著者の別作品、『南風に背中を押されて触れる』から繋がる物語です。
『南風〜』で衝撃的な事件を巻き起こした青年・西野ナツキが、記憶を失って病室で目覚める。
…ものすごく、気になる展開じゃないですか(笑)。
本作は、迷えるナツキ青年が、自分を知っているはずの様々な人物と話したり、時には霊の力を借りたりして、事件の真相を追っていく物語です。
失った記憶を辿る時。
そこに見るのは、かつての自分が失わないために足掻いた、何よりも大切だったもの。
ラストは衝撃の事実が明らかになると同時に、ある男の心象を描いた、とても印象的な光景が現れます。
事件の真相と記憶が絡み合い、これまで登場してきた人物たちの動きが、思惑が絡み合う。
一部すっきりすると同時に、まだ明かされない謎も気になって、また続きを読みたくなります。
岩田屋町物語。
なんて壮大なご近所ミステリーなんでしょう!
郷倉四季さんの書く小説はご本人も仰っている通り、ゆるく繋がっています。
そして、どの作品から読んでも大丈夫なのです。
ちなみに、こちらの「西日の中でワルツを踊れ」の主人公は「南風に背中を押されて触れる」という作品の登場人物として出てきた西野ナツキです。
その西野ナツキが記憶喪失の状態で始まる物語が今回の「西日の中でワルツを踊れ」なのです。
「テーマはアイデンティティ。
過去と現在のアイデンティティを奪われた人間はどうなるのか?」
それってどうなるんだろう……と最初からその謎を追っていく様な感覚でした。
特に西野ナツキは「南風に背中を押されて触れる」に登場しているので、記憶を失ったとはいえ、そちらを読めば何か鍵を見つけられるのでは!?と思い、私は「南風に背中を押されて触れる」と今回の「西日の中でワルツを踊れ」を行ったり来たりしました。笑
それどころか、あるシーンでは「岩田屋葛藤憚その①~俺がそばで見ててやるから~」のあの場面では!?とそちらにも飛んだりして、我ながら作者さんの思惑通りの読者だったのではないかと思いました。笑
その位、今回の「西日の中でワルツを踊れ」は郷倉四季さんの小説の中で1番ミステリー要素が強くて、最終話の時は「え?もう終わり!?」と思ったほど、あっという間に感じました。
でも、全78話あるんです!!
それで「あっという間」と思えるのは、ミステリー特有の次が気になる展開と郷倉四季さんの書く文章の読みやすさなのだと思います。
すぐに「次は?」「次もあるんですか?」と聞きたくなってしまうほど、読み終わった今もまだ西野ナツキについて考えてしまう私がいます。
こちらを読むとあちらも読みたくなって、あちらを読むとまたこちらを読みたくなる。
そんな中毒性が更に深まった作品でした。
そして、私には気になることがあります。
こちらの「西日の中でワルツを踊れ」から読んだ方は、次にどの作品を読むのでしょう。
そこまで知りたくなってしまう作品です。