第5話 修羅場!?

 ダークネスを倒して改めて辺りを見渡すと、探していた石碑が赤黒くわずかに光を放ちながら正面に立っていた。

 念のため警戒をしながらゆっくりと近づいていくと、石碑の光は小さくなっていき赤黒い光から銀色の光を放ち始める。

 おそらくこれが本来の石碑の姿なのだろう。そして石碑にはうっすらと見た事のない文字が浮かび上がっている。


 「博士読めるかい?」文字を分析してもらうとすぐに答えが返って来た。


 『闇の帝王の復活は近い……』


 げっ!?そういった話はあまり関わりたくない。

 せっかくファンタジーの世界に来たのだから、十分に満喫してから使命を果たすとかならいいけどいきなり復活が近いと言われても……とりあえずギルドマスターにこの事を急いで伝えなくてはならない。


 石碑をもう一度見る頃には文字はゆっくりと消えていくところだった。

 

 そういえば石碑に手を合わせると、クラスチェンジするんだっけ?

 俺はもうシルバークラスは通過しているから関係ないと思うけど一応やってみるか。


 石碑に手を合わせると……やっぱり何も起こら…うわ!

 石碑から何かが温かい何かが全身に流れこんでくる。


 『世界を……世界をお守りください。この力で…』


 一瞬女神のような姿の女性が見えたような見えないような。クラスチェンジの女神なんているのかな?

 ともかく相当な数の敵も倒しているし、疲れて幻覚でも見たのかも知れない。すぐにステータスを確認したいけどニーナのところへ戻って安心させなくては。ステータスが楽しみで仕方ない。


 地上へ出るとすぐにニーナが駆け寄ってきた。

 目には今にも溢れ落ちそうなくらいの涙をいっぱいに浮かべていた。


 「ナツキ!!無事だったのね。ほんとに……ほんとに」

 どうやら様々な感情が入り乱れているため言葉にならないようだ。


 「俺はなんともないよ。地上の方は大丈夫だったかい?」

 いまは無事だけ伝えれば少しは安心するだろう。下手に慰めれば涙を流しかねないし、街に帰ってからゆっくり声をかけてあげよう。


 地上の様子を聞く特にと驚くような事は何も起こってはいなかった。ただ一点を除いては……

 地上へ出てから間もなくすると青空だったはずの空に、雲が渦を巻きながら集まり赤黒い色に染まりあたりが暗くなった。やがて少しすると青空に戻ったと言うのだ。


 きっとあの石碑が関係しているのだろう。幸い地上では魔物には遭遇する事はなかったらしい。


 「状況報告も兼ねて急いで冒険者ギルドに戻ろう」

 「うん……」

 小さく返事をして頷くニーナはとても歳上の女性とは思えないほど静かだった。長生きしていても恐らくこんな事は初めてだったに違いない。


ーーーーーーー


 街へと戻るとすぐに、冒険者ギルドへと向かった。

 その間もニーナは黙ったままである。よほど今回の事が怖くて仕方がなかったのかと思うと案内を頼んでしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 冒険者ギルドではすぐに2階の部屋へと通され、現在はギルドマスターと対面している。

 ギルドマスターは、ニーナが同行している事にえらく驚いてる様子だった。


 「いやはや、人間嫌いで有名なエルフさえも手なずけるとは君にはまったく驚かされる」


 その言葉にニーナは反応し怒りをあらわにして訴えようとしているところで俺が間に入る。


 「お言葉ですが、ニーナと私は対等の立場でパーティーに加入してもらいました。俺の仲間に対して失礼な発言は控えていただきたいのですが」


 ギルドマスターは一瞬驚いたような表情を浮かべるが、すぐに元の表情に戻っていた。


 「今回の件でさらに成長したようじゃの。男の顔になっておる。ハハハ。いやナツキ殿、ニーナ殿、申し訳なかった」


 素直にお詫びの言葉を述べ、今回の依頼の件の話になると厳しい表情で微動だにせず報告を聞いていた。

 

 石碑の文字の話になる頃にはなにか思うところがあるのだろう。ため息をひとつつき目を閉じている。


 「なるほど。わかった。詳しい事はまだ言えんがじきに国王から国民皆にメッセージがあるだろう。今回は本当に良い働きをしてくれた。心から感謝する。報酬は下で受け取ってくれ。またよろしく頼む」


 国王の名前が出て少しびっくりした。やっぱりゲームみたいな感覚を覚えるけど、これは命のやり取りをしている現実の世界なのだ。気を緩めてはいけないと思いつつ1階へ移動して報酬とドロップアイテムの鑑定をお願いする。


 鑑定と今回の報酬の受け取りをお願いしたのは昨日もお世話になった【エミリ】である。

 

 「よかったー無事に戻ってきたのね。今回の依頼は本来ゴールドクラスの冒険者が数人で行うくらい危険なものだったから」


 え?シルバークラス用のクエストじゃなかったの?

 ゴールドクラスが数人なんて言ってなかったじゃないか。

 俺は引きつる顔をなんとか隠しながら答える。


 「当たり前だろ。こんなところで死ぬわけにはいかないからな。今回の報酬は弾んでいるんだろ?それとかなりの数の魔物を倒したからドロップアイテムの引き取りを頼む」


 「う、うん。なんだか感じがすごく変わったね。あ、いい意味でよ。男っぽくなったような」


 そりゃそうだろう。この短期間であれだけの魔物と闘ったのだ。生きていく為には今までのままではダメなんだ。


 「先にドロップアイテムからね。えーと・・・・ちょっと何この量は?どれだけの激戦だったのよ。普通の冒険者の数年分の稼ぎじゃない・・・・」


 信じられないような目をむけてくるがここは平静を装っておこう。

 やった!やった!やった!まだ数日でステータスも稼ぎの方も順調どころの話じゃないな。

 このままうまくいけば少しくらい有名な冒険者になれるかもしれない。


 「えーと・・・・ドロップアイテムだけで、い・・・・1億ゴールド!?あの・・・結婚してください!・・・・じゃなかった。どうしたらこんな稼ぎ方ができるの?宿屋のティナが気にかけるのも分かった気がするわ」


 「お世辞を言ってもなにも出ないぞ?食事ぐらいならご馳走する・・・痛!」

 なにかに頭を叩かれた気がするけど後ろにはニーナしかいないし、外を向いているからきっと違うだろう。


 そして今回の報酬を受け取ってびっくりした。違う意味で。

 報酬が・・・・ドロップアイテムの時より少なかったのだ。なんだかギルドマスターにはがっかりしたけどよく考えてみると数年分の報酬なんて1回のクエストで受け取れたらみんな大金持ちになってしまう。


 報酬の中にアイテムも含まれていた。今回の報酬の中では一番の戦利品だろう。


 【魔物使いの指輪】


 あとから博士に尋ねたところこのリングは倒した魔物を1匹だけ仲間としてパーティーに入れる事ができる。指輪をしている主人には絶対的な信頼と忠誠を誓うそうだ。

 一度仲間にした魔物は変えることはできないらしいので使いどころが重要になってくるだろう。


 もちろんドロップアイテムの中にはレアアイテムもあったけど、博士で鑑定はできるしいずれは使うだろうとしっかりしまっておく。


 「あ、そういえば連れの人がすごい剣幕で探しに来てましたよ。消えただかいなくなってしまったとか。ちょっと怖かったです・・・」


 そうだった・・・彩月ちゃんに何も言わずにクエストに出ていってしまったのだ。

 きっと心配して探し回っていたのかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。


 報酬を受け取ると宿屋【夜行】へと急いで帰った。

 もしかしたら彩月ちゃんが泣いているかもしれないと思いつつ、ドアを開けると・・・


 「夏生くんちょっと大事なお話があります。まずは部屋へ入ってください」

 冷静な声でしかも敬語で言われるほうがもっとも怖い。怒られる方がよっぽど気が楽だというのに。


 「だいたい夏生くんは私に何の相談もな・・・な!?なにーーーその子は!!デートしてたんだ!こんなに私が心配していたのに」


 「違うって!冒険者ギルドからクエストの依頼を受けていたんだよ。こちらはダンジョンまで案内してくれたニーナだよ。こっちが彩月ちゃん。お互いにパーティー仲間だから仲良く頼む」


 「「えっ!?」」


 お互いに驚きの声をあげた後に、冷めたような笑顔で挨拶を交わしている。

 なんだか少し怖い。少しじゃないか・・・


 とりあえず女性二人と同じ部屋ではまずいだろうし、部屋をもう一つか二つ借りなくては。単なる逃げる口実なんだけど・・・


 「ちょ、ちょっと部屋が空いてないか調べてくるね」


 これじゃまるでラノベのハーレム主人公みたいだな。俺は女性とは昔から縁がないけど、ほんとにこの世界はいままでとは全く違う。でもこの変化は楽しくて仕方がない。新しいことの連続だしわくわくが止まらない。

 ずっとこの世界で生きていけたらいいな・・・


 ティナに事情を説明すると、今日はとりあえずもう1部屋借りるができた。

 そしてエミリから聞いたと前置きがあり、


 「すごい活躍で稼いだって聞いたけど。本当はうちで寝泊まりして欲しいんだけどそれだけの稼ぎがあるなら、仲間も増えてるみたいだし思い切って家を買ったほうがいいんじゃない?」


 たしかにこれからも仲間は増えるかもしれない。夜行では食事だけとりに来ても問題ないようだしこの年齢で家を持てるなんて夢のようだ。

 いろいろ他の冒険者に勘繰られたくもないし明日にでも探しに行こう。


 各自の部屋があれば微妙な空気になってもお互いに、特に俺が落ち着いて寝る事ができる。


 もともと借りている広い部屋にふたりを残して、新しく借りたひとり部屋へと移動する。


 とにかくステータスを確認したくて仕方がなかったのだ。

 戦っている最中からいろいろな音がしてレベルアップやらコピーやらしていたため、戦闘中にも関わらず顔がほころんでしまったくらいだった。

 よし!確認するぞ!


 【 名 前 】 青空 夏生

 【 クラス 】 ダイヤモンド

 【 レベル 】 30

 【 攻撃力 】 120000

 【 防御力 】  60000

 【 魔 力 】  20000

 【 素早さ 】  40000

 【 スキル 】  全属性魔法 二刀流 紙一重 マジックポータル 毒耐性EX 麻痺耐性EX 

 【ユニークスキル】 コピー シュレッダー 博士

 【レアスキル】 勇者の力 ★5

 【技能系スキル】アイテム鑑定


 おおおお!!!

 クラスがダイヤモンドになってる上に、ステータスがめちゃくちゃ高い!!

 しかも勇者の力も★が増えてるし、魔法は全属性使えるようになっている。


 ああ、やっぱりこの世界は生きてるって感じがする。数字やスキルで成長が一目でわかるのだから楽しいしもっと強くなりたい。

 そんなことを考えていると、隣の部屋からなにやら揉めてるような声が聞こえてくる。

 やっぱり喧嘩しているのかな・・・

 明日は3人で早く新しい家を探しに行こうと頭を抱える夏生であった。

 

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