母親が帰ってきて欲しいと願った少年の物語。
そして、母親が帰ってこないと悟った青年の物語。
この作品は一人の人間の成長を見事に描いている。
短編という短い文字数の中で前編と後編に分けた意味があるのか。否、分けなければこの作品は完成しない。
前編では少年のあどけない口調で物語が進んでいく。自身の境遇や人物像などを織り交ぜながら、誰もが体験した夏休みの一幕を綺麗に描いている。
そして、後編。少年は歳を重ねる。
語り口は酸いも甘いも噛み分けた大人なものへと変わり、細かい説明なしで、少年が成長したことを表現した。その発想には感服させられる。
ストーリーは優しさと暖かさに溢れ、少しの寂しさと懐かしさがとてもいいスパイスになっていた。
このノスタルジックな作品を、ぜひ一度読んでいただきたい。そうすればあなたの心でも、黄色いハンカチがひらひらと踊りながら、優しく唄ってくれるはず。