少女は悪をなす。悪が悪であると知るが故に

同調圧力と相互監視により調和が保たれた、まさに「優しさに息詰まる世界」。

ビッグ・ブラザーのような強権的で正体不明の管理者がいるわけでもなく、党と人民の敵を憎悪する必要すらない、いやそうした激する感情すら廃された、独裁者すらいない普遍的な平和と権利に満ち足りた世界。
そこは節度があり実に健全で、それ故に息苦しい社会を、ふたりの少女の関係性から描写しているのは見事。

感情も情緒も情動もなくなれば、他者には興味なんてものが持てなくなる。効率的な社会性なら、昆虫のほうがよほど高度にプログラムされている。
関係性、というのは非効率的で非均質的な人間性から成り立つものであり、愛と種の存続は人としての別の側面なのだ。

殺伐百合が、なんらかの喪失と結びついた物語、であることを再確認させてくれる作品です。