アイデンティティの鍵を一緒に探さずにはいられない中毒性のあるミステリー

 郷倉四季さんの書く小説はご本人も仰っている通り、ゆるく繋がっています。

 そして、どの作品から読んでも大丈夫なのです。

 ちなみに、こちらの「西日の中でワルツを踊れ」の主人公は「南風に背中を押されて触れる」という作品の登場人物として出てきた西野ナツキです。

 その西野ナツキが記憶喪失の状態で始まる物語が今回の「西日の中でワルツを踊れ」なのです。

 
「テーマはアイデンティティ。
過去と現在のアイデンティティを奪われた人間はどうなるのか?」

 
 それってどうなるんだろう……と最初からその謎を追っていく様な感覚でした。

 
 特に西野ナツキは「南風に背中を押されて触れる」に登場しているので、記憶を失ったとはいえ、そちらを読めば何か鍵を見つけられるのでは!?と思い、私は「南風に背中を押されて触れる」と今回の「西日の中でワルツを踊れ」を行ったり来たりしました。笑

 それどころか、あるシーンでは「岩田屋葛藤憚その①~俺がそばで見ててやるから~」のあの場面では!?とそちらにも飛んだりして、我ながら作者さんの思惑通りの読者だったのではないかと思いました。笑

 その位、今回の「西日の中でワルツを踊れ」は郷倉四季さんの小説の中で1番ミステリー要素が強くて、最終話の時は「え?もう終わり!?」と思ったほど、あっという間に感じました。

 でも、全78話あるんです!!

 それで「あっという間」と思えるのは、ミステリー特有の次が気になる展開と郷倉四季さんの書く文章の読みやすさなのだと思います。

 すぐに「次は?」「次もあるんですか?」と聞きたくなってしまうほど、読み終わった今もまだ西野ナツキについて考えてしまう私がいます。

 こちらを読むとあちらも読みたくなって、あちらを読むとまたこちらを読みたくなる。

 そんな中毒性が更に深まった作品でした。

 
 そして、私には気になることがあります。

 こちらの「西日の中でワルツを踊れ」から読んだ方は、次にどの作品を読むのでしょう。

 そこまで知りたくなってしまう作品です。