第6話 新居

 「なかなかいい物件って見つからないね」

 「妥協はしたくないし出来れば防犯面でも安心出来る物件がいいから仕方ないけど」

 「故郷の森の中なら自由よ」


 そんな会話を交わしながら3人で住む家を探している。

 こんな世界だからこそやはり魔物対策のされている物件で、さらに総務課の女の子達を見つけた時を考えて出来れば大きな家を探しているのだ。


 「こっちには不動産屋なんてないから大変だよな」


 物件を紹介されても写真があるわけでもないので、実際に見に行かなくてはならないのだ。


 街の領主から派遣されたメイドの子に案内されながらかれこれ10件以上見て回っていたがなかなか見つからなかったのだ。


 「あ!あの大きなお屋敷なんてどうかな?すごく綺麗だし敷地に広いお庭と噴水まであるよ」


 「さすがにあれは売りに出されてないだろう?あの屋敷は誰の家なの?」

 「あの家ですか……売りに出されてはいるのですが、実はいろいろと訳あり物件でして」

 「設備が悪いとか、幽霊が出るとか?」

 「もう!夏生くんのバカ!やめてよ夜が怖くなるから」


 涙目で彩月ちゃんが訴えかけてくる。


 「設備は申し分ありません。昔は貴族の方が高齢で亡くなられる前まで住まれていたお屋敷だったので……ただ……出るんです」

 「いやー!絶対いやー!」

 「人間とは不思議だな。そんな事くらい私は特に気にしない」

 「出ると言っても昔飼われていた魔物が地下に住みついているんです」

 「どんな魔物が住んでるの?」

 「ドラゴン」


 なんて巡り合わせだろうか。

 それだけの理由ならこっちからお願いしたいぐらいだ。


 「なるほど。それで条件としてはドラゴンをなんとかしなくてはならないのと金額はどれくらい?」

 「かれこれ100人以上の冒険者が諦めた物件ですので領主様はなんとかしてくれるのなら1000万ゴールドでいいとの事です。通常なら100億ゴールドの価値があるとからしいですが」


 破格じゃないか!?

 こんな立派な屋敷に住めるなんて。聞けば魔物避けの結界やら貴族専用の装備や効果もあったりと建物にはあるらしいのだ。


 「グゥウォンーー」


 おそらく時折聞こえてくるのは、ドラゴンの泣き声なのだろう。

 そのせいなのか立地的には街の中心に近いにもかかわらず周りは閑散として空き家が目立っていたのだ。


 「ドラゴンを、なんとかすればいいんだよね?」

 「はい。近隣の住民が安心して戻ってこれるのなら」

 「よし!ここに決めた!早速中には入れるの?」

 「はい。ただし結界の一つとしてパーティーでは入れず、階級がダイヤモンドクラスの方しか入る事が出来なくなっています。屋敷の主人に認められると許可した者のみが入れます」


 それなら問題ない。ダイヤモンドクラスに前回の戦闘ですでに上がっている。


 「なら俺だけで入るとしよう」

 「えっ?ダ、ダイヤモンドクラスなのですか?この街には1人もいないと聞いていた物ですから」


 メイド姿の女性が魔法を唱えると門には紋章が浮かび上がりそこに手を合わせるとーーー

 中庭へと一瞬で移動していた。魔法ってやっぱりすごい。


 ゆっくりと屋敷のドアへと近付いて行く。

 屋敷は西洋風のちょっとした宮殿のようになっており、舞踏会でも開けてしまえるくらいに広い。

 

 3人で住むには広すぎるな。便利な魔法でもあればいいけどさっきのメイドさんや執事でも雇いたいくらいだ。


 たしか地下とか言っていたっけ?


 メイドさんから言われていた重々しい鉄の扉のある部屋へと移動すると、地面には円になっている魔法陣が描かれている。

 ここに入ればきっとドラゴンとご対面だろう。


 地下で戦闘になったら屋敷が壊れてしまわないだろうか?

 ドラゴンといったら火を吹くけど……


 よし行くぞ!魔法陣に入るとーーーー


 目の前には大きなドラゴンが!?

 鋭い赤い目、銀の鱗、鋭い爪、鋭い牙。

 ドラゴンやっぱりすげー。


 銀色のドラゴンに感動していると思いがけない事態が起きた。

 

 「やっと来おったか。待ちわびたぞ。ワシの力を主の為に使うとしよう」

 「戦闘して打ち負かせて認めさせるんじゃないの?しかも言葉がわかるのはなんでだろう?」

 「お主にはすでにワシと話す力を与えられておるようじゃ。そもそもアイテムなんぞでワシは制御出来ん」


 もしかしてダンジョンで出会った女神からもらった力なのだろうか?ラッキーとしかいいようがない。


 「これからよろしくお願いします。なんてお呼びすれば良いでしょうか?」

 「そんなにかしこまるな主になるのだから。名前を付けた時にこの屋敷とワシの所有者となるのじゃ。さあ呼ぶが良い!」


 「シルバニア!」


 銀色だからって安直だったかなと思ったのも束の間ーーー


 「キュオーーーン!!」


 大きな咆哮と共に、シルバニアの体が小さくなっていく。

 え?なんで?小さくなっちゃったよ。何か俺が間違えた?


 「案ずるな。いつでも大きくも小さくもなれるようになったのだ。主がいないと無理だがのう」

 「ビックリした〜。それで小さくもなれず屋敷にずっと閉じ込められていたのか。じゃあ食事とかまったく取れてなかったんじゃないか。大丈夫か?」

 「ドラゴンは本気で眠りにつくと何年も目覚めんから大丈夫じゃ」


 やっぱりすげー。それが仲間になってくれたのだから心強いに決まってる。


 シルバニアを肩に乗せ門まで移動すると、


 「あっ!!ドラ…ゴン?」

 彩月が不思議そうに尋ねてくる。

 ドラゴンと聞けば凶暴で大きいだろうと想像するのが当たり前なのだからこの反応もうなずける。


 「おめでとうございます。男爵様」


 「なんだい急に男爵って?それに…頭を上げてよ。いったいどうしたの?」


 「先程も申し上げましたが、この屋敷は貴族専用の効果や装備がございます。逆にいうと屋敷に住めるのは強者だけなのです。ステータスでクラスを確認してみてください」


 【 クラス 】 バロン


 「バロン……?て何?」

 「爵位の中の階級が男爵になられたのです。貴族になられたのですよ」


 貴族って昔からの血統によるものじゃないのでは?

 しかもお金がある人ってイメージが俺たちの世界だったらあったけど、この世界では参考にならないらしい。


 「うそ!夏生くん貴族になったの?すごーいすごーい!じゃあお嫁さんも……」

 「私もエルフ属の中では貴族だぞ」

 「そうなのか?参考までにニーナの話も今度ゆっくり聞かせてくれ」

 「政略結婚しても私は構わないわよ……」

 いきなり何を言い出すかと思えば、政略結婚?エルフと人間ってあまり仲良くないと聞いているのに。

 真面目な顔して冗談言うとは。


 「絶対絶対絶対ダメーーーー!」

 彩月ちゃん本気にしたら……って目が怖いよ。

 

 それにしてもいきなり貴族と言われてもピンとこないし振る舞い方もわからない。

 そもそもこの大きな屋敷の管理はどうしたものやら……


 「メイドでも欲しいな……」

 恥ずかしい事を小さく呟いてしまったが聞かれていないようで安心した。

 

 「とにかく新居も手に入ったし一度宿屋に戻って引っ越し作業を進めよう。書類の手続きとかあるんですか?」

 「すでに屋敷が所有者として認めてバロンにクラスチェンジされてるので、こちらにサインをいただければ終了です」

 

 サインをして手続きも終わり俺たちは宿屋に戻ると、入り口では宿屋【夜光】の受付のティナが寂しそうな顔をして待っていた。


 「おかえりなさいませ…」

 「どうしたんだよいつもの元気は?/それになにかしこまっているんだ?」

 「この街では新しく貴族が誕生すると街中にお祝いの魔法のベルが鳴り響くのです。貴族さまには敬意を払わなくてはいけない掟なのです」

 「ティナ。俺にはいままで通りにしておくれ。そうだ!友達としてこれからもよろしく頼むよ」


 友達なら親しく話しても周囲の目があろうと関係ない。そんな差別的なものなどに縛られるのはごめんだ。

 向こうの世界の縦社会と同じようなものがあるのなら壊して一から作り直せばいい。

 まずはその第一歩が夜光から始まるのだ。


 「ティナにお願いがあるんだけど?」

 「ナツの頼みならなんでも聞くから遠慮なく言って!」


 良かった。ナツって呼び方はどうかと思うけど、元気になったようだ。


 「実は屋敷を手に入れたものの、これから毎回の食事を夜光に来るわけにもいかないしまずは専属の料理人を探して欲しいんだ。いずれ仲間も増える可能性もあるから」


 総務課の女の子たちの姿が頭の中でよぎる。


 「それにこんな世界だからこそ、信用できる人しかそばには置いておきたくない。寝てる間に襲われたくはないからね

 彩月ちゃんとニーナをチラッと見ると、ふたりはモジモジしながら頬をうっすら赤く染めて少し俯きながら上目遣いにこちらを見ている。

 ふたりの様子を不思議に思いながらいったいどうしたんだ?と考えているとやがてティナがーーーー


 「それなら適任者を紹介するよ!私がよく知っている人間だよ」

 「じゃあ早速で悪いんだけどその人に会う手筈を整えてもらえないか?報酬もそれなりに用意すると伝えてもらって構わない」

 「もうすでに会ってるけど?」


 ティナは何を言っているのだろうか?

 この世界に来てからまだ日が浅い俺たちが会った人間なんてほんの僅かしかいない。

 しかも信用出来そうな相手ともなるとさらにハードルは上がるというのに……

 そんな考えを巡らせているとなぜか彩月ちゃんとニーナが、まさか!?と言った表情を浮かべている。

 ふたりともいったいどうしたんだよ。そんな鳩が豆鉄砲でもくらったような驚いた顔をして。

 動物愛護の観点からそんな驚く事はもう起こらないぞ?


 「ティナ…はっきり教えてくれよ?」

 「それは……家事スキル、料理スキルのレアスキルを持っているーーーわたくしティナで〜す!」

 「ええええ!」


 あれ?ここは驚くところなのに彩月ちゃんとニーナはさっきの表情から打って変わって無表情になっている。

 

 たしかに夜光で働いているティナは、要領も良くテキパキと働いておりたくさんの冒険者が突然やって来てもほとんど1人でこなしていた。

 そんなスキルも存在する事に夏生はワクワク感が止まらなかった。


 「でも夜光の仕事はどうするの?ティナがいなくなると困ってしまうよね」

 「それなら問題ありません!仕事を探している人はたくさんいるので。それに貴族さまのところで働けるというのは私達にとっては出世なのです。喜んで送り出してくれるので安心してください」


 出世と聞いて若干の昔の会社での嫌な感覚を思い出すが後でティナには言っておこう。

 雇うわけではなく新しい仲間として迎え入れるのだと。


 「じゃあこれからよろしく頼むよ!」

 「こちらこそ喜んで!お世話になります。よろしくお願いします!」

 「そうと決まれば早速準備してみんなで新しい新居へと向かおう!」

 

 「「「おーーーう!!」」」


 これが後に世界に有名となる夏生ファミリーの誕生である。

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