無限に再生する肉体を持つ少女・蝶々と、死そのものを超越した不死者である女・月。
本題に入る前に、現実の蝶々の話を少し。
未熟な芋虫という形で世に放たれ最低限の感覚器のみで構成された体は、ひたすら栄養を蓄えることに特化しており、それは種としてのひとつの生存戦略ではあります。やがて成虫になるために蛹化し、どろどろの不定形な存在を経て美しい蝶々へと姿を変える。
蝶々とはそんな虫です。
このことから、ある文化圏では蝶々は霊魂そのものであり、肉体は滅んでなお魂の不滅性を象徴しているそうです。
まさに永遠を繰り返す少女・蝶々はその名の通り蝶々の化身なのでしょう。
月明かりに導かれ終わらない夜を飛ぶ蝶々。
だがその飛翔は、けっして月にたどり着くことはない。
この事実が絶対の不死者である月の傍らに寄り添う再生者・蝶々の悲恋を象徴しているようで、永遠を生きながら真に満たされることのない関係性を想像してしまい心打たれます。
限りある生を生きる人とは違う、不死故の苦しみが描かれた儚くも切ない短編です。