだろう?女性に聞くのはナンセンスですし。とりあえずこの世界の常識に乗っ取って行動するのが正しいのかな。憧れの冒険者になれたんだし、少しくらい荒々しい方がカッコイイかも。
「わかったよニーナ。悪かったな」
あ、僕いま自分に酔ってる感じがまたいい。冒険者って感じ?でもここまで僕に変化をもたらしたのは、やっぱりエルフって自己暗示能力みたいなのがあるんじゃないだろうか?
でも今まで縛られていたような感覚がなくなってすごく気分がいいや。
「よし!それじゃあ「試練のダンジョン」を調査しようかな」
ダンジョンってこんな重厚で立派な扉があるの?それともここは修行用のダンジョンだから?ともかくここからは気を引き締めていこう。
「ニーナ行くよ!」
「いつでもいいわよ!」
ゆっくりと扉を開く。するとーーーー
「なんだ、なにもないじゃ……ん?」
「気をつけて!なにかが近付いてくるわ!」
なんだあれは!!犬のような頭が3つあるあの有名な…
「ケルベロスよ!!ゴールドクラス級の敵よ!」
えええ!ここって確かシルバークラス級になる為のクラスアップダンジョンだったよね?
しかもなんであんな巨体がダンジョンにいるの?入り口よりも大きいって…
それにゴールドクラス級が最初の敵ってアンラッキー?
とにかくやるしかない!けど……ダラダラとこぼれ落ちていくヨダレが…臭い!頭が3つもあるから3倍臭い!
「あの唾液はかなり強い毒性を持っているから気を付けて!!触ったら1分と持たずにあの世行きよ!!」
え?そうなの?近付けないのにどうやって倒せばいいんだろう。ニーナは魔物にかなり詳しいようだけど何か策がないか尋ねてみる。
「弱点はなにかない?」
今にも喰いついてきそうだけど、って思っているとーー 「ガチ!」あっぶなー!言ってるそばからいきなり噛みついてきたよ!
「ちょっと待って!」
ニーナは何かを歌いはじめた。呪文とも違うけど聞いた事のない言葉でゆっくりと歌う。
すると……
「…………」なんだか…眠く…。
「ナツキは寝てはダメよ!」
あ、この歌には催眠効果があったのか。なんだかすごく気持ちが良くて敵を目の前にして危うく寝てしまうところだったよ。
ケルベロスを見てみるとすでに2匹の頭が眠りについて最後の頭が目を閉じた所だった。
あれ?神話とかだと琴の音色で眠らせるんじゃなかったっけ?やっぱり神話と現実って違うものなんだな。
そしてケルベロスの最後の頭が眠りについたその時だった!!
意識を失った大きな3つの頭とその巨体が夏生めがけて倒れ込んできたのだ。ナツキ自信も若干の催眠効果で反応が遅れてしまったのだろう。
ケルベロスの頭の一部に足を挟まれる形で下敷きになってしまい、倒れた勢いでばらまかれた唾液まみれになってしまった。
「ナツキーーーー!!!」
悲壮感のこもったニーナの声がダンジョンに鳴り響く!!
ナツキは猛毒の唾液によって、その体を蝕まれてーーー
いかなかった???
「ど、どうして大丈夫なの?」
「僕には毒耐性があるから大丈夫だよ」
もちろんケルベロスとの戦闘が始まった際には、夏生にそんなスキルはなかった。
ほんとに運が良かったのだろう。ケルベロスの頭に潰されると思われ体が触れた瞬間、【コピー】スキルが発動したのだ。
そして唾液まみれになり猛毒が体を蝕む寸前に、【博士】スキルが発動し生命の危機を感じ【オートコピー】を発動。
そして手に入れたスキルが【毒耐性EX】だったのだ。
ただ運が良かっただけではない。ダンジョンに入る前の激しい戦いによって【勇者の力 ★3】にスキルアップしていたので、ステータスの運も上昇していた為、この一瞬で最大のピンチを乗り越えたのだ。
魔物からもスキルをコピー出来てほんとに助かった〜。ヨダレまみれであの世行きなんてごめんだし。
「ごめんなさい!私が人間を信用していないばっかりに。自分の能力やスキルを明かしていればこんな事には……」
「こんな事ってどんな事?ニーナのスキルでケルベロスを眠らせてこうして倒すことがーーーー」
ケルベロスの頭に剣を素早く突き刺していく。
「出来たんだよ。ありがとう」
夏生はニッコリと優しく微笑んだ。
「うん……」涙目ながらも笑みを浮かべ小さく頷きありがとうと口元は呟いているようだった。
「じゃあ先に進もう」
ダンジョンは地下3階の作りとなっているが、現在調査している地下2階までは魔物と遭遇する事は一切なかった。
「ここまで魔物と出くわさないなんてありえないわ」
「このダンジョンに詳しいの?」
「似たようなダンジョンは各地にもあるの。これだけ魔物がいない試練のダンジョンなんて試練の意味がないもの」
確かにケルベロスと戦った後はここまで気配すら感じない。無理に戦闘しなくて済むならそれにこした事はない。
地下3階へと降りて行くと先程までと空気が一変する。背筋が凍りつくような冷たい空気が漂いニーナが恐怖を感じ小刻みに震えている。
「こ、このプレッシャーはなんなの?おびただしい数の魔物の気配の中にとんでもないものがひとつ混じってる。戻りましょう!こんなの私達だけじゃとても無理よ!」
「ニーナは無理せずダンジョンの入り口で待機してて。きっと僕は…俺は戻ってくるから。ここから先は1匹も通さないよ。俺を信じろ!」
この自信はどこからくるのか自分でも不思議に思う。なぜだか分からないけど、いま一番必要なのは自分の能力を信じることだと直感のようなものを感じるのだ。ここで逃げたら俺はこの世界に来た意味がなくなってしまうだろう。
ずっとなにかきっかけを探していた向こうの世界では一歩を踏み出すことが最後まで出来なかった。もう後悔してたまるか。
俺は気弱な男の子の夏生くんじゃない。冒険者のナツキなのだから!!
「絶対……絶対に無事に帰ってきて!」
俺は大きく剣を掲げてニーナに鼓舞し決意を新たに先へと進んで行く。
秘策はある。ケルベロスとの戦いがヒントになっていた。おびただしい数の魔物がいるのなら、まずはステータス系のスキルを片っ端からコピーする。
そして戦闘力がアップしたところで、ボス戦に挑めば勝算も出てくるだろう。それに……ダンジョンに入る前にかなりの魔物を倒した事、レベルも上がりスキルも変化しているようだ。ぶっつけ本番になるけど、そこは【博士】がうまくやってくれるだろう。
そして…ケルベロスを仕留めた時から、剣がさらに変化を示している。【未来への剣】って曖昧な名前が少し不思議であった。未来は自分の行動次第でいくらでも変える事が出来るのだ。
いまや黄金色に輝いているその剣に全ての力を委ねよう。この剣があれば大丈夫!!
先へとさらに進んでいくとーーーー
大きな…ほんとに大きな空洞のホールのような場所へと到着した。
ああ……すごい数だな。ホールの中には地面にも空中にもこれでもかと魔物の群れが待ち構えていた。その数の為、ボスの姿は確認する事は出来ない。
なぜかまだ攻撃してこないのでこちらから仕掛ける事にしよう。覚悟を決めて大きく息を吸い込みーーーー
「ファイアー!!」
魔法が口火になり戦闘が開始された!!
ひとりで戦う為、死角から攻撃されないようにホールの入り口で剣を構える。ここなら後ろからも横からも上からも攻撃される事はない。
さあ来い!!
ーーーーあれからどれくらいの敵を倒したのだろうか?
今回は盾を準備していて正解だった。魔物の攻撃を防ぐと同時に相手に触れてはコピーを繰り返していくとまた新たな発見が。同じ魔物を倒してスキルのコピー音を繰り返していた時だった。
『スキルをコピー合成し進化に成功しました!!』
【博士】がまた何かをしているのだろう。戦闘中のため確認出来ないけど戦っていくほど相手を簡単に倒せていけるようになってきた。
すごく戦いが楽になってきた。これってアニメでよくあるチートなんじゃないかな。戦い方にも慣れてきたしまだまだ余力も残っているので、コピー音がしなくなった頃にはホールに出て剣の威力を解放していく。
現在の剣の名前はーーー 【聖剣エクスカリバー】
こんな序盤にエクスカリバーってゲームでは考えられないよな。
気が付けば最後の魔物を倒して大群を全滅させていた。
ホールの奥には大理石で出来た階段があり登って行くと石碑があると聞いていたはずが……
そこには人影がポツンと1人立っていた。
まさかこの人?魔物?が…ボス!?
「あのケルベロスがやられるとは思わなかったぞ。人間なんぞに倒せるはずはないのだが。まあよい。魔族の我【ダークネス】がここで息の根を止めてやるわ!!」
ま、魔族!?言葉を喋っているしケルベロスに命令したのならボスなのだろう。
神話のケルベロスは、冥界や地獄の番人と呼ばれているのでその飼い主か主人なのかもしれないな。
ダークネスは魔法を放ちながら大きなナタのような剣を振り下ろしてくる。ひょいっと横にかわすと振り下ろされた剣が地面を一瞬にしてえぐりクレーターの様になってしまった。
さ、さすがに強いなこれは。こちらも全力で剣を振るうと相手の剣で受け止められた。
これだけ強い相手ならきっとレアスキルも……っと!
危ない危ない戦いに集中しよう。相手もすぐに倒せず相当にイライラしてきたのか攻撃が雑になってきた。
相手の剣が地面を捉えるとその隙に懐へと入り込み右腕に触れる。そしてそのまま右腕めがけてエクスカリバーを全力で振り下ろす!!
「ぐわぁ!」剣を落とす敵に対し勝負はすでに見えていた。
ナツキはここで剣にありったけの魔力を込める!
「聖断魔斬り!!」なんだろうそれ?勝手に頭の中で鳴り響いてつい叫んでいた。
「ギャーー」断末魔の叫び声とともにダークネスは消えていった。
「勝った……勝ったぞーーー!」
ナツキの心は達成感で満ち溢れていたーーー
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