第10話 国王からの依頼
時刻は真夜中の1時をまわったくらいだろうか。
俺たちパーティーメンバーは王宮内の一室である人達を待っている。
国王陛下と謎の王子様。
何者かに、つい先程命を狙われたふたりである。
待機していた部屋のドアが開くと意外な人物を先頭に数人姿を現した。
「なんでローランド様が国王様それに…王子様?とご一緒に来られたのですか?」
「私と国王陛下は昔からの冒険仲間なのだよ」
「ローランド、国王陛下などとむず痒い言い回しはやめてくれ。ここからは私が話を引き取ろう」
国王様の話の内容はこうだった。
まだ国王に即位される前の話。
他国との争いや魔族との戦いが激しい時代にふたりは出会った。
当時すでに剣聖の名が世間に知れ渡り有名になっていたローランドの元に王国からの依頼がよせられた。
『北の果てにある街が魔族に支配されている。王子とともに魔族を撃ち破り解放して欲しい』
「北の果ての街って……インフェルノですよね?」
国王様がコクリと頷く。
当時は王子の身であった国王様をパーティーに加えインフェルノの魔族鎮圧に向かったローランド一行は無事に勝利をおさめてそれ以降もずっとふたりは親交があるのだ。
「ここでもうひとりの王子について語らねばならない。わしには双子の弟がおってのう……」
インフェルノの討伐には王子ふたりが同行していたのだ。
現国王は長男であり次期国王を継ぐのが決まっていたし、ローランドについてもすでにマーブルの領主になっていた。
そこで王位を継げない双子の弟がインフェルノを統治する事になったのだ。
「生まれる時間がたった数分違うだけで、弟は王位を継げない事に絶望しわたしを酷く恨んでいたのだ」
インフェルノの領主になってからはほとんど王族の行事には参加せず前国王や前王妃の葬儀にすら出席しなかった。
「そして……後継ぎの問題は今も続いている。アナーシアきなさい。舞踏会では王子として紹介したが実は……ここにいるのは姫なのじゃ」
……ここはビックリするところ……だよね?
どうする?どうする俺?
気付いてましたー!とか軽く言える雰囲気じゃないんだけど。
それに話を聞くと女性でも王位は継げるらしい。
「だいたいの事情はわかりました。ただ……無礼を承知で2点だけ確認させていただきたいのですが。国王様は今日の事件も弟さんが関係されてると思いますか?それとお姫さまを王子様になぜ今まで偽っていたのですか?」
「弟からこの1年脅迫状が届いていたのだ。そして……我が国では魔王を倒したものには次期女王の伴侶となり国王になる権利を得て全権を握る事が出来るのじゃ。その可能性を無くす為に王子として育てていたのじゃが……弟だけは生まれたのが女の子だと前国王と前王妃に聞かされていたのだ」
そんな秘密が王家にはあったとは……
もちろんそれは一般市民には当然知らされていない。あくまでも魔王を倒した時に告げられるのだ。
「インフェルノの連中は今日の騒ぎの後、忽然と姿を消したけど領主様は出席してませんでしたよね?」
「予想外の者達が現れたからだろう。そなた達じゃ。あやつは昔から慎重でのう。結果はこの通りわしも娘も無傷で済んだ。礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
この国を統治する人に頭を下げられどう反応したら良いのか分からずあたふたしているとーー
「さらに厚かましいお願いで申し訳ないのだが……娘を、アナーシアを守ってくれないだろうか?」
おそらく自分の命はどうなってもいい。だけどお姫さまだけは守って欲しいとの親心だ。
「おふたりとも守り抜いて見せますよ」
俺は1枚の紙切れを国王に見せた。
舞踏会のダンス中にアナーシアから渡された紙切れには、
『お父さまを助けてください』
こんなお互いを想いやれる親子のどちらかを見捨てる事など出来るわけながない。
俺は疑惑の渦巻くインフェルノへ向かう事を決意し国王へと伝えた。
「北の果て一帯の調査とインフェルノ内に入る許可をください」
「やってくれるのか!では王宮直々の正式なクエストとして依頼しよう。そなたが護衛につけないよりも一緒に行動する方が安心だろう。旅にはアナーシアも同行させるのでよろしく頼む」
「へっ!?」
インフェルノで解決しようと思っていたけど…
さらに難易度が上がったよねこれ?
パーティー仲間を見渡すと、彩月ちゃん、ニーナ、井川さんまでもが非常に難しい顔になっていた。
暗殺を企ててるであろう本拠地に乗り込むのだから当然だろう。
そして国王様と握手を交わし……マジ!?
当然だけどレアスキル『コピー』が発動した。
このスキルが善人な国王以外が所持したら大変な事になる。なるほど、お姫さま以外に即位させたくないわけだ。
もちろん俺は善人だからコピーさせていただいた。
レアスキル【 覇王 】
・貴族を除く1市民に対して1度だけ絶対的な命令権を得る
・洗脳された者、奴隷に対しても無効化し上書きされる
おそらく市民の暴動を抑えたり、団結を促す力だ。
良い国王が非常時に発動するのだろう。
しかし……悪い国王がこの力を持てば他国の侵略や領地の粛正に使われかねない。
きっと俺には縁のない力かもしれない。
「では一旦宿に戻りすぐにでも出発します。暗殺失敗に終わったいま、すぐにでも次の手に出てくるに違いない」
国王様はローランド様が護衛にあたるので心配ないだろう。
挨拶もそこそこに宿屋へ戻ってきた俺達は急いで準備をする。
「それでなんでアナーシアが俺の部屋に女の子のままでいるの?」
「お父さまからナツキと片時も離れずにとのご命令よ。王子の姿では身動きがとれないので冒険者のアナーシアとして同行するわ」
「いやそうじゃなくて……女子の誰かの部屋にいないとダメじゃないやっぱり?これからシャワー浴びて着替えるとこだし」
「仕方ないわ。じゃあシャワーも一緒ね」
アナーシアが放った爆弾発言と同時に部屋のドアが開いてそこには彩月ちゃんを始めとすると美少女3人が驚愕の表情で立ち尽くしていた。
「まったくこの男は!性懲りもなくお姫さままで!」
あれ?被害者はこっちなんだけど?
パーティーリーダーにこの男とか扱いが酷いんですけど。
男女差別反対!人種差別反対!
アナーシアは女性陣に無理矢理連れていかれたので王都で手に入れたスキルを含めて久しぶりにステータスの確認をする事にした。
【 名 前 】 青空 夏生
【 クラス 】 バロン
【 レベル 】 50
【 攻撃力 】 150000
【 防御力 】 80000
【 魔 力 】 30000
【 素早さ 】 50000
【 スキル 】 全属性魔法 二刀流 紙一重 マジックポータル 状態異常耐性EX
【ユニークスキル】 コピー シュレッダー ホッチキス
博士
【レアスキル】 勇者の力 ★7 覇王 千里眼
【技能系スキル】ソードマスター★3 アイテム鑑定 王家の振る舞い
千里眼はいいとして……ホッチキス?
そんなのコピーした記憶がまったくない。
いつ?どこで?誰から?
博士に分析してもらおうとしたとこでドアが開いた。
「準備完了だ。北の果てに行くのであればエルフの谷に寄ってもらえないだろうか?迷いの森のさらに奥にある。きっと後々役に立つはず」
「ニーナが頼みごととは珍しいな。通り道に近いようだし役に立つのであれば案内をお願いしよう」
「ありがとう。この先の戦いにきっと必要不可欠になるだろう」
最初の行き先は決まった。
名前の通りエルフの王国。
【 エルフの谷 】
人間嫌いのエルフの国か……
一波乱なければいいけどきっと無理だろうな。
どうやらこっちの世界に来てから、トラブルに巻き込まれるフラグが立ちっぱなしだし。
まだ夜中の3時くらいだろうか。
人目につかないように俺たちはこうして宿屋を後にした。
* * *
「みんな大丈夫〜?」
「えー?空では風を切り裂く音以外まったく全然聞こえないよー!?」
「ノープロブレム」
「怖いに決まってるじゃない!」
「あわわわわ」
彩月ちゃんとニーナはまったく問題ないけど、井川さんはあわあわしてるしアナーシアは逆ギレだ。
お姫さまとゆうより『おてんば姫』だぞあれ。
いま俺たちはドラゴン【シルバニア】の背中で移動中だ。
狙われている人物と行動するならこれが一番いいはず。
マーブルでシルバニアを仲間にする事ができたけど、通常の貴族はドラゴンの身内などいない。
それに……ゲームやアニメで王道のドラゴンだよ?誰だって飛んでみたいに決まってる。
すごい勢いで飛んでいたので迷いの森にすぐ着くことが出来た。
「この森では上空すらも迷子になってしまう。ここからは私が案内しよう」
森の手前までくるとニーナが呪文を唱え始めた。
すると緑に生い茂っていた森の一部がまるで手招きしてるように迎えいれてくれた。
普通の人間では森の中に入る事すら出来ないんじゃないか?
少しの迷いもなくニーナを先頭に森を進んでいくとやがて草木が生えていない大きな広場のようなところに到着した。
ここで予想外の出来事が起こった。
新スキル【千里眼】が発動したのだ。
ここで魔物の群れに襲われる……仕組みや理屈抜きで頭が理解した。
「みんな!戦闘態勢に入ってくれ!頭上から奴等がくる!」
「この森が上から襲われる事など……」
ニーナは驚きを隠せないが、
「俺を信じてくれ!」
1分程経つと空から小さなドラゴンのような物に乗った魔物が10匹ほど急降下してきた。
襲われる事がわかっていれば奇襲にはならない。
準備万端で補助呪文を受けた俺とアナーシアは剣を振るいあっという間に敵を殲滅する事が出来た。
防御魔法で相手の魔法攻撃を防いでいたニーナも動揺している。
「この空が見える場所といい…迷いの森に…エルフの守りが……」
「エルフの谷が心配だ。とにかく先を急ごう」
不安そうにしているニーナの為にも急いでエルフの谷へと向かった。
総務課コピー係の最強勇者 スズヤギ @suzuyagi
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